月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

「ランダム ハーツ」---(1)

2008年06月24日 | ◆ラ行

息詰まるような心理サスペンスと上質なヒューマンサスペンスが合体したような映画だと改めて思う。1999年制作、シドニー・ポラック監督作品。

映画三昧リストの欄の一言感想でも書いたけれど、大根役者だった「推定無罪」や「心の旅」といった作品と違って、ハリソン・フォードにとって演技開眼となった映画なのではないかと思われるくらい、サスペンスフルなエンターテイメントとして成功している映画。
競演してくれたクリスティン・スコット・トーマスの演技が素晴らしいための相乗効果だろうか。

★そのクリスティン・スコット・トーマスの演技は、別立てで「ランダム ハート(2)」でアップしたいと思いますので、こちらでは、キャスティングについて感心させられたので、そのことに絞って書くことにしました。


この映画の成功のキーは何といってもキャスティングにある。この映画を観るのは何度目か忘れたが、心憎いほどのキャスティングだと感服させられてしまう。

配偶者にそれぞれ裏切られていたことを知って苦悩する主役二人の男女ハリソン・フォードとクリスティン・スコット・トーマス。
彼らのそれぞれの苦悩に見合うミステリアスで存在感ある役者をそれぞれの配偶者に配せるかどうか。
その二人の役者イメージで不倫関係をリアルにイメージできるかどうか。そこがこの作品の鍵でもある。

ハリソン・フォード扮する正義感のある刑事(内務調査の刑事というところがミソ)は妻を裏切るなど思いも付かないフツーの愛妻家。


(ハリソン・フォードの妻役のスザンナ・トンプソン)

この妻はファッション関係の仕事をしており、出勤前に夫をベッドに誘う粋なゆとりも見せる女性。子供はないが夫婦共働きの家庭は円満に見える。

一方のクリスティン・スコット・トーマスが演じるのは選挙前の女性政治家。こちらは一般の家庭とはちょっと異なるが、父親が政治家だったという家庭で育った娘ということで生育環境も推測できる。親の七光りではなく実績で選挙を戦おうとしているところからも彼女の気性と自己を律する生真面目な性格がわかるが、


(クリスティン・スコット・トーマスの夫役のピーター・コヨーテ)

そんな政治家の妻を嫌味なく支え公私共にパートナーシップを育んできた夫の存在は大きい。うまく育っている愛娘が一人いてこちらも家庭は円満。

そんな二つの家庭のそれぞれの夫と妻が実はお互いの配偶者に裏切られていたという事実。それを、飛行機の墜落事故による二人の死亡によって知ることになるのだから残された方もたまらない。いまさら事実が分かったところで離婚も出来ないから。

その受け入れがたい事実を受け入れる過程で残された夫と妻の苦悩が深まっていくとき、見えていなかった真実に出会っていく・・・・。その重苦しさに見合う存在感のある役者を配していけるかどうか。
円満な家庭を保持してた一方で二人だけの愛の巣で二人だけの時間を持っていた男と女。その二人にどんな俳優と女優を配するかで映画の質が決まってしまう。


(この二人、映画の冒頭にちらっと出てくるだけ!)

そういう役どころにスザンナ・トンプソンとピーター・コヨーテを配したところが作品を成功させるキーになったのでしょう。
冒頭にしか出てこないのに!映画全編を通して主役の二人の心の中で存在し続けるわけだから、半端な存在感では絵空事になってしまう。絵空事になってしまうかリアルになるかはそれこそ役者の存在感というものかもしれないが、まさにキャスティングの成功だという所以だ。


(監督のシドニー・ポラック)

クリスティンが演じている女性代議士ケイの選対を司っていた男、選挙の世界に生きる男という意味でも妙に映画の外の現実世界を背負っていて、それが映画に奥行きをもたらしているのだが、その男の役を監督のシドニー・ポラック自身が演じているところもまた、巧妙なキャスティングとなっている。

ケイの周辺の人物でもう一人ユニークな存在感を発揮しているのが、ボニー・ハント。ケイの選挙を夫婦で骨身を惜しまず応援してくれている親友の女性ウェンディ。


(クリスティン・スコット・トーマスの親友夫妻の妻役を演じるボニー・ハント)

そんな彼女にアットホームな女優ボニー・ハントを配することで、映画を主役二人の息詰まるような緊迫した心理劇のみに堕ち入らないよう、「現実」にケイを引き戻す役目を担って見事。
コメディタッチな彼女の存在感は、映画の中における「世界」の多重性と重層性を観客に感じさせる一つの大事なキーになっているのだから感心させられる。が、このボニー・ハントもまた夫と愛の巣を一時持っていた相手だったというところは、さすがにやりすぎかもしれない。

この二人のキャスティングが秀悦なのは、ケイの中で「重」だったシドニー・ポラック扮する選対の男が映画後半で「軽」となり、前半に「軽」だったシドニー・ポラックがやがて「重」に変換されるところ。二人ともケイの心理の変化によって映画が心理劇に陥ることを防ぐという大事な役回り。この難しい役回りをこなす絶妙なキャスティングだと感服せられてしまった。

そして、ハリソン・フォードの周囲の配役もいい。
まずは相棒で彼をよく理解しているパートナーの黒人刑事アルシー役にチャールズ・ダットン。


(ハリソン・フォードに猜疑心をもたれる相棒の刑事役のチャールズ・ダットン)

事件の追跡と妻の不倫の追跡という二重苦で心のバランスを逸していくハリソン・フォードという相棒を案じる刑事という役どころにチャールズ・ダットンという俳優を配しているところが、この映画を実にスリリングにしているからです。
一見刑事ドラマ的ながら実は刑事ドラマじゃないというサスペンスフルな演出も見事ながら、それは実に上手いキャスティングゆえだと思う。彼の顔を見ていると、いまにも血みどろの追跡劇が起こりそうで絶妙な配役。
ご参考までに⇒http://www.fmstar.com/movie/c/c0018.html

そしてもう一人、デンゼル・ワシントンに良く似た風貌の黒人俳優、名前が思い出せないけれど、この俳優も心憎い。

この殺人を犯し逃げおおせている男をハリソン・フォードが執拗に追跡するのは彼の刑事としての仕事だが、この殺人犯を演じる俳優も難しい。刑事ドラマになってはいけないのだから。
そうならないためのキャスティングにしなければならないのだが、同時に今にも何かやらかしそうでスリリングな存在感も必要というところで、はまり役だった。何という名前だったか・・・
               ↓
   ★デニス・へイスバート

犯罪の目撃者でありながら口を閉ざしている黒人の少女もなかなか良かった。

まだまだあるけれど、このように細かいところまで計算されたキャスティングというのは、実に心地よいもので、こういう映画は間違いなく面白い。また観ようかなと思うほど。

デーヴ・グルーシンの音楽もよかった。

映画の香りとしては、製作総指揮が「ジョー・ブラックをよろしく」のロナルド・L・シュワリーというのが納得できるような上質さだと改めて感服。

 

★6月13日の日記ですが、画像をPCに取り入れることができるようになりましたので画像を本日掲載しました。


最新の画像もっと見る