りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

約束を抱いて 第二章-49

2007-03-16 16:30:39 | 約束を抱いて 第二章

「俺は晴己さんに認めて欲しい。テニスを認めて欲しかったし俺自身を認めて欲しかった。だから、むつみとの事も認めて欲しい。」
むつみが晴己の影響を大きく受けていて、晴己を追い求めているのが、優輝には分かる。
「今日は」
彼女の瞳を逸らす事なく見つめ返す事が、今は出来る。
「会いたかったんだ。」
心から素直に溢れ出た想いを言葉にすると、むつみが突然抱きついてきて、優輝は彼女を驚きながらも受け止めた。
見上げてくる瞳が潤んでいる。
何度か、彼女にこうして抱きつかれた事があったのを思い出しながらも、優輝は困っていた。
「本当?」
晴己のように抱く事も、その髪を撫でてあげる事も、今の優輝には出来ない。
「本当。」
投げやりに聞こえるような、強い口調で答えるのが精一杯。
優輝は、自分自身で不思議だった。昨夜から続く気持ちは、むつみに会えば落ち着くと思っていたのに、相変わらず優輝の心は騒がしい。
また明日になれば会えるのに、彼女は、こんなにも傍にいるのに。
「優輝君。」
むつみが優輝の肩に額を置いて、呟く。
「好き。」
同じ言葉を返せば、彼女は喜んでくれる。もしかすると、昨日の杏依のように微笑むかもしれない。
そう思いながらも、優輝は同じ言葉を返せない。
「…何度も聞いたから、知ってる。」
彼女の気持ちを受け止めようとして、発せられた言葉は、恋の言葉には程遠い。
「むつみ。」
優輝はむつみの両腕を掴み、そっと自分から放した。
目の前には、言葉の続きを待つ彼女の瞳がある。
「絶対に」
晴己に勝ちたい、負けたくない。
おまけに“打倒新堂晴己”という文句まで思い浮かぶが、優輝はむつみの顔を見て、心の騒がしさが消えていく。
彼女が望んでいるのは、きっと、もっと大きな想い。
認めてもらって、祝福してもらいたい。
その為に与えられた“試練”は、むつみと一緒だから乗り越えられる。
優輝が、幼い頃からずっと心に抱いていた想いは、むつみも同じように抱いているはず。
「晴己さんに、喜んでもらおう。」
微笑む彼女の涙は、澄み渡った色を頬にのせていた。

◇◇◇

「転校?」
晴己の家から戻った優輝に、涼は迷いながらも転校の話を出した。
「前の…学校に戻るって…事?」
突然の話題に優輝が戸惑っているのが分かる。
「優輝が戻りたいのなら、出来る限りの事をするよ。その方が練習に行くのに都合が良いだろう?以前の生活に戻るだけだ。卓也との事も、もう大丈夫だろう?」
父と母が話すのではなく、この役目は涼が願い出た。
「でも…。」
優輝が色んな事を考えているのが分かる。色んな事を思い出しているのが分かる。
「方法は幾らでもある。俺だけがここに残ってもいいし、俺と優輝が、向こうで家を探してもいい。一度始めた同居を解消するのは簡単じゃないから、母さん達は二重生活になるかもしれないが。」
涼は優輝の返答を待たずに、自分の意見を話す。
卓也が言ったように、優輝が自分自身で答えを出してしまえば、確実にショックを受ける。優輝が気付く前に、大人である自分が優輝の道筋を決めてやればいい。
「じいちゃん達は元気だけれど、誰かが一緒の方が安心するだろうし。誰かが残るか、通うか。」
「それなら、俺も残る。週末は晴己さんの家に泊まらせてもらう。平日は、もしクラブに通っても、結局は俺は他の人とは別で久保コーチに特訓されるし。」
「そうか。優輝がテニスをする事に支障がないのなら。俺も、出来る限り迎えに行くようにするから。」
「大丈夫だよ、にーちゃん。どうせ、すぐに彼女が出来て、忙しくなるだろ?それに、なんだか晴己さんみたい。心配性?」
晴己の話をする優輝が笑顔を見せる事に、涼は安堵する。
「きっと、みんな喜んでくれるよ。優輝がそう言ってくれたこと。ここに全員で住めるのが一番だからな。」
涼の言葉に、優輝は嬉しそうに笑った。



コメントを投稿