世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

アップル・ミント

2015-12-10 03:33:06 | 月夜の考古学・本館
 アップル・ミント Apple mint

シソ科ハッカ属の多年草。顔を近づけると、リンゴに似た甘い芳香を感じます。喫茶店などでアイスクリームを頼むと、よくてっぺんにアップルミントの葉っぱが飾られてます。香りもさながら、見るだけでも清涼感をくれる、美しい植物です。
 さてこの詩は、夫と一緒にあるお宅のエアコン掃除に行った時に、思い浮かびました。夫がお客様の家に見積もりに行っている間、私は外で、アップルミントが植えてある花壇の側にしゃがみこみ、しばらく草と話をしていたのです。
 あのアップルミントの茂みの中には、きっと目に見えない美しい魂が潜んでいたに違いありません。その甘くすがすがしい香りの中にいると、胸の中のもやもやがはれて、お日さまが照るように、素直な本当の自分の言葉が出てくるのです。
 長年夫婦をやっていると、いろいろなことがあります。記憶のガラクタの中を探れば、時々ムカデのような心の傷がうごめき出してきて、それがうずくようにささやくこともあるんです。(あのとき、あんなことを言ったよね。あんな仕打ちをしたよね。どれだけ傷ついたか、あなたにも思い知らせてやりたい……)ってね。でも、不思議に、本人を目の前にすると、言えない。
 なぜかなあ。けっこうひどいことを言われてきたから、一度くらいやりかえしてもいいはずなのに、できない。言おうとすると、胸の中で、だれかが急ブレーキをかけて、ダメ!ってとめられるような気がする。そのだれかに逆らう気になれない。逆らったら、自分の本当に大事なものを失うような気がするのです。(言えば言ったで、またケンカになるから、面倒くさいってこともありますが。)
 でも、ミントの茂みの側で、夫を待っているうちに、なんとなく、風に溶け込んだ清涼感が、古くなったニスを取り去るように、わたしの心の古い濁りを取り去ってくれたような気がしました。そして、もやもやの向こうに隠れていた。お互いの本当の姿が、くっきりと見えてきたのです。
 一緒にいるってことの幸せが、ふとリアルに迫ってきました。一人じゃなくて、だれかと共に生きるってこと。誰よりも近い所から、瞳をのぞきあえる、息づかいを感じられるってことが、何にも変えがたい幸せなのだと気付いたのです。
 日々の暮らしの中で心の中に重いものを持ってしまったら、ミントの側にいくこと。これはおすすめです。



(2004年8月、花詩集15号)




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