1952年製作日本映画
監督:森一生
脚本:黒澤明
撮影:山崎一雄
この映画は時代劇の中で好きな一本で、
何度見ても、ぞくぞくしながら見入ってしまう・・・
★映画「激闘鍵屋の辻」⇒http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD27484/index.htmll
時代劇での仇討ち決闘と言えば、
この荒木又右衛門が助太刀した鍵屋の辻の決闘と
堀部安兵衛が助太刀した高田馬場の決闘を思い浮かべるけれど、
前者は義理での助太刀、後者は人情からの助太刀という違いはあれど、
武士にとって、仮に出来ることならしたくない仇討ちでも、
また、返り討ちに遭うかもしれない仇討ちでも、
武士である以上、やらなければいけないモノだった。
助太刀を要請されれば、武士である以上、
断るわけにはいかないモノでもあった。
そして、≪本懐を遂げるまで≫、
仇討ちをする側は相手を追い続けなければならず、
追われる側はどこまでも逃げ続けるか、
腕に覚えがあれば受けて立つしかなかった。
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(追う相手の所在をやっと突き止め、その動きをとうとう探り出し、いよいよ決闘という日を前にして、どこで決闘するか作戦を立てる荒木又右衛門一行)
仇討ちの委細をご存じない方はリンク先をお読みいただくとして、
仇討ちは、追う側も追われる側も武士である以上、
いかに必死であるかを念頭に置かないと、
決闘、すなわち殺し合いの瞬間を迎えるまでの双方の状況に、
想像力が及ばないものだ。得てして効果音つきのちゃんばらに慣れていると、
その怖さがわからない。
冒頭の画像のシーンでは印象的な台詞がある。
果し合いを前にして緊張する森孫右衛門役の加東大介が
お札を手にして拝むシーンが出てくるのだが、
その時、三船演じる荒木又右衛門が、
「神仏は尊いものだが、恃みとするものではない」
と孫右衛門に語る場面・・・・。
この映画、忘れた頃に観ることが多いけれど、
何度も観ても、観るたびびに
ここの三船の台詞に心が動かされる。
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(鍵屋の辻で待ち伏せしているとき、敵の様子を見に行くのに鉄兜のままであることに気が付かないくらい緊張している)
いかに武士とはいえ、時は太平の世。
剣術の稽古も竹刀か木刀。
いかなる使い手といえども、実際に真剣で人を斬ったことなどない、
そういう時代だったときの仇討ちである。
多くの俳優名優が演じてきた荒木又右衛門ではあるけれど、
史実の荒木又右エ門もまた、柳生の剣術の使い手とされるけれども、
実際に人を斬ったのは、この仇討ちのときが初めてだったという。
この映画は、そういう史実に沿ったものとして描かれているだけに、
双方の緊張感もひとしおで、
特に、荒木又右衛門側は総勢4人で倍する相手と戦う上に、
上意討ちを命じられた当人の渡辺数馬を始めとして、
三船敏郎扮する荒木又右衛門以外は、どうにもならない。
数馬は、美男で名高かった弟を殺されているのだが、
その衝撃や怒りや悲しみを忘れるくらいに、
真剣での果し合いに緊張し体が硬直している。
それに比べて、数馬の弟にストーカーし
思い通りにならないからといって殺して逃げている河合又五郎側には、
彼を守る助太刀として剣と槍の使い手が揃っている。
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その剣術師範の河合甚左衛門を志村喬が演じているが、
この甚左衛門、剣術だけではなく人物が優れている上に、
相手の助太刀をすることになった荒木又右衛門とは、
同じ大和郡山藩で同じ剣術師範で
甚左衛門の方が上席という立場ながら、
二人はお互いを認め合う友人同士・・・・
それが、バカな甥のために、
殺しあわなければならなくなったのだから、
いかに武士の立場、その面目というものが重かったか。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/8b/9abe5e81b51ac97265aefb665b4a7901.jpg)
鍵屋の辻で何としても討ち取らなければならない。
そこで、甚左衛門と槍の使い手の桜井半兵衛は俺が斬ると、
そのためには、何としてでも何としでも、
半兵衛に槍を持たせるなと厳命する三船又右衛門。
その緊迫した厳命に緊張する二人・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/26/00359df9c92d2654e30a5e840567d053.jpg)
前方の宿場の様子を見張りが探り、
大丈夫そうだということで、
いよいよ鍵屋の辻に入ってくる河合一行。
ここを抜ければ東海道に出て、さすればいよいよ江戸入りで、
そうすれば、もう大丈夫という目算なのだが・・・・
江戸を処払いになっている分際で江戸に戻ろうとするところが、
いかにもぼんぼん育ちの旗本である。
そのおバカなボンボン河合又五郎を演じているのが千秋実。
昔見たときは、ちょっとミスキャストかと思ったものだが、
こうして観ると、やはりはまり役かもしれない。
周囲の気持ちが全然分からない自己中男の河合又五郎だが、
それも苦労なく育った旗本育ちのせいであるならば、
もし、数馬の弟に片思いなどせずに済んでいたなら、
茫洋とした暢気な旗本男で
人生を終えていたかもしれないのだから、
茫洋とした千秋実の個性と
相通じるものがあるなァと。
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(渡邉数馬役は、片山明彦)
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外からは見えないようにじっと息を殺して潜む
数馬と荒木又右衛門・・・・
馬のカッパカッパという足音だけしか聞こえず、
それがすぐ側まで近づいてきたとき、いきなり、
馬が進むのを嫌がりヒヒ~ンと啼き、共の者たちがドウドウと言いながら馬をなだめる騒ぎとなるも、二人は身じろぎもせず
外の様子に全神経を集中する・・・
甚左衛門が乗る馬が来るまで・・・
半兵衛の使う槍を持った共の者らが行き過ぎるまで・・・・
そして、戦いの火蓋は切って落とされた。
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(よろめいて石垣にもたれてやっと立っている、ゼエゼエ、ハアハアの森孫右衛門役の加東大介)
言いつけ通り二人がかりで
桜井半兵衛の槍を持った相手めがけて襲い掛かるも、
体が硬直し、息が切れ、喉が渇いて、
立っていることもやっと・・・・の二人。
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気が付けば、仲間の一人が斬られ、
助け起こすも、「槍、槍、槍を~~~~」
と言って息絶える。
その槍を受け取れぬまま、
息絶えたのは、半兵衛も同じだった。
桜井半兵衛もまた、「槍を、槍を、」と叫びつつ、
荒木又右衛門に斬られて死ぬ。
作戦通り、
敵方の主力の二人を斬った荒木又右エ衛門だったが、
「お前は、他のことには目をくれず、ただただ河合又五郎だけを狙え」
と言われた数馬だったが、
震えて体が思うように動かない。
無論、相手の河合又五郎も腰が引けて刀は振り回すけれども
ただただ逃げ回るだけなのだが・・・・・
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(「数馬、ちゃんとしろ!」と怒号を浴びせる荒木又右衛門)
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(腰が引けて立っているのもやっとの数馬)
この場面、観ているこちらも
どっと疲れて体が動かなくなったような錯覚に捉われる。
頭では、「さっさと動け」と数馬に語っているのに、
動けない数馬の心身の状態が
まるで自分のことのように感じられてくる。
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全てが終ったとき、の荒木又右衛門の顔・・・・
三船敏郎の顔には、額から噴出した汗が、
玉の様な汗が流れていた。
何度観ても、
肩に力が入る映画です。