りなりあ

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約束を抱いて 第四章-42

2008-05-18 01:43:00 | 約束を抱いて 第四章

涼は写真を見る事を躊躇していた。
確認しなくてはいけないと分かっているが、それらが真実を伝えているのは確実で、認める事が怖かった。
何も知らず、晴己に任せたい。
晴己に頼るのは悔しいが、晴己にしか頼れない。
「戻るのは無理だよ。」
卓也が手首を掴む手に少し力を込めた。
「晴己さんなら解決出来るかもしれない。でも、俺も涼ちゃんも他人事じゃないよ?今まで、晴己さんは俺達の知らない場所で動いていたと思う。でも、色んな事を知ってしまった状態で、それでも知らないふりをして晴己さんに全部任せる気?」
卓也の少し責めるような口調に涼は眉間に皺を寄せた。
「優輝が彼女と付き合う事、反対した人は多いよね?でも引き離す事は無理だった。あの2人は、たぶん晴己さんに逆らう事なんて、なかったと思うよ。お互いに諦められなかった事が、初めて新堂晴己に逆らった出来事で、晴己さんから見ると今まで従順だった2人が同時に裏切ったんだよ。」
従順や裏切りという言葉は大袈裟に感じた。
決して晴己は無理強いなどしていなかった。
だが、結果的に優輝は従順な存在だったし、それに対して涼が苛立っていたのも確かだった。
「覚悟していたと思う。晴己さんが反対するのは何か意味がある事を分かっていたと思う。」
卓也の力が弱まり、涼は封筒を志織に差し出すと椅子に座った。
「主に撮られているのは、むつみちゃんです。年頃の女の子ですから、先に志織さんが確認してください。」

◇◇◇

志織が写真を重ねて揃えた。
「枚数が多い訳ではないけれど、的を得ているわ。一番最初に撮られたのは、たぶん、これね。」
志織がテーブルの上に置いた写真には、むつみと久保が話す姿が写っていた。そして、次の写真には松葉杖の優輝が写っていて、それが撮られた時期は簡単に分かった。
「優輝が転校して、捻挫をした後か…。」
去年から写真が撮られていた事に驚く涼に、志織は一枚の写真を直接渡した。それを不思議に思いながらも受け取り、涼は咄嗟に写真を伏せてテーブルに置いた。
その行動を誰も責めなかった。それを有難いと思いながらも、涼は写真を確認していく事に再び不安を感じる。
優輝とむつみが奈々江の家に連れて行かれた日の写真だったが、そこに写る街並みを見ると、邪推な事を連想してしまう自分が嫌だった。
「うわっ、俺も撮られてる。」
志織から写真を受け取った卓也は、その写真を涼と祥子に見せた。
そこには、むつみと卓也が写っていた。
「その後に撮った写真は、これかしら?」
志織がテーブルに置いた写真には、むつみと優輝、そして絵里と大西が写っていた。
「中等部の制服?むつみちゃんが着ている制服、桜学園の中等部の制服ですよね?」
祥子の問いに、志織が頷いた。
「どうして?目立つのは分かっているのに、絵里姉さんだって分かっているのに。卓也君と会っている時はコートを着ているのに?」
「わざと、かしら?」
志織が首を傾げた。

「こんな事をすると注目を浴びるわ。桜学園だけじゃなく、学校の制服を着て夜の街を歩くと目立つのは当然でしょう?敢えて選ぶなんて。仮に私が、この状況を知ったら晴己君に連絡するわ。」
志織の言葉に涼は奈々江の家で聞いた晴己の言葉を思い出した。
晴己は、むつみが絵里に叩かれた事を既に知っていた。
『ここに向かう途中で、連絡が入ってね。』
『優輝が止めてくれなかったら、二度叩かれていたよ。』
テーブルに伏せたままの写真の光景を思い出す。
奈々江と直樹が優輝達を見つけたのは偶然なのだろうか?
「晴己に…晴己の耳に入る事を狙ったのでしょうか?晴己に、助けて欲しかった?」
「自分が、というだけではなく、橋元君を助けて欲しかった、違うかしら?」
志織の言葉が、涼の胸に突き刺さる。
『晴己さんは斉藤さんの為なら何だってするんだよ。俺に頭をさげる事も、嘘をつき続けることも。それをされた俺がどんな気持ちだったと思う?俺の中で完璧で誰よりも尊敬していた人なんだ。俺の中の晴己さんを壊したのは斉藤さんじゃないかっ!』
晴己に見捨てられたと思って傷つき、むつみへの想いに惑わされていた優輝が叫んだ言葉は、涼の心に重く残っていた。



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