世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

恋文

2014-05-16 06:15:21 | 虹のコレクション・本館
No,140
ヤン・フェルメール、「恋文」、17世紀オランダ、バロック。


またフェルメールである。硬質な室内の風景の中で、恋文を届けられた女性の驚きの表情を描いている。

線遠近法も、ルネサンスの時代は、もっと無邪気に、多少いい加減に使われていたが、ここまで執拗に正確にやられると、背景の方が主役になってしまう。人物はふちっこに追いやられる。

推測だが、フェルメールは自分の絵を酷評されたのではないかね。例えば遠近法の不正確さなどをつかれたのだ。実際の風景はこんなものではないなどと言われたのではないかね。

だからここまで正確に線遠近法を極めたのではないかな。

レオナルドも線遠近法を採用しているが、彼の使い方はここまで正確ではない。「最後の晩餐」などの背景なども実際にはあり得ないものを描いている。人間ドラマを主体にしているからだ。実際にあり得る風景を背景に描いたら、あそこまで深い心理ドラマは描けない。

しかしフェルメールのこの絵は、恋文に驚いている女性の絵だということはわかるものの、どことなく、女優に演技させている嘘の風景だという感じがつきまとう。本当に恋文をもらったら、女性はもっと恥じらい、嬉しそうな顔をするものだろう。そういう人間のあたたかな心は一切描かれていない。

見えるのは、冷たい室内の風景だ。まるでそこに誰もいないかのような背景があり、人物は、幻のようだ。

フェルメールは、たぶん、心無い人間の冷たい批評に、芸術する心を殺されたのだ。
だからこんな絵になったんだよ。



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