りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

約束を抱いて 第二章-9

2007-01-03 12:39:48 | 約束を抱いて 第二章

残念そうだったり、納得していたり、不安に思っていたり、嬉しそうだったり、そして怒っていたり。
杏依の表情を見て、むつみの気持ちが解れていく。
「彼氏、じゃないわ。」
杏依の言葉の一部を、むつみは否定した。
「そうなの?」
「私は気持ちを伝えたけれど、それだけ…だから。」
杏依のように、自分の気持ちを表現出来るのが羨ましいと、むつみは思う。それが出来ない自分は、優輝に気持ちを上手に伝えられなかったのかもしれない。
「私も…寂しかったのかな?」
杏依の優しさが嬉しくて、彼女の温もりに包まれたくて、それに甘えるのは止めなくてはいけないと思いながらも、むつみは杏依の優しさに縋ってしまう。
「嬉しいって本当は思うのに。幸せな事なのに、嬉しい事なのに…自分の気持ちが、よく分からないの。」
杏依の瞳が不思議そうにむつみに問いかけていた。
「夏に…杏依さんが別荘に来れない理由を聞いた時、私、はる兄に、おめでとう、って言えなかった。」
酷い事を言っていると自分で分かりながら、むつみはその言葉を口にする。
「むつみちゃん?実感がなくて当然よ。私だって不思議な気持ちだもの。」
そして、杏依は自分の腹部を撫でる。先ほどから本人は無意識なのだと思うが、何度も掌で自分の腹部を撫でていた。
「杏依さん」
ごめんなさい、と開きかけた唇を、杏依の人差し指が押さえた。
「むつみちゃん、いつも謝ってばかり。私にはその言葉を言わないで。」
杏依が微笑む。
「新しい事実を受け入れるのに時間がかかるのは当然よね?私もむつみちゃんも同じ気持ちよ。」
杏依に頬を撫でられる。
その掌が温かくて、むつみは過去に何度も、彼女に頬を撫でられた事を思い出していた。
「私も…触って良い?」
頷いた杏依に手を取られて、むつみはそっと杏依の膨らんだお腹を撫でた。

◇◇◇

「え?」
ネクタイを緩めた晴己が杏依に驚いた顔を向ける。
「むつみちゃんに、会ったの…か?」
「実家の帰りに、むつみちゃんの通学路に寄ったの。姿だけ見て帰ろうと思っていたけれど、気付かれちゃって。むつみちゃんは、あの車で桜学園に通っていたでしょう?」
晴己は表情の冴えない杏依を見て不安になりながらも、質問をする。
「話を、した?」
「うん。家におじゃまして来たわ。」
「え?」
晴己は、また驚いた顔を杏依に向けた。
「以前のように、それはまだ無理だけど…。ううん、元に戻るのは無理だわ。」
「杏依?」
「晴己君、むつみちゃんは中学二年生なのよ?以前のような関係は無理だわ。」
晴己の表情から感情が消えるのを見て、杏依は言葉を一度止めた。むつみの事に関して意見をするのは危険だという事は充分に分かっている。
だけど妻である自分にしか出来ないことがあるはずだ。
「むつみちゃんは成長していくし、環境だって変わっていく。私達だって変わったでしょう?むつみちゃんは、それを受けいれてくれたわ。我慢して無理をして、だけど私達には悟られないように努力して、おめでとう、って言ってくれたのよ?」
杏依と晴己の結婚が決まった時、むつみが少しでも戸惑いを見せてくれれば、2人は彼女に対して対応をした。だけど、むつみの感情を読み取っている事など、隠し通そうとする本人に言う事は出来ず、むつみのおめでとう、という言葉を晴己と杏依は受け取るしかなかった。
今回、むつみが寂しいと言った事で、杏依は随分とホッとしていた。
「晴己君は、むつみちゃんが成長していくのが、そんなに怖いの?」
「…違う。相手が優輝だからだ。」
杏依はむつみとの約束を守る為に、優輝の話題を避ける。
「私は、頼りない?」
自分で分かっているが、杏依は問う。
「晴己君とむつみちゃんは似ているよね?全部自分で抱えて1人で我慢して、自分だけで解決しようとする。私は今も…晴己君の力になれないの?」
「杏依は…今は子供の事だけを考えて。」
晴己が杏依の頬を撫でる。
杏依は、優しい行為に隠された晴己の拒絶を感じて、何も言い返せなかった。



コメントを投稿