第三章 ( 二十一 )
御所さまにとっても、法親王は特に親しい間柄でございますから、その御嘆きは一方ならぬものでございましたでしょう。
「それにしても、気持ちは如何か」などと、御手紙をくださいましたが、姫さまには、御所さまのお心づかいが返って心の負担になられたようでございました。
「『 面影も名残もさこそ残るらめ 雲隠れぬる有明の月 』
辛いことの多いのはこの世の習いとはいえ、そなたへの格別の愛情も、そなと別れることのお嘆きも深かったであろうと思うにつけ、名残惜しいことであった」
などとお書きになっている御所さまの御手紙の内容に、姫さまは何とご返事申し上げるべきか、途方に暮れておいででした。
結局姫さまは、
『 数ならぬ身の憂きことも面影も 一方(ヒトカタ)にやは有明の月 』
とだけ、ご返事されたようでございました。
姫さまは、お部屋に籠ることがさらに多くなり、何方ともお会いすることを避けられて、ただ涙に暮れる毎日をお過ごしでございました。
春の訪れが近付いても、ほとんど興味を示されることもなく、いつしか年の暮れを迎えることになりました。
御所さまからは、「なぜ、参らぬのか」という出仕を促す御使いが再三参りましたが、以前のように細々と書き連ね出仕を急がせるような御手紙は届きませんでした。
どういう理由からかこの頃から、特に何かを仰せになられたわけではありませんが、御所さまの愛情が変わって行っているように、姫さまは感じられていたようです。
法親王とのことは、決して姫さまが強く望んだことからではなく、御所さまの御意向もあってのことと姫さまの気持ちの中にはありましたが、度重なる逢瀬や出産となれば、御所さまの御心変りも道理とも思われて、姫さまから進んでご出仕される気持ちにはなれないご様子でした。
あと数日という年の瀬にも、「この年も、わたしの命も間もなく尽きるのでしょうか」などと洩らされることもあり、いよいよ悲しみは深くなっているのでしょう。
姫さまは、以前、法親王を有明の月殿と心に描いた頃に頂いたお手紙を裏返して、御供養のため法華経をお書きになっておられましたが、法親王が五部大乗経の書写を「今生の過ちを悔い来世の極楽往生を祈願する」とは仰せになっていなかったことの罪深さを思い、悲しみ心配されての御供養のようでございました。
そして、姫さまのお心が、ほんの少しばかりも晴れることなく、年が改まりました。
* * *
御所さまにとっても、法親王は特に親しい間柄でございますから、その御嘆きは一方ならぬものでございましたでしょう。
「それにしても、気持ちは如何か」などと、御手紙をくださいましたが、姫さまには、御所さまのお心づかいが返って心の負担になられたようでございました。
「『 面影も名残もさこそ残るらめ 雲隠れぬる有明の月 』
辛いことの多いのはこの世の習いとはいえ、そなたへの格別の愛情も、そなと別れることのお嘆きも深かったであろうと思うにつけ、名残惜しいことであった」
などとお書きになっている御所さまの御手紙の内容に、姫さまは何とご返事申し上げるべきか、途方に暮れておいででした。
結局姫さまは、
『 数ならぬ身の憂きことも面影も 一方(ヒトカタ)にやは有明の月 』
とだけ、ご返事されたようでございました。
姫さまは、お部屋に籠ることがさらに多くなり、何方ともお会いすることを避けられて、ただ涙に暮れる毎日をお過ごしでございました。
春の訪れが近付いても、ほとんど興味を示されることもなく、いつしか年の暮れを迎えることになりました。
御所さまからは、「なぜ、参らぬのか」という出仕を促す御使いが再三参りましたが、以前のように細々と書き連ね出仕を急がせるような御手紙は届きませんでした。
どういう理由からかこの頃から、特に何かを仰せになられたわけではありませんが、御所さまの愛情が変わって行っているように、姫さまは感じられていたようです。
法親王とのことは、決して姫さまが強く望んだことからではなく、御所さまの御意向もあってのことと姫さまの気持ちの中にはありましたが、度重なる逢瀬や出産となれば、御所さまの御心変りも道理とも思われて、姫さまから進んでご出仕される気持ちにはなれないご様子でした。
あと数日という年の瀬にも、「この年も、わたしの命も間もなく尽きるのでしょうか」などと洩らされることもあり、いよいよ悲しみは深くなっているのでしょう。
姫さまは、以前、法親王を有明の月殿と心に描いた頃に頂いたお手紙を裏返して、御供養のため法華経をお書きになっておられましたが、法親王が五部大乗経の書写を「今生の過ちを悔い来世の極楽往生を祈願する」とは仰せになっていなかったことの罪深さを思い、悲しみ心配されての御供養のようでございました。
そして、姫さまのお心が、ほんの少しばかりも晴れることなく、年が改まりました。
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