夜な夜なシネマ

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『コット、はじまりの夏』

2024年02月08日 | 映画(か行)
『コット、はじまりの夏』(原題:An Cailin Ciuin)
監督:コルム・バレード
出演:キャサリン・クリンチ,キャリー・クロウリー,アンドリュー・ベネット,マイケル・パトリック他
 
前述の『燈火は消えず』とハシゴ。同じくなんばパークスシネマにて。
 
第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたアイルランド作品。
コルム・バレード監督はこれが長編デビュー作なのだそうです。
 
アイルランドの田舎に暮らすコットは9歳の少女。
両親は牧場を営んではいるものの、父親のダンは酒浸りでギャンブル好きのろくでなし。
金もないのに母親のメアリーは子どもを産み続け、コットの上には姉3人、下には赤ん坊、さらに今も妊娠中。
誰もコットに注意を向ける者などおらず、学校でも変わり者扱いされている。
 
両親はそんなコットを持て余し、夏休み中、家から追い出すことにした様子。
親戚夫婦のもとに預けることで話がまとまったらしい。
預けた先にいつまで預かってもらうか期限など切らずに、
好きなだけどうぞと言えばいいさという両親の会話を聞いてしまう。自分は要らない子なのか。
 
父親の車に乗せられてたどり着いたのは、メアリーのいとこアイリンとショーン夫婦の家。
手入れの行き届いた家、豊かな自然、愛情深い夫婦。
優しさ溢れるアイリンと、ぶっきらぼうで目すら合わそうとしないが善人だとわかるショーン。
生まれて初めて自分の居場所を見つけたコット。
 
「珠玉の」と言いたくなる作品に巡り会うことは年間にそう何度もありません。
これはそう言いたくなる。
 
ろくでなしどころか人でなしであろう父親。
コットを愛してはいるけれど、父親の言いなりになっているのであろう母親。
姉3人は意地悪なことこのうえなく、赤ん坊は一日中泣きわめいている。
こんな環境でまともに暮らせるはずもなく、コットはいまだにおねしょをしています。
アイリン宅でも預けられた初日におねしょをしてしまって、叱られると思いきや、
「まぁ大変。このマットレスはずっと湿っているのを忘れていた」なんてアイリンが言ってくれる。
 
ほとんど口をきかないショーンとふたりで過ごさざるを得なかった日、
その場を離れたせいでショーンから怒られます。
言い過ぎたと思ってもそれを口に出せないショーンの謝り方もいい。
テーブルの上にそっと置いて行くひとかけらのお菓子。
 
人に怯えながら生きていたコットが、アイリンとショーンのもとで笑顔を見せる。
彼らが自分たちの息子を亡くしていたことをいけずなババァから知らされてショックを受けるも、
コットが単なる身代わりとして大切にされていたわけではないことがわかるから、
その後も亡くなった息子の服を着続ける描写にジーンと来ました。
 
元の家族のもとへは返さないで。心底そう願いました。
血のつながりだけがすべてではない。

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