雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

釈迦 苦行に入る (2) ・ 今昔物語 ( 巻1-5 )

2017-03-22 11:44:57 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          釈迦 苦行に入る (2) ・ 今昔物語 ( 巻1-6 )

      ( (1)より続く )

太子は、迦蘭山の苦行の地に行かれた。憍陳如(キョウヂンニョ)等の五人の住処である。
そこより尼連禅河のほとりに行って、座禅修習して苦行をされた。或る日は一粒の麻の実を食し、或る日は一粒の米を食し、或いは一日ないし七日に一度麻・米の粥を食した。
憍陳尼等もまた苦行を修習し、太子の御世話をしてその側を離れなかった。

太子はお考えになった。「私は苦行を修習してすでに六年が経った。未だ悟りの道を得ることが出来ない。もし、この苦行に身体が衰弱して命を落として悟りの道を得ることが出来なければ、諸々の外道(ゲドウ・異教徒)たちは、私は飢えて死んだのだと言うだろう。そうだとすれば、すぐに食事を頂いて悟りの道を得るべきだ」と。
そこで、座禅を解いて立ち上がり、尼蓮禅河に行かれた。そして、水に入って、洗浴なされた。洗浴が終わると、痩せて衰弱した身体は、陸に上がることも出来なかった。すると、天神が来て、樹の枝にお乗せして陸に上がらせ奉った。

その河には大きな樹(ウエキ)があり、頞離那(アリナ・常緑の高木)という。その樹に神がいて、柯倶婆(カクバ)と名付けられていた。その神は、美しい装身具を付けた腕で太子を引き上げお迎えした。太子は樹神の手を取って河からお出になった。
太子は、献上された麻と米の粥を食べ終わられると、金(コガネ)の鉢を河の中に投げ入れて、菩提樹に向かわれた。

その林の中に、一人の牛飼の女がいた。名前を難陀波羅(ナンダハラ)という。
浄居天がやって来て、女に勧めた。「太子がこの林の中においでになる。そなたはお世話申し上げなさい」と。女をこれを聞いて、大変感激した。
その時に、地の神は、地中より千葉(センヨウ)の蓮花を生じさせた。その上に、乳粥が乗っていた。女はこれを見て、不思議なことだと思いながら、その乳粥を取って、太子の所に参り、礼拝してその乳粥を差し上げた。
太子は女の布施を受けられると、その身体のつやは輝き、気力は充実された。
五人の比丘は、これを見て驚き不思議に思い、「私たちはこの布施を受けては、苦行の効が後退してしまう」と言って、それぞれ本の所に返って行った。

太子一人は、そこより畢波羅樹(ヒッパラジュ・菩提樹)の下に赴かれた、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


* 文中の「地中より千葉の蓮花を生じさせた」としている部分ですが、原文は、「池の中に自然ら千葉の蓮花生たり」となっています。「池」を「地」に変えて紹介させていただいていますが、他の文献などから、蓮花を生じさせたのは地の神のようなので、「地」の方が自然に思われます。「池」となっているのは、今昔物語の作者が「蓮花=池」と考えたからのようです。

     ☆   ☆   ☆
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 釈迦と天魔 ・ 今昔物語 ( ... | トップ | 釈迦 苦行に入る (1) ・ 今... »

コメントを投稿

今昔物語拾い読み ・ その1」カテゴリの最新記事