monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

季節表現 十月

2015年10月05日 | 日本古典文学-冬

十月(じふぐわつ)
 雲(くも)往(ゆ)き雲(くも)來(きた)り、やがて水(みづ)の如(ごと)く晴(は)れぬ。白雲(しらくも)の行衞(ゆくへ)に紛(まが)ふ、蘆間(あしま)に船(ふね)あり。粟(あは)、蕎麥(そば)の色紙畠(しきしばたけ)、小田(をだ)、棚田(たなだ)、案山子(かゝし)も遠(とほ)く夕越(ゆふご)えて、宵(よひ)暗(くら)きに舷(ふなばた)白(しろ)し。白銀(しろがね)の柄(え)もて汲(く)めりてふ、月(つき)の光(ひかり)を湛(たゝ)ふるかと見(み)れば、冷(つめた)き露(つゆ)の流(なが)るゝ也(なり)。凝(こ)つては薄(うす)き霜(しも)とならむ。見(み)よ、朝凪(あさなぎ)の浦(うら)の渚(なぎさ)、潔(いさぎよ)き素絹(そけん)を敷(し)きて、山姫(やまひめ)の來(きた)り描(ゑが)くを待(ま)つ處(ところ)――枝(えだ)すきたる柳(やなぎ)の中(なか)より、松(まつ)の蔦(つた)の梢(こずゑ)より、染(そ)め出(いだ)す秀嶽(しうがく)の第一峯(だいいつぽう)。其(そ)の山颪(やまおろし)里(さと)に來(きた)れば、色鳥(いろどり)群(む)れて瀧(たき)を渡(わた)る。うつくしきかな、羽(はね)、翼(つばさ)、霧(きり)を拂(はら)つて錦葉(もみぢ)に似(に)たり。
(泉鏡花「月令十二態」~青空文庫より)