りなりあ

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約束を抱いて 第二章-45

2007-03-12 17:40:52 | 約束を抱いて 第二章

涼は夕食後に迎えに来る事を碧とむつみに伝えると、斉藤家を後にした。
自宅に戻るまでの間に晴己に連絡をし、むつみが橋元の家に来る事を優輝に伝えて欲しいと伝言を頼んだ。意外な事に、晴己は反対せず、すぐに了解の返事を出した。
仕事から帰宅した母にむつみの事を伝えると、少しだけ戸惑う表情を見せる。だが、碧が了承済みだと伝えると母は安心した表情を見せた。

◇◇◇

和室で勉強を始めた2人を、涼はむつみが持って来た果物を食べながら見ていた。
特に会話のない2人は黙々と勉強を続ける。その光景に呆れながらも、涼は9時半を過ぎると立ち上がった。
「そろそろ…送って行くよ。」
あと少しだけ残った問題を終わらせたいと考えている2人に、涼はコートを着ながら言う。
「晴己に、10時までに送り届けると言ってある。」
2人の動作がピタリと止まり、すぐにむつみは机の上に残されている紅茶を全て飲み、荷物を鞄に入れる。
「おじゃましました。」
むつみが台所で片付けをしている優輝の母親に挨拶をし、涼の後をついて玄関に向かうが、優輝は和室に残ったままで見送る素振りを見せない。
慌てて母は玄関に向かった。
「むつみちゃん。」
呼び止められて、むつみは振り向く。
「むつみちゃんは迷惑じゃない?」
「…はい。」
少し恥ずかしそうに笑顔を見せるむつみに、優輝の母は心が和んだ。
「遅い時間に、おじゃましました。」
有名な両親を持ち、本人は年齢よりも大人びていて、そして新堂晴己と親しい女の子。その認識しかなかったが、目の前にいるむつみは普通の中学生の女の子だった。
「もし良ければ…お母さんが許してくれるのなら、明日も来てもらえるかしら?一緒に夕食を…食べましょう。」
むつみの顔が少しずつ綻ぶ。そして、彼女は答える前に涼の意見を、その視線で求めた。
「君が良ければ。」
涼の答えを受け、むつみは優輝の母に丁寧にお辞儀をした。

◇◇◇

むつみは家に戻ると晴己に電話をした。
電話越しの晴己の声は穏やかだか、むつみは小さな不安を抱えていた。晴己との間に距離を感じる。
家族ではなく他人である2人には、今も昔と変わらず大きな壁が存在していた。

◇◇◇

涼が家に戻ると、優輝は寝る準備を始めていた。
「機会をつくってやったのに、もっと嬉しそうにしろよ。」
優輝が不満そうな顔を向ける。
「彼女の母親も了承しているし、晴己にだって先に話した。母さんだって歓迎してくれている。先週は晴己を怒らせたんだろう?順序が逆なんだよ。もっと頭を使え。」
優輝は何も答えない。
「新堂の家で会わなくても、ここに来てもらえばいいだろう?嬉しくないのか?」
「…嬉しいけど。」
涼は優輝の素直な発言に、笑いそうになるのを堪えた。
「もっと優輝から積極的に彼女を誘えばいいだろう?」
「無理だよ。」
「え?」
「にーちゃんがしているような事をするのか?休みの日には会って、電話して。そんな事…俺、出来ないから。」
「優輝。」
涼は溜息を出した。
「それを、あの子に言えばどうだ?彼女だって、そんな付き合い、望んでいない…と思うぞ。」
「でも、にーちゃんだって、久保コーチだって面倒だって。晴己さんだってテニスを続けられなくなって。」
「優輝。他の人間なんて関係ない。優輝と彼女がどう付き合うか、自分達で決めればいいだろう。」
涼は自分の考えに驚いていた。
むつみを安心させてやりたいと思っている自分がいた。
「あの子は…分かってくれるんじゃないか?」
涼は、優輝の短い髪を指で少し乱暴に撫でた。
「久保さんが言っていたよ。今の優輝があるのは、むつみちゃんがいたからだって。優輝が同じ事を思っているのなら、自分で彼女に伝えるんだな。」
涼が久保から依頼された伝言だが、優輝から言われる方が、きっとむつみは喜ぶだろう。
涼はそう思っていた。



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