言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

家賃規制の効果

2011-06-29 | 日記
N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.131 )

 価格の上限のよく知られた例として家賃規制がある。多くの都市では、地方政府は家主が借家人に請求できる家賃に対して上限を設定している。この政策の目的は、住宅を手に入れやすくして貧困層を援助することにある。経済学者はしばしば家賃規制について、貧困層の生活水準を高めるための援助方法としてはきわめて非効率的であると批判している。ある経済学者は、家賃規制のことを「爆撃を除けば都市を破壊する最善の方法」といった。
 家賃規制の好ましくない影響は、一般の人々にはあまりはっきりとわからない。その効果が表れるまで何年もかかるからである。短期においては、家主が所有している賃貸アパートの数は一定であり、市場の条件の変化に応じてすばやく増減させることはできない。そのうえ、都市で住宅を探している人々の数は、短期的には家賃に対してあまり感応的でないかもしれない。人々が住宅を移るためのさまざまな手配には時間がかかるからである。したがって、住宅に対する短期の需要と供給は比較的非弾力的である。
 図5-3のパネル(a)は、家賃規制が住宅市場に及ぼす短期の効果を示している。他の拘束力のある価格の上限と同様に、家賃規制は住宅不足を引き起こす。ただし、需要と供給は短期においては非弾力的なので、最初は家賃規制が行われても住宅はあまり不足しない。短期における主な効果は家賃を引き下げることである(弾力性については本章の補論を参照)。
 ところが長期になると話はまったく変わってくる。なぜなら賃貸住宅の借り手と貸し手は、時間が経過するにつれて市場の条件により強く反応するようになるからである。供給側では、家主は低家賃に反応して、新しいアパートを建てなくなったり、また既存のアパートの補修を怠るようになる。需要側では、家賃が下がると、人々は(両親と一緒に住んだり、ルームメイトとアパートを共有したりする代わりに)自分自身のアパートを探す気になり、またより多くの人々が都市に移り住むインセンティブをもつようになる。したがって、需要と供給はどちらも長期のほうが弾力的である。
 図5-3のパネル(b)は、長期における住宅市場の例を示している。家賃規制によって家賃が均衡水準以下に押し下げられると、アパートの供給量は大幅に減少し、アパートの需要量は大幅に増加する。その結果、住宅不足が拡大する。
 家賃規制を行っている都市では、家主は住宅の割当てを行うためにさまざまなメカニズムを用いる。一部の家主は入居希望者の長いリストをもちつづける。他の家主は子どものいない借家人を優先する。さらに別の家主は人種によって差別する。時には、アパートの管理人に進んで賄賂を渡す人にアパートが割り当てられることもある。実際、こうした賄賂は(賄賂を含めた)アパートの総価格を均衡価格の水準に近づける。
 家賃規制の影響を完全に理解するためには、第1章の経済学の十大原理の一つを思い出さなければならない。すなわち「人々はさまざまなインセンティブに反応する」のである。自由市場では、家主は自分のアパートを清潔で安全にしておこうと努力する。魅力的なアパートにはより高い価格がつくからである。対照的に、家賃規制によって住宅不足と入居希望者のリストが発生するときには、家主は借家人の関心に反応するインセンティブを失う。現状のままでも入居するのを待っている人がいるのに、なぜ家主が建物を維持改良するためにお金を使わなければならないのか。結局、借家人にとって家賃は安くなるが、同時に住宅の質も下がる。
 政策立案者は、家賃規制のそのような影響に対して、しばしばさらに規制を課すことで対処しようとする。たとえば、住宅供給における人種差別を違法とし、また最低限の適切な居住条件を提供することを家主に義務づける法律がある。しかしながら、これらの法律は執行が困難なうえに費用を要する。対照的に、家賃規制が廃止され、住宅市場が競争の作用によって規制されるときには、そのような法律の必要性は少なくなる。自由市場においては、住宅不足がなくなるように家賃が調整され、その結果家主の望ましくない行動を引き起こさないからである。


 価格の上限を規制する家賃規制は、(長期的にみれば)その目的に反して貧困層の生活水準を高めることにはならない、と書かれています。



 文章を読めば著者が云わん(いわん)としていることはわかると思いますが、

 経済学特有の(?)考えかたを示すために、引用文中の「図5-3」を示します。わかりづらいかもしれませんが、下図の **** は座標軸を示しており、xxxx は需要曲線・供給曲線を示しています。また、---- は家賃の規制価格を示しています。



★図5-3 短期と長期における家賃の規制

(a) 短期の家賃規制(需要と供給が非弾力的)

 アパートの家賃
   *     供給        
   *  xx  x          
   *   xx x          
   *    xxx          
   *     xx         
   *     x xx        
   *     x  xx       
   *     x   xx   家賃規制
   *----------x########x----------
   *     x  ↑  xx    
   *       不足  需要  
   ****************************
  0            アパートの数

(b) 長期の家賃規制(需要と供給が弾力的)

 アパートの家賃
   *          供給   
   * xx       xx     
   *  xx     xx      
   *   xx   xx       
   *    xx xx        
   *     xx         
   *    xx xx       
   *   xx   xx   家賃規制
   *----x############x----------
   * xx   ↑   xx    
   *     不足   需要  
   ****************************
  0            アパートの数



 図(a)(b)ともに、市場で契約されている家賃(相場)が高すぎるので、法律で「相場価格の」家賃を禁じ、低い家賃での契約を強制している状況が想定されています。

 価格が低くなるほど需要が増え、供給が減ることはあきらかで、(a)(b)のグラフの形状に疑問はありません。そしてその結果、需要に応えきれない部分、すなわち「不足」が生じることにも、疑問はありません。



 結局、需要に比べて供給が少なすぎるために、借りたい人全員が借りられず、また、家主(貸主)の側には物件の質を維持するインセンティブが消失してしまい、住宅の質が低下する。したがって、家賃規制はその目的に反し、借主の利益にならない、という「意外な」結果をもたらす。この主張には説得力があります。



 「規制」ではなく、「規制緩和」がよい結果をもたらす好例だと思います。



■追記( 2011-07-05 )
 グラフの表示が、環境によっては「歪む」ようです。Opera で確認したところグラフが歪んでいます。回避する方法がわからないので、グラフの形が歪んでいる場合は「おそらくこういう形だろう」と適当に判断してください。

コメントを投稿