言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

三峡ダムの問題点

2010-06-06 | 日記
柘植久慶 『宴のあとの中国』 ( p.40 )

 中国の電力事情は、文字どおり綱渡りであり、とりわけ中国大陸南部――福建省や広東省方面で不足状態が顕著だった。二〇〇六年頃から既に限界に達していたのだ。
 日本から進出した企業の工場もこれらの地域においては、電力供給の制限を当局から要請され、自家発電能力がないと操業が十分にできない、との状況に追いこまれている。その状態は二〇〇八年に入ってもずっと続いてきた。
 ピークはやはり北京オリンピックで、このため六月頃から計画的停電が実施された。しかしながら七月に入って暑さが手伝い、電力事情は急速に悪化した。予想以上に電力の消費が生じたからにほかならない。
 中国大陸の北京首都圏を除く各地では、単純な電力不足による停電が続出したのである。中国政府は直轄市のような大都市だと影響が大きいことから、末端の小都市に犠牲を押しつけたようで、このため広く報じられなかったのだ。
 中国の発電能力は極めて低く、しかも旧態然とした石炭による火力発電で、大気汚染の元凶として知られた。しかも効率が非常に悪い。
 この事態は一九九〇年代初頭に、既に予測されていたことであった。そこで一九九二年の第七期全人代第五回会議において、長江の三峡ダムを建設する議案が提出され、三分の二の賛成で可決された。
 これが完成すれば中国の必要な電力の一〇分の一をまかなえることから、誰もが双手 (もろて) を挙げて賛成すると思われた。それが三分の一もの反対者や棄権者を出すという、全人代にとって異例の状態を現出したわけである。
 賛成しなかった総数二六三三票のうちの八六六票――およそ三分の一の票は、三峡に満水時で三九三億立方メートルという大量の水を貯えると、どのような影響が及ぶか判然としないことで、建設に二の足を踏んだのだった。


同 ( p.245 )

 その一四〇〇万人規模――あるいはそれ以上の死者が出そうなのが、四川省の三峡ダムの決壊である。これは場合によって億からの死傷者が出る、という可能性を有しているのだ。
 この三峡ダムは既に貯水を開始しており、二〇〇九年に入って満水に達する計画になっている。ここで発電が本格化すれば、中国で現在必要とされる電力――その一〇パーセントを供給できると言われる。
 中国では経済発展が始まって以来、慢性的に電力不足に陥ってきた。広東省方面では外国企業を多数誘致しながら、突然の停電で創業できない工場が続出した。自家発電設備を持っていないと、工程がすべて働かなくなるのでたまったものではない。
 北京オリンピックの期間中には、河北省方面の火力発電所を稼働させなかったことで、北京に電力不足という問題が生じた。このためかなり遠くの地域から電力を融通したため、華北の工場が停電で操業できない、という事態を招いたのであった。
 だから長江の三峡にダムを建設するという計画は、中国の電力不足を一気に解決してしまうものとして、産業優先派から大いに期待された。一九九〇年代に入ったところだから、経済開放政策に則した考えと言えた。
 ところが九二年の第七期全人代第五回会議において、投票が実施されたところ思いがけない結果を生んだ。全投票数二六三三票のうち、賛成派一七六七票しか集められなかった。つまり三人に一人は否定票を投じたのである。これまでの全人代の賛否投票としては、異例の内容だったのだ。
 反対の理由としては、土砂堆積が生じダムを建設しても直ぐ埋まり、異常気象の原因となって四川盆地が旱魃 (かんばつ) を生じ、水質汚染を引起こしてしまう。更に歴史的な名勝などが数多く水没し、文化的に問題も大きいことが指摘された。より重要なのは巨大地震を招く、という指摘だった。
 四川盆地の異常気象は、二〇〇八年三月の季節外れの大雪で、まず実証された恰好になる。ダム湖が巨大な汚水池と化す危険性は、もう既に傾向が見られ始めた。土砂堆積もやはり顕著である。
 私は次にくるものが大地震だと考えていた。だから二〇〇八年五月の四川大地震は、その第一報を知ったとき、まさにそれではないかと直感したほどだ。直ぐにその原因がヒマラヤ・プレートによるものだと判ったが、三峡ダムを震源とする大地震はいつ起こってもおかしくない。
 それでは三峡ダムが何故、大地震の原因となるのだろうか――。
 その理由はダム湖が満水になると、水位が最大で一八〇メートル以上高くなってくる。そうなるとこれまで水に浸されたことのなかった両岸が、流れに浸蝕されたり凄まじい水圧に直面するわけである。三九三億立方メートルもの水の量が、両岸のこれまで圧力のかかったことのない部分にまで、新たに圧力がかかってしまうため、周辺地域全体の地盤に影響を及ぼすのである。
 それ以外にも隙間から水が入りこみ、地下で地形を変えて大地震を引起こす、ということも考えられる。何しろ水圧の力は大きい。活断層を刺戟してしまった場合、思いがけない強大な直下型地震に繋がる、との可能性を捨て切れないのだ。
 では、三峡ダムが決壊したときどのような事態を招くだろうか。シミュレーションを展開してみたい。


 中国の電力不足を解消するために計画された三峡ダムについては、問題点も指摘されている。大地震、ダム決壊の危険性、異常気象、干ばつ、水質汚染、歴史的な名勝などの水没である、と書かれています。



 393 億立方メートルの貯水量というと、すさまじい量だと思います。比較のために、日本のダムについて調べてみると、

Wikipedia」 の 「日本のダム一覧」 ( 「総貯水容量順」 ランキングの項 )

   単位は堤高がメートル、総貯水容量が1,000立方メートル、湛水面積がヘクタールである。

順位所在地水系河川ダム型式人造湖総貯水容量管理者完成年
1岐阜県木曽川揖斐川徳山ダムロックフィル徳山湖660,000水資源機構2008
2福島県・新潟県阿賀野川只見川奥只見ダム重力奥只見湖601,000電源開発1960
3福島県阿賀野川只見川田子倉ダム重力田子倉湖494,000電源開発1959
4北海道石狩川夕張川夕張シューパロダム重力(シューパロ湖)433,000国土交通省2012
5岐阜県庄川庄川御母衣ダムロックフィル御母衣湖370,000電源開発1961


とあり、最大のものでも 6 億 6000 万立方メートルしかありません。



 さて、問題は三峡ダムの危険性です。

 393 億立方メートルといえば、393 億トンですから、大地震の引き金になってもおかしくないと思われます。また、ダム自体の重量によって引き起こされた大地震によって、あるいは他の原因によって引き起こされた大地震によってダムが決壊した場合、393 億立方メートルもの水が、一気に流れ出すことになります。

 三峡ダムについては、

Wikipedia」 の 「三峡ダム

によれば、

   堤高    185・0 m
   通常水位  175・0 m

とありますから、ダムが決壊すれば、ダム湖の水が

   高さ 100 メートル以上もの濁流 (!)

となって、怒涛のごとく、一気に流れ出します。その場合、甚大な被害が発生するはずです。



 ダムそのものは、頑丈に造られているはずで、よほどのことがないかぎり、決壊することはないと考えてよいと思います。したがってダムが決壊するとすれば、大地震の場合にかぎられる、とみてよいでしょう。

 とすれば、問題は本当に大地震が発生するのか、に絞られます。しかし、これについては、予想不可能である、というほかないのではないかと思います。



 ここで、すこし視点を変えて考えてみます。

 中国が、どこかの国と戦争を始めた場合 (どちらが先に攻撃を仕掛けたかはともかく) について考えます。

 戦争になれば、三峡ダムは絶好の攻撃目標になります。中国の敵国にしてみれば、三峡ダムを破壊すれば、核兵器以上の効果 (破壊力) が得られるからです。おそらく、核兵器数百発分以上に相当する被害が、中国には生じるはずです。

 つまり、中国は、三峡ダムを建設することで、戦略的に不利な立場に立たされます。

 北京こそ長江流域にはありませんが、ダムの下流は中国の重要な経済地域です。重要な穀倉地帯でもあります。そのような場所に巨大なダムを建設するなど、通常の感覚では考え難いと思います。なにか、よほどの事情があったとみなければなりません。



 それでは、その「よほどの事情」とは、なにか。

 考えられるのは、著者の指摘している中国の電力不足です。

 しかし、中国は本来、(多少の) 経済発展を犠牲にしてでも、国防上の要請を優先させる国だったのではないでしょうか。このように考えると、ここからは、二つの可能性が浮かび上がってくると思います。

 一つは、中国という国家の変質です。三峡ダムの建設をもって、中国が経済発展第一主義になった、とみる。しかし、そうであるなら、中国の潜水艦が活発に活動している現状は、説明不可能であると思われます。

 一つは、中国の指導部は三峡ダムが攻撃されることなどあり得ない、と考えている可能性です。現実問題として、三峡ダムを攻撃するとすれば、米国以外には考えられないと思います。したがってこのシナリオに沿って考える場合、(よほどのことがないかぎり) 中国には米国と戦う意志はない、とみることになります。



 すでに、前者の可能性については否定していますので、後者であるとみてよいと思います。したがって日本としては、安全保障を考えるならば、米軍基地の存在は必要不可欠である、と結論することになります。

 話が逸れてしまいました。今日はこのへんで切り上げます。

2 コメント

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三峡ダム建設に賛成しかねる人が、そんなに多くおられたとは・・・ (渡辺ハチロー)
2011-01-10 16:17:51
そんなに多くの中国の方が、その建設ににわかには賛成しかねる、と思われていたことは、ちょっとショックでした。
確かに、あのダムの水圧が地震の引き金になることは、否定できませから・・・。
それより、ダムの構造材は、数世紀を掛けて強度劣化します。コンクリートは、天然岩とは違いますから。そのときは、今のダムの内側か外側に、もう一度同じ壁や発電設備を作るのでしょうが、そのことは技術的に2考慮されているのでしょうか。技術者OBの一人として、考えさせられました。ありがとうございました。
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Unknown (memo26)
2011-01-10 17:30:50
 コメントありがとうございます。

> そんなに多くの中国の方が、その建設ににわかには賛成しかねる、と思われていたことは、ちょっとショックでした。

 技術的にみて、建設は合理的である(つまりあなたが担当者ならゴーサインを出す)と考えてよいでしょうか? とすれば、三峡ダムはなかなか決壊しないかもしれませんね。

 なお、うろ覚えですが、中国の指導部(政界実力者)には、たしかダムの専門家がいたと思います。したがって、技術的な問題は十分に考慮されているのではないかと思います。
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