りなりあ

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約束を抱いて 第二章-50・完

2007-03-16 16:31:00 | 約束を抱いて 第二章

森野は生徒達の視線を受けていた。
「自分の成績の心配をした方がいいだろう?」
「どうせ、分かるんだからさぁ。先生、言っちゃってよ。」
森野が明らかに困った顔をする。
「だってさぁ。目標達成しなきゃ、橋元と斉藤は付き合えないらしいよ?」
優輝は晴己に認めて欲しいと思っていただけで、むつみとの関係を破棄するつもりなど、少しもなかった。だけど、晴己に認められなければ何も進まないと理解はしているし、改めて今回のテストの重大さを思い知る。
「そうよね。付き合い続ければ目標達成。そうでなければ」
「えー、やだぁ。また、このクラスが暗くなっちゃう。」
女子生徒達の声が響く。

「順位は公表する事にはなっていないし、知りたければ各個人が聞きに来る事になっている。それは知っているな?」
全員が頷く。
「斉藤。」
森野が促すが、むつみは小さく首を振った。
「先生。発表してください。結局は分かる事ですから。」
この先に待ち構える現実の、これは小さな序章だと、むつみは理解していた。
これを超えなければ、何も始まらない。
今のむつみには、少しだけ晴己の気持ちが分かる。引き返す機会も、離れる機会も、何度も何度も晴己は与えてくれた。
「先生、お願いします。」
促すむつみの声に、森野の頬が緩む。
「よく頑張ったな。おめでとう。」
教室に溢れる声が、優輝とむつみを包んでいた。

◇◇◇

「ど、どうしてだよっ!」
「ほらほら、苛々しない。このCMのテーマは、若々しく爽やかに、そして清々しく、だからね。」
企画会社の高瀬が優輝を宥める。
「こうしてると、優輝とテニスしてた時を思い出すよな!」
弾む声の主に、優輝は視線を送る。
「どうして卓也がいるんだよ。」
今回の撮影は星碧と一緒だとは聞いていたが、卓也の事は何も知らなかった。
「だってさ、これの給料、俺にくれるんだろ?」
「…。」
「それが鬱陶しいんだよ。優輝の取り分は優輝の分。俺の取り分は俺の分。それにさ、優輝だけCMに出るなんて抜け駆けだ。俺はこのチャンスを逃さないぞ。このまま芸能界入りだ!」
「はいはい。ほら準備して。」
高瀬に促されて移動した優輝は、眩しい光に目を細めた。

◇◇◇

クリスマスイヴの日、優輝とむつみは新堂の家に向かう為に待ち合わせをしていた。
優輝は普段と変わらずに練習をするけれど、夜は新堂の家でクリスマスの食事をすることになっている。それにはむつみだけでなく、彼女の母親も参加することになっている。
「今日、会うのは無理だと思っていたから。…嬉しい。」
むつみが嬉しそうに微笑む。
世間では特別な日だが、優輝にとっては普通の日常と変わらない日。だけど、むつみが今日の事を嬉しいと思うのなら、優輝にとっても今日が特別の日に変化する。
「早く行こう。人が増えてきた。」
街には人が溢れていて、皆の顔が陽気で幸せに溢れている。
歩く2人の間を風が通り抜ける。
白い息が、温もりの存在を示していて、離れない距離にお互いの存在を感じる事が出来る。
「むつみ。ちょっと急ぐぞ。雪が降ってきた。」
「うん。」
見上げると、空を覆う雲から小さな粒が落ちてくる。
風に泳ぐ粒に周囲の人達が見惚れ、そして微笑む。

彼女は彼の願いを、大切に抱きしめる。
夢を追う瞳が、これからも輝くように。
力強く、まっすぐに。

心に抱く想いは、変わらない未来への約束。

        

        ◇◇◇約束を抱いて 第二章・完◇◇◇



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