世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

レースを編む女性

2014-05-12 06:16:12 | 虹のコレクション・本館
No,137
ヤン・フェルメール、「レースを編む女性」、17世紀オランダ、バロック。

フェルメールは冷めた目で人間を見ている。その生涯は謎に包まれているが、生涯不遇であったことを考えると、人間に対して、あまりよい気持ちは持てなかったに違いない。

釘一本でさえゆるがせにしない完璧に近い遠近法の画面の中で、人間はまるでスツールか何かのように立っている。冷たいまなざしがそれに灯ることはあるが、暖かく見返してくれたりはしない。

モデルになった女性や男性にも、名前はない。どこかにいるだれか、興味もない見知らぬ他人だという風に、人間を描く。

こういう描き方は、印象派を経て、キュビズムやダダ、シュルレアリズムに流れていく。人間から個性を奪い、尊厳をはぎとり、物体、物質、形や概念としてとらえて描く。中にはおもしろい作品もあるが、それは芸術を腐食させてゆく原因にもなった。

わけのわからないものを描いたり作ったりして、それに抽象と名を付して、高尚なことにすればいいなどという芸術家が排出したのである。

いろんな画家がいろんな絵を描いているがね、ほとんど偽物だよ。おもしろいのはあるが、これは重要だと思うような作品にはなかなか巡り会えない。20世紀絵画はたくさんあるが、激貧の世界だともいえる。

その源流が、これだ。フェルメール。この画家は、人間を愛しつつも、痛いところで、確実に人間を拒否している。何かはわからないが、決定的に人間を信じられなくなるような、痛い経験をしたのだろう。

フェルメールが、名品としてもてはやされているということは、現代人の心にも、これと同じ心が流れているといって間違いはない。



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