りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

約束を抱いて 第四章-1

2008-02-18 02:18:34 | 約束を抱いて 第四章

坂の上から見る景色は、何年ぶりだろう。
車の後部座席から振り向いて眺める事はあったが、外気を感じて眺めるのは随分と久しぶりだった。
この坂道を歩いて上った事は、あったのだろうか?

この坂道を歩いてみたい。

肌に感じる風が心地良い。

◇◇◇

「むつみ、本当に私で良いのかな?」
「大丈夫よ?昨日も加奈ちゃんに話したでしょ?香坂先生が決めてくれたし、絶対に大丈夫よ。来ている人達も、はる兄も杏依さんも喜んでくれるわ。」
むつみは思わず加奈子の手を取っていた。
「う…ん。そうだけど。私で良いのかなぁって。もっと上手な人がたくさんいるだろうし、そういう人達も来てるでしょ?それなのに、私でいいのかなぁって。香坂先生は、新堂家のパーティで演奏したのは小学生の時だったらしくて、私は中学3年だし、もう充分だよって言ってくれるけど。」
「それなら大丈夫でしょ?」
「むつみ、簡単に答えないで。だって、来ている人達の、その顔触れを考えると、ねぇ?」
むつみは、加奈子の言いたい事が分かる。
日常の生活では触れ合うことの無い人達が来る事が分かるだけに、加奈子の緊張も大きなものだろう。
「緊張するし怖い気もするし、でも、この話を断るのは凄く勿体無いと思うの。」
むつみは頷いた。
「だから引き受けたけれど。杉山君も一緒って…。」
「心強いでしょ。」
「むつみ?本当に、そう思っているの?杉山君が新堂のパーティで演奏してもいいの?」
「え?どうしてダメなの?」
「どうしてって、むつみは杉山君から告白されたんだよ?」
むつみは記憶を辿った。
“隣のクラスの杉山君”に告白をされ、優輝が同行して断りの返事をしたことを思い出す。
「その相手が演奏するのは嫌じゃない?」
「え?どうして?」
「どうしてって。橋元君もパーティに参加するよね?」
「そうだけど。」
「うーん、そういうものなのかな?むつみにとっては、杉山君の告白は既に過去。橋元君にとっても過去?」
「だって…。」
加奈子が今更、杉山の話を出す事にむつみは驚いた。
「杉山君が今も、むつみの事を好きだとしても?」
「私…冷たいのかな?」
「え?」
「もし、そうだとしても、正直…あまり気にならない。」
「むつみ…。」
「酷いよね。でも…申し訳なくてフォローする気持ちとか…ないの。」
「そう…。だから水野紘に対しても?」
「水野君は、彼は特に私の事を…って訳じゃないと思う。あんな事、言っていたけれど。あまり本気に出来ない。」
「そう…。」
それなのに、どうして中原慎一の事を気に留めるのか、加奈子は不思議だった。
「それにしても…可愛い部屋ね。」
加奈子の言葉に、むつみは少し恥ずかしくなる。
「女の子って感じの部屋。ピンク色のカーテンなんて、むつみのイメージじゃないわ。」
「そうでしょ?来年は高校生なのに。」
むつみは、新堂邸の自分の部屋を見渡して、この部屋を片付けようと思い始めていた。この部屋を、このようなパーティの時に使わせてもらうのは嬉しいが、むつみ個人の物が残っているのは、やはり良くないと思う。少しずつ、サイズが小さくなった洋服は処分しているし、物も減ってきている。当時、夢中になっていた本や玩具も処分しているし、勉強道具も、必要な本などは書庫の本を利用できる年齢に、むつみも成長している。
内装を変えれば、時々、斉藤家の人達が宿泊する部屋、という程度に変えられるだろう。

カーテンを交換しようかと思いながらも、それを自分が指示するのも変な気がして、むつみは何か良い方法はないかと考えていた。
「むつみ、杉山君と音のチェックしてくるけれど?」
むつみは考えるのをやめて窓を少し開けた。
「うん。この部屋は加奈ちゃんも自由に使ってね。私は」
開いた隙間から、風が部屋に舞い込む。
「ちょっと散歩してくるね。」
部屋を出て行く加奈子を見送り、むつみは窓を閉めた。



コメントを投稿