りなりあ

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約束を抱いて 第二章-41

2007-03-09 14:41:40 | 約束を抱いて 第二章

むつみと優輝が土曜日の午後に新堂の家を訪ねると、晴己と杏依が迎えてくれた。
優輝はすぐに練習に向かい、むつみは晴己に授業のノートを見せる。
今日の事は、むつみからは何も話していなかった。
「私が…来る事…迷惑じゃない?」
「どうしたの?迷惑じゃないよ。」
晴己の笑顔に曇りはない。
「優輝が、2人で一緒に電車で行くと言うから任せたけれど、今日は泊まれるの?碧さん達は?」
「今日は2人とも遅くて…家には誰もいないから。和枝さんにも休んでもらっているの。」
納得して頷いた晴己を見て、むつみは少しだけ安心した。

◇◇◇

先週と同じように8時から開始された勉強の時間は、時間通りに10時に終了した。部屋に戻る為に片付けていると、家政婦がパンと飲物を運んできて、それを不思議に思いながらも、優輝は出された食事を口にした。
「明日の夕食は、むつみちゃんも食べる?優輝と一緒に帰るのなら車は一台でいい?」
「車は…いいよ。」
むつみの変わりに優輝が答えた。
「俺達…一緒に帰るから。電車で…だから、車はいいよ。」
沈黙が続き、暫くして優輝が顔を上げた。
「晴己さん。」
晴己が優輝を見る。
「俺達…付き合っているんだ。」
晴己の表情は変わらない。
「だから、これからも一緒に来るし一緒に帰るよ。晴己さんに車を用意してもらう必要ないから。俺がむつみを迎えに行くし、ちゃんと送っていく。」
「昨日の電話で話したけれど、僕は電車に乗せたくない。」
晴己は昔から、むつみが電車に乗る事を好ましく思っていなかったが、以前の出来事が余計に晴己の気持ちを強くさせていた。
「前みたいに嫌な思いさせないから。だから、これからは」
「むつみちゃん、帰る準備をして。車を用意するよ。」
晴己が優輝の言葉を遮った。
「今日は家に帰ったほうがいい。」
「はる兄?」
立ち上がった晴己を、むつみは見上げた。
「2人が付き合っているのなら話は別だ。」
「なんだよ…それ…。」
「2人に対して僕には責任がある。ここに来る事を君たちの両親が許してくれているという事は、僕を信頼してくれているからだ。その信頼を裏切る事は出来ない。」
「…裏切るって…。大袈裟な。」
「優輝は話した?御両親に?“彼女”を迎えに行ってからここに来る事を。」
晴己は変わらず、その頬に笑みを浮べている。
「…言ってないけど…。」
「むつみちゃんは?碧さんに言った?」
むつみは首を横に振る。
「喜ばしくない事だと自分達で思わないかな?夜中に人を部屋に招き入れる必要がある?夜食を準備しなかったのは僕のミスだが、どうしてむつみちゃんの部屋に行った?」
「にーちゃんが…話したのか?」
「涼は何も言わないよ。隠し通せるとでも思った?ここは僕の家だよ。誤解を招くような行動を取るのは賢明じゃないと、僕は思うけれどね。」
むつみは晴己に話さなかったことを後悔した。
「むつみちゃんは僕との約束を忘れたのかな?僕は君の親ではないし、保護者でもない。」
晴己の声は穏やかで、そこに怒りは感じないが、晴己の話す内容は、むつみの心に影を落としていく。
晴己が家族ではない事、他人である事を、晴己の言葉で聞かされると、むつみはその事実を思い知らされる。
「今週に限って何だよ?先週だって泊まっただろ?」
「むつみちゃんを呼んだのは僕と杏依だ。」
「今回は…はる兄に呼ばれた訳じゃ…ないから?」
晴己が微笑を消し、溜息を出す。
「そんな事を言っているんじゃない。優輝に会う事を目的にしてくるのなら」
晴己がむつみの肩を自分へと寄せた。
「君の両親が納得してからだ。分かるよね?」
宥めるような口調に、むつみは頷くしかなかった。



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