雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

法を聞く功徳 ・ 今昔物語 ( 3 - 1 )

2019-02-10 15:09:00 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          法を聞く功徳 ・ 今昔物語 ( 1 - 3 ))

今は昔、
天竺の毘舎離城(ビシャリジョゥ・古代インド十六大国の一つ。ここで釈迦入滅後の第二回経典結集が行われた。)の中に浄名居士(ジョゥミョウコジ・居士は、在俗の仏道修業者の称。)という翁がいらっしゃった。
この人が生活されている部屋は、一丈四方(およそ3m四方)であった。ところが、この狭い部屋に、十方(ジュッポウ・・四方(東・西・南・北)と四隅(北東・北西・南東・南西)と上・下を指すが、ここでは、あらゆる世界といった意味。)の諸仏がやって来て集まり、この人のために法をお説きになった。それぞれの仏は数知れないほどの菩薩や聖者を連れて来られて、この方丈の室内をたいそう美しく立派に飾り立てた座席を設けて、三万二千の仏がそれぞれ座席に着かれて法をお説きになった。数多くの聖者もそれぞれ従っており、また、浄名居士も同席されて法をお聞きになった。
それでもなお、室内は十分に余裕があった。これは、浄名居士の不思議な神通力によるものである。それゆえ、釈迦仏は、浄名居士の方丈の部屋を、「十方世界のあらゆる浄土に優る、甚深(ジンジン・奥深く優れていて人知の及ばないさま)不思議の浄土である」とお説きになられた。

また、この居士は、いつも病気で病床に臥しておられた。
すると、文殊菩薩が居士の部屋においでになって、「私が聞くところによると、居士は常に病床に臥していてお苦しみとのこと。いったい、どういう病なのでしょうか」と居士に尋ねると、居士は、「私の病は、すべての衆生たちが煩悩に苦しんでいるのを、わが病としているためです。私には、これ以外の病はありません」と答えた。
文殊菩薩はその答えを聞いて、歓喜してお帰りになった。

また、居士が八十歳余りとなり、歩行が困難になられたが、「仏(釈迦)が法をお説きになる所に参ろう」と思ってお出かけになった。その道のりは四十里(諸説あるが、現在の「里」よりは短い。)である。居士はようやく仏の御許に歩いて詣でて、仏に申し上げた。「私は老いてしまい、歩行も満足に出来なくなりましたが、法を聞くために四十里の道を歩いて参りました。その功徳はどれほどのものでしょうか」と。
仏は居士にお答えになった。「そなたは法を聞くためにやって来た。その功徳は無辺無量(計り知れないほど広大なさま)である。そなたが歩いてきた足跡の土を取って塵となして、その塵の数に相応して、一つの塵に対して一劫(コウ・時間の単位で果てしないほどの時間。)の間、その罪が消滅する。また、命の永きことはその塵と同じである。また、成仏することも疑いない。すなわち、この功徳は量り切れないほどのものである」とお説きになったので、居士は歓喜して帰って行った。
法を聞くために詣でる功徳はこのようなものである、
となむ語り伝へたると也。

     ☆   ☆   ☆


* 最後の部分が、「や」が「也」になっているが、特別な意味はなさそうである。

     ☆   ☆   ☆

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