雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

舎利弗の肥満 ・ 今昔物語 ( 3 - 4 )

2019-02-10 15:06:22 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          舎利弗の肥満 ・ 今昔物語 ( 3 - 4 )

今は昔、
天竺の仏の御弟子たちが、あちらこちらで行っていた安吾(アンゴ・インドの雨期である春から夏にかけての約三か月間、僧が一ヶ所で集団生活を送り、外出を控えて修業に専念する行事。)が終わり、仏(釈迦)の御前にお集まりになった時、舎利弗(シャリホツ)と羅睺羅(ラゴラ)も御前に参って左右にお座りになった。
仏は羅睺羅にお尋ねになった。「わが弟子の中では、誰を以って上座(ジョウザ・教団での席次を意味する)とするのだろう」と。羅睺羅はお答えした。「舎利弗を以って上座と致します」と。

すると仏は、この二人をご覧になられたが、舎利弗は肥えていて色が白くて宿徳(シュクトク・修行の年功を積んだ高徳の僧。)であり、羅睺羅は痩せていて色が黒く骨が浮き出ている。
仏は二人を見て仰せられた。「どういうわけで、わが弟子の中で舎利弗は肥えているのか」と。
羅睺羅はお答えになった。「舎利弗は智恵が優れていて、国じゅうの貴きも賤しきもこの人を師としています。それで、美味で珍しい食べ物を持ってきます。それゆえに肥えているのです。しかし、羅睺羅はそうではありません。それゆえに痩せているのです」と。
仏は仰せになられた。「我が法(戒律)の中には蘇油(ソユ・チーズ状の食べ物らしい。大変美味とされた。)を食べることを許していない。どうして、舎利弗は肥えたのか」と。
舎利弗はこれを聞いて、心穏やかにはいられなくなり、身を隠した。

その後、国王・大臣・長者・諸官などが舎利弗の所に参って贈り物をしようとしたが、どうしても受け取ろうとしない。そこで、国王・大臣・長者・諸官たちが挙って仏の御許に参って申し上げた。「仏よ、願わくば舎利弗をお召しになって、『我らの招待を受けるように』とご指導してください。どうしてかと申しますと、大師(釈迦に対する尊称)は我らの招待はお受けになられません。その上、舎利弗まで我らの招待を受けないとなれば、我らは、誰をもって師として仏事を勤めればよいのでしょうか」と。

仏は、集まった人たちに仰せられた。「舎利弗は、前世において毒蛇であった。そのため、前世の習性が残っているので、今、私が言うことを聞いて反抗しているのだろう」と。そして、すぐに舎利弗を召して、「お前は、速やかに人々の招待を受けて、仏道のための師となるのだ」と仰せになられた。
そこで舎利弗は、仏の教えに従って、国じゅうの諸々の人の招きを受け入れて仏事を行うことを、以前のようになった、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆



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