「心にダムはあるのかい」
他人のために涙を流すやさしさが、君たちの心にはあるのですか。
ドラマ『ひとつ屋根の下」のなかで、あんちゃん(江口洋介が演じた)の口グセだった言葉です。
この言葉には、心にダムがある人は心が潤っていて、自分のまわりに悲しんでいる人、つらい思いで心が枯れてしまいそうな人がいたら、自分の水を分けることができるというメッセージが含まれているのです。
みんなが心の余裕を失いがちな今日この頃、自分のことで精いっぱいで、他者のことをかまわず、自分さえよければと利己的になる風潮が漂っています。
そのとき、立ち止まって、この言葉をかみしめたいと思うのです。
この小説に出てくる主人公コペルくんの相談相手はおじさんであり、おじさんがコペルくんに書くノートが随所で紹介されていきます。
そのノートの一節で、コペルくんに問いかける場面があります。
「自分は消費ばかりしていて、(学生の)きみは何一つ生産していない。しかし、生産していなくても毎日大切なものを生み出しているんだ」とコペルくんに言っています。
では、何を生み出しているのかとなりますが、卒業生にわたしは、「みなさんも3年間でものは生産していなくても、大切なものを生み出してきたのです。それは何だったと思いますか?」と問いかけました。
そして、答は各々自分で見つけ出してほしいという願いを添えました。
さらに、これからの将来生きていく中でいくつもの問いに出会うだろうが、自分自身で答を見つけ出してほしいというメッセージを贈りました。
式辞の最後では「君たちはどう生きるか」と問いかけて、あいさつの結びとしました。
難しい問いだったかも知れませんが、帰宅してから「親子で3年間でうみだしてきたものを息子と話し合いました」と伝えてくださった親御さんがおられました。
たいへん奥の深い小説が『君たちはどう生きるか』なのです。
家からは、当時電車で1時間ほどはかかりました。
家族揃ってデパートへ行き、ちょっと高級な買い物を済ませ、昼食をとり、屋上の遊園地で遊ぶ。
これが阪急電鉄の創始者小林一三が生み出した、鉄道会社がもつ電鉄系百貨店の役割でした。
つまり、家族で出かけちょっと贅沢ができ、楽しい時間を過ごすことができる場所が、当時の百貨店だったのです。
そのなかでも、阪急百貨店や阪神百貨店は、庶民をひきつけ、梅田にどっしりと今でも根を下ろし君臨しています。
とってかわったのが、小売業ではコンビニであり、売り上げを伸ばし好調です。
こんびは若い人だけでなく、中高年が増え、いまは50歳以上の利用者が年代別ではいちばん多くなっています。
なんといっても「近くて便利」なのは、コンビニの大きな強みです。
わずか半世紀での小売業の大きな変遷を、しみじみと感じるのです。
日本の社会は、昔に比べて独身者を受け入れる許容量が増えてきたように思います。
また、人びとのなかにも一人でいることの自由を大切に思う人が増えてきたのです。
女性の場合、東京では結婚はしないけど、ウエディングドレスを着たいという人が着て写真におさめることが流行していて、20代から30代の未婚女性に人気があるそうです。
内閣府の調査では、未婚者数はこの半世紀の間にきわめて増えました。
50歳での未婚率は1970年に男性で1.7%、女性で3.3%でした。ところが2020年には各々28.3%、17.8%にまで急増しました。
キャリア重視で仕事をする女性かが増えたことも原因していると思われます。一部の企業には業績向上に関係するかもしれません。
しかし、将来的に見たときには、未婚者の増加は一人暮らしの高齢者を社会が抱えることになります。
すると、孤独死や認知症老人の介護の問題が派生してきて、深刻化する心配があります。
個人の意思を尊重しながら、どのようにしたら多くの人々が住みやすい社会になるのか。
これは喫緊の課題です。
もちろん気を抜いたり、息をつく時間も必要です。
そのメリハリは必要でしょうが、集中してものごとに取り組むときも人間には大切だと思います。
「必死に」という言葉は、「必ず死ぬ」とかきます。
だから、「今しかないですよ」というメッセージが、「必死」と背中合わせで息づいているのです。
「死」というものは、ときとして残酷です。
もっと野球選手として活躍したいという願いをもっていても、命をとります。
古くて恐縮ですが、昭和のマンガに『巨人の星』があります。
主人公のジャイアンツの星飛雄馬投手は、宮崎のキャンプで美奈さんという女性と知り合います。
美奈さんは施設の子を連れて、ジャイアンツの練習を観に来ていました。
そのとき、星投手の投げたボールがそれて、その子のところへ飛び込みました。
さいわいその子にケガはなかったのですが、星投手は謝りに行きました。
「つい、うっかりして」と弁解する言葉が発されるやいなや、美奈さんは容赦なく星投手を平手打ちにします。
その後、星飛雄馬と美奈さんは恋仲になるのですが、のちに星飛雄馬は美奈さんが悪性の骨肉腫に侵され、もう幾ばくもない命であり、一日一日を必死に生きていることを知るのでした。
毎日を必死に生きている美奈さんにとっては、「子どもがケガをしたらどうするの」。星飛雄馬の「うっかりして」が許せなかったのです。
さて、そう考えると「今しかない」と自覚するこは、人生を、生き方を豊かにする秘訣です。
「そのうちに」はないのです。
人間、思い立ったときがそれをするタイミングです。
いいかえれば、死を意識することで、生をより深く味わうことができるのでしょう。
子どもの貧困問題が、よくメディアや政府・行政関係者に取りあげられるようになりました。
また、民間でも「子ども食堂」の運営など、貧困対策への取り組みが進んでいます。
今年7月に公表された子どもの貧困率は11.5%で、ピークだった2012年の16.3%からは減少する傾向が見られます。
これは、リーマンショックの2009年度からみると、親の就業率が上昇したからと考えることができます。
そもそも子どもの貧困は、学力の格差を生むという教育問題につながるのです。
義務教育は、地域や親の経済状況などに関係なく、中等教育までの学力をどの子にも等しく保障するのがそのねらいです。
極端な学力格差をうまない環境整備・条件整備が必要です。
その点でみたとき、親がまっとうに働いているのに、子ども一人を養えない社会は、やはりおかしいのです。
そのような社会を変えていこうとする動きや手立てが必要です。