卯月に成ぬればかきねに咲る夘の花は又なまめかし
はなたちばなのにほひをとめて郭公の雲井に名のるこころ
しでのたをさの名にいにしへ人のこひしきはげにさら也
岸(きし)のやまぶききよげにさきて井手の水に影うつるは
こがね花さく夕かとおもほゆるも心ゆかし
八日は灌佛(くわんぶつ)のおこなひあり
推古天王の御時よりはじまれり
ほとけのむまれ給ふ日なれば生湯(うぶゆ)をひきたてまつる若葉の木ずゑすずしげにしげり行もあはれ也
おぼつかなき藤の花さきみだれてさかふる北のふぢなみもたかき空にやにほふらん
都ちかき所には大谷とかや名をえたる花ぶさながき白藤もありといへる
猶も心ゆくは野田の藤だなにぞありける
こと更藤は酒えんをこのむものなれば酒のにほひには花ぶさもながく木もさかふるとなん聞えし
(佛教大学図書館デジタルコレクション「十二月あそひ」より)