雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

神通力を競う ・ 今昔物語 ( 3 - 5 )

2019-02-10 15:05:39 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          神通力を競う ・ 今昔物語 ( 3 - 5 )

今は昔、
仏(釈迦)が祇園精舎においでになられた時、多くの御弟子たちがお集まりになったが、舎利弗(シャリホツ)は未だおいでなっていなかった。
その時、仏は目連(モクレン)に仰せになられた。「目連よ、速やかに舎利弗の所に行って、連れてきなさい」と。
目連は仏の仰せに従って、舎利弗の所に行き仏の御言葉を告げたが、舎利弗は僧衣を繕っていた。帯を解いて地面に置いていた。

舎利弗は目連に言った。「お前は神通第一の人である。地面に置いてある私の帯を動かせてみよ」と。
そこで目連は、神通力を奮ってこの帯を動かそうとしたが、ほんの少しも動かない。須弥山は震え大地は振動したが、どうしてもこの帯は動かないままであった。
また、舎利弗は目連に言った。「お前は速やかに先に行きなさい。私は後から参るので」と。
そこで目連は、仏の御許に帰参したが、そこには舎利弗が威儀を正して仏の御前に伺候していたのである。目連は不思議なことだと思いながらも、特に問い質すことはなかった。
これによって目連は、「自分は神通第一と言われているが、舎利弗の方が勝っているのだ」ということを知った。
然れば、智恵第一といわれる舎利弗は、智恵・神通ともに第一の人なのである。

仏の御弟子たちも、このように競い合いをされたのである。まして。仏法が衰退した末世においては、僧などが智恵や験力を競い合うのは当然のことである、
となむ語り伝へたるとや。

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