月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

「消えた天使」(原題「The Flock」)

2008年12月12日 | ◆カ行&ガ行

2007年 
監督アンドリュー・ラウ

 

これを観るのは三度目です。先行上映で一度、二度目は英語版。今回が字幕付きで三度目。

見れば見るほどやりきれなさ以上に怖さを感じるのは、こうした映画が製作される背景に、映画以上におぞましい現実があるせいかもしれません。

原題の「The Flock」というのは、性犯罪者として登録されている人たちの事を指す言葉だと知ったとき、思わず唸らされたものです。
flockというと、通常は「群れ」といった訳語に出会います。羊の群れ、渡り鳥などの群れ、そこから群集なども意味しますが、牧師さんに対置させてキリスト教信者の団体を指したり。
それが、なぜ「性犯罪者のリスト」になるのかと。

言葉はいろいろなイメージを喚起するので、隠語や俗語もそのイメージから発展したものが多いけれど、さすがにこのflockには唸らされました。

本作の監督は、さすがに映像にはこだわりがある監督だと映像を眺めながら思いましたが、風景一つとっても、繰り返されるそれらの風景も実に重苦しくてやりきれなかったですね。

リチャード・ギア扮する性犯罪保護監察官の心象風景であり、こうした犯罪のやるせなさを象徴する風景でもあるからですが、たまらない映像でした。ラブロマンスの中で映し出されるなら、また違った意味合いを持たされ、場合によっては「美しい」とさえ感じるかもしれない風景かもしれない。けれど、本作の文脈の中で切り取られた風景というのは、登場人物の心を映し観客の心を映すものとなったとき、実に怖いものでもあるということを痛感させられます。

さて、本作では、
冒頭のリチャード・ギアの心象、その闇と光が病的なまでの切迫感でドラマに併走します。そんな彼を現実に引き戻し、映画の中でも「現実」という次元を担保しているのが、彼の部下でもあるこちらの女性捜査員。

彼女の存在は観客の目線を安定させる唯一の存在。
彼女なくしては、わたしたちはリチャード・ギアの心の闇、葛藤、その苦しさに飲み込まれていってしまう・・・・
クレア・キャサリン・デーンズ(Claire Catherine Danes)という女優ですが、ビレ・アウグスト監督の地味な映画『レ・ミゼラブル』(「Les Misérables」)が彼女を最初に見た映画で、印象に残っているのは、『めぐりあう時間たち』(「The Hours」)です。

本作に出演している俳優たちの多くは若いのですが、彼らの熱演と脇を固めている俳優たちが皆、目立たないけれど硬派なイメージの俳優や女優だったので、リチャード・ギアが浮かないで済んでいるかもしれません。それほど、リチャード・ギアは難しい役柄だったのではないかと。



マット・シュルツ(Matt Schulze)は、
やはり血が似合いますね・・・・・



ラッセル・サムズ(Russell Sams )は、
こういう映画にぴったりの俳優で・・・・

特筆したいのは、こちら。
ケイディ・ストリックランド(KaDee Strickland)。
凄みがありました・・・・・

映画としてはキャスティングが良かったと言えますが、
本作が、暗くて重いアメリカの現実を現した問題作であるという、その内容を問題にすべき映画だと第一義的には思います。

性犯罪の現実と、その背景と対策を、
対岸の火事と思っているフシがある日本・・・・・
アメリカの実態は驚くべきものですが、
加害者の人権が偏重され、子供や未成年者に対する暴力的性犯罪を犯した者に対してプライバシー保護が優先されているような日本でも、こうした性犯罪は増えているわけです。
犠牲者のことを思うと、
鉛を呑み込んだような思いになります。

性犯罪者は「集団強姦」「単独強姦」「わいせつ」「小児強姦」「小児わいせつ」の5つの類型に分類され、同一罪状と他の罪状についての再犯率の調査の結果、同一罪状の再犯では、強姦・わいせつ共に、成人対象の性犯罪より小児対象の性犯罪の再犯率が高いことが分かっているそうです。
「集団強姦」は再犯率が低く、他の罪状の再犯率については、「わいせつ」の再犯率がもっとも高くその他類型の再犯率はほぼ同程度とのこと。(保護観察者等等に対する平成15年までの追跡調査)

子供を持つ一人の親として、
こうした犯罪がなくなることを祈念してやみません。

監督のアンドリュー・ラウが切り取ったアメリカ・・・・
本作は、そうした映画でありながら、同時に、人間がいかに壊れやすいものであるかということをわたしたちに投げかけているように思われました。他人事ではないということです。映画で描かれたような暴力的性犯罪を憎むのなら、家庭をしっかり守ることですね。

夫婦相和し、子供たちが安心して暮らせる家庭にする。数分に一組が離婚する時代ですが、そんな脆弱な家庭から暴力をなくすには、もう少し隣人に対しての配慮が求められるのでは・・・・
暴力といかに向き合うかという自衛の精神を育んでいくことも、
いまや親の努めだろうと思います。

 

 


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