月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

「フェロン」(後編) --- スティーヴン・ドーフ迫真の演技

2008年09月26日 | ◆ハ行&バ・パ・ヴ行

   

映画『フェロン』のご紹介の、いよいよ後編です。後半、いよいよ二人を取り囲む状況に異変が起こりシューの中は緊張感が増していきますが、そんな中でS・ドーフとヴァル・キルマーの間には不思議な信頼関係が育まれていきます。

事後従犯でさらに刑期が延びてしまったS・ドーフ。(この映画をご覧になっていらっしゃらない方達のために役名ではなく俳優名でご紹介しています)果たして刑務所の中の特別監房シューの中庭で生き残っていけるのか・・・・・

彼女に生活の安定の保証を与えたいと思い、たった一人で一から起業して9年間一所懸命働いてきた男。そんな男を誇りに思ってきた女。愛し合い助け合い子供も慈しんで育ててきた二人がやっと挙式しようという矢先に人生が全て狂ってしまった。受刑囚となった夫。受刑囚の妻となっても社会の中で戦い続け刑務所まで通い続けてきた女。

そんな彼女と子供が自分の全てだったウェイド・ポーターという男をスティーヴン・ドーフが演じているわけですが、唯一の支えだった妻子に捨てられいまや絶望の淵に立たされてしまったわけです。

ここの囚人たちの世界は派閥均衡の緊張がいつ崩れるか分からない。

どこかのグループに所属し仲間を持つことで自分を守ってもらえる程、そこは甘い世界ではありません。グループの上方からヤレと言われたことは絶対やらなければならず、やらなければ自分がヤラレる。いかに理不尽でも命がけで命令されたことをやった者は生存率が高くなるが、裏切り者は容赦なくヤラレてしまう。そういう忠義も仁義もないサヴァイヴァル・・・・・

護送車で囚人をメッタ刺しにした犯人は刑務所内で絶大な力を持つ男。「白人が正義」と称される世界でその男の命令に背いてズルをやった男はヤラレ、

最後まで密告しなかったS・ドーフは株を上げた。
刑務所内の最大派閥を仕切っている男からグループに入れば守ってやると誘われるS・ドーフ。が、そもそも護送車で囚人をメッタ刺しにしたのはこの男だ。この男を追い詰めようとする看守長との取引に応じなかったばかりに監監視たちに睨まれ事後従犯の濡れ衣を着せられて刑期がさらに延びたのだ。



この看守長のやっていることは違法で出鱈目なものだが・・・・どうしてそうまでしてシューの囚人たちを虐待するのか。
実はこの看守長、刑務所の外でも力を持っている。なぜなら、ここの刑務所のある街の半分が刑務所で働く人間だで、看守長は彼らを「家族と変わらない」と思っている・・・・・困ったことがあれば、何でも言ってくれと言う親分肌。



離婚して引き取った息子を愛し一生懸命主夫もこなしている。その息子もまた、なかなか素直に育ったまじめな孝行息子です。

こんな家族思いの男がなぜ、刑務所の中で違法なリンチを囚人に行い、執拗にシューのリーダーを目の敵にして狙っているのか。良心の呵責と発覚を恐れる仲間や部下を説得し脅してまで。

そんな看守長の息子が交通事故で搬送先の救急病院に重体となり、「どうしてこんなことに・・・」と事情を聞けば、

飲酒運転で3度も人身事故を起している男に轢かれたという。男は無事だが、ノーブレーキで轢いたのだと。警官が加害者を守っているので近づけないと聞き看守長の顔が変わります。

加害者は涙を流して詫びますが・・・・・

顔色一つ変えず、加害者を震え上がらせてしまう。お前の車体番号を調べれば住所も分かる。お前が刑務所で生き地獄を味わっている間にお前の家族にも同じ思いをさせてやろうかと。

駐車場で、息子のもしもの事があったら「耐えられない!」と泣き崩れる看守長の姿と鬼の看守姿は重ならない。我が子の無事を神に祈る父親の姿がそこにあるのみです。

同じ頃、監房の中でS・ドーフは悪夢にうなされるようになります。事故だったとはいえ、人を一人殺してしまった・・・・その相手のことが忘れられないと。家を出た時点で逃がしてやれば良かったのだと。

悔悟の心・・・・、過失とはいえ人の命を奪ってしまったことの罪の重さを初めてS・ドーフは身にしみて思うようになる。
けれど、ヴァル・キルマーは、



「重要なことは、家族を守ったということだ」と言います。
そして、S・ドーフに問われ、なぜ妻子を殺した相手を殺すだけではすまなかったのか、初めて語るヴァル・キルマー・・・・

この場面、ぐさりときました。先日見た『パーフェクトゲーム』の犯人さながらの狂気による罪と悲しみの浄化です。「想像を絶するということ」の衝撃と絶望で、感情が凍りつき心も破壊されてしまったのですね・・・・

人間というのは、壊れ物なのです。

そんなヴァル・キルマーの元に、いまでも面会にくる男が一人。

刑務所の看守として20年、ヴァル・キルマーと付き合ってきた男です。いまは退官していますが、家族よりも長い付き合いの中で17人もの人間を殺して終身刑となったヴァル・キルマーと深いところで繋がっていると思われる人物・・・ヴァル・キルマーは「もうここには来るな」とそっけないのですが、いったい二人の間にどんな絆があるのか。

そう、この『フェロン』という映画には、さまざまな絆が描かれていましたね。

母子家庭で苦労して育ててきた母の娘への愛・・・
娘を愛していればこそ、その娘に愛している男と別れるように説得しようとする心情が痛くないはずはありません。



必ず帰ってくるという言葉を信じて待ち続ける小さな子供。
息子と父親との絆・・・・

そして、自分の弱い心と戦って本当に求めていること、本当に大事にしたいことのために「いつまでも待っている」と言いにきた妻。
男と女の、夫と妻との絆は愛と信頼あってこそでしょう。


そしてここにも絆によって生かされ生きてきた男が一人。
看守として囚人に対して人間的に接していた「甘さ」のために大事なものを失ってしまったという過去を持つ男は、自分に残された最後の絆である息子をまさに失おうとしていたのです。



刑務所内の異様な空気・・・・を察したヴァル・キルマー

そしてこの二人の間の絆はどうなるのか・・・

緊張のクライマックスと深く染入る絆、
友情に誠を尽くす人間の心・・・・

 

ラスト近くのこの若い看守の言葉は、
看守長の言葉と表裏一体でした。

「甘っちょろい考えでいると、どうなるか。一緒の車に乗っているか、乗っていないか。それが、大事なんだっ」というような台詞でしたが、この若い看守が赴任してきたときに看守長が叱責した言葉も実に印象的でしたが、この若い看守の言葉はとても心に迫ってきます。

そして、この初老の男の表情・・・・

絆の中でも得がたいもの、それが友情であるならば、≪本当の友達≫を失った人間の言葉にならない思いが、そこには余すことなく表れていたように思われてなりませんでした。
胸に込み上げてくるものがありましたね・・・そうした友を持つことができた人間の喜びと感謝の思いは、深い絆から生まれる祈りに通じるものかもしれません。

この映画、是非じっくりご覧になっていただきたい1本です。ヴァル・キルマーが出ている映画だとつい力が入ってしまいますね。ちなみに2008年制作アメリカ映画。リック・ロマン・ウォー監督。
次回は、この映画感想の中で挙げた『パーフェクトゲーム/究極の選択』のご紹介をしたいと思います。

★ご参考までに。→スティーヴン・ドーフ(Stephen Dorff)

http://www.starpulse.com/Actors/Dorff,_Stephen/Videos/?vxChannel=Movie+Trailers+-+VD+-+On+DVD&vxClipId=2430_997152

★ご参考までに。→ヴァル・キルマー(Val Edward Kilmer)
http://csx.jp/~piki/val-p.html

 


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