りなりあ

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約束を抱いて 第二章-15

2007-01-09 20:36:08 | 約束を抱いて 第二章

並べられた料理が次々に食べられていく光景に、むつみは驚いていた。
「むつみちゃん、食べている?」
「う、うん。」
尋ねる杏依も驚きを隠せない様子で、彼女の箸も止まったままだ。
「優輝、待て。」
晴己の声が響く。
「何だよ、人を犬みたいに。」
「…犬のほうが、まだ落ち着いている。」
言い捨てた晴己が傍にいる家政婦達に何かを伝えると、彼女達は並べられている料理を分け始めた。
「最初から、こうしておくべきだったよ。」
後悔の声を出す晴己を優輝は軽く睨むが、また箸を動かし始める。
分けられた料理は均等ではなく、明らかに優輝の分け前が多いが、それに関しては誰も文句は言わない。
しかし、優輝の隣に座る人物に関しては、皆が少し首を傾げていた。晴己よりも年上なのに、優輝に張り合うように、箸を動かしている。
「優輝、ほら、ニンジン食べろよ。」
「えぇー、いらないよ。コーチ食べろよ。」
「好き嫌いがあると強くなれないぞ。」
子供に言い聞かせるような久保の言葉を真剣に受け止めたのか、優輝は皿に残されているニンジンを見て箸を止めるが、またすぐに動き出した。
練習を終えた優輝達と一緒に食事をする、その事を晴己から聞いた時、むつみは驚いた。土曜日から新堂の家に泊まるのは優輝から聞いていたから新堂の家で会うかもしれないとは思っていたが、まさか優輝と一緒に食卓を囲む事など、考えもしなかった。
久保の存在が食事の雰囲気を和やかにしてくれているのは事実で、むつみはホッとしながら取り分けられた料理を口に運んだ。

◇◇◇

自分の車で帰る久保を見送った後、晴己が後部座席のドアを開けた。
「電車で帰るよ?」
「むつみちゃんを送っていくから、ついでだ。」
遠慮する優輝の言葉に晴己が答えた。
「あの…私も電車で」
「送る。」
無謀だと思いながらも断るむつみの言葉を、晴己はあっさりと切り捨てた。
「優輝。近所だから、ついでだよ。」
晴己が助手席に乗るのだろうか、そんな不安を感じるが、それを言う事も出来ずに、むつみは優輝と一緒に後部座席に乗った。
「すごい車だな。」
優輝はシートを掌で撫でる。
「運転手付だし、さすが新堂晴己様って感じだな。」
その口調は嫌味ではなく、感嘆の声に近いとむつみは感じた。
「いつから来たんだ?」
突然話を変えた優輝がむつみに問う。
「お昼過ぎ…。杏依さんが実家に行っていたから、その帰りに寄ってくれて」
「昼過ぎ?」
むつみの声を遮る優輝の問いが、何故か突き刺さるような気持ちがする

「服を…子供用の服を選んでいて…。」
「服?」
むつみは言葉を止めてしまう。
「それだけ?」
問われて、午後の行動を思い出してみる。
確かに自分のスカートを選んでしまったが、それ以外は子供用の服を見ていた。スカートを試着して戻った時に、晴己から夕食の話を聞かされ、その後は杏依と一緒に庭を散歩していた。
「杏依さんと一緒にいたの。凄く…久しぶりだったから。」
思わず頬が緩んだのが自分で分かる。
杏依と普通に話すことが出来る。
生まれてくる子供の服を選ぶ事が出来る。
杏依が、今も自分を受け入れてくれる。
むつみはそれが分かり、とてもホッとしていた。
優輝の兄が言ったように、時と共に関係が変わるのは当然で、それを自分が受け入れる事が出来れば、杏依との関係を保つ事は可能だと感じていた。
「嬉しそうだな。」
優輝の言葉にむつみは彼を見るが、彼は窓の外を見ていて表情は分からない。
それ以降、優輝は口を閉ざしてしまった。



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