言語空間+備忘録

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生産のモジュール化と、サプライチェーンのハブ

2010-05-01 | 日記
アレクサンドラ・ハーニー 『中国貧困絶望工場』 ( p.64 )

 人々に物を売ることで得られる利益のパイに関しては、ほとんどの場合、製造業者の取り分が最も少なく、製品によっては数パーセントにも満たないことがある。一方、小売業者やブランド業者の取り分は大きい。工場出荷時点から小売店の陳列棚に置かれるまでに、製品の価格は二倍から一〇倍、時にはそれ以上の価格に跳ね上がるものだ。
「我々には、『濡れ手に三ドル』という表現がある。つまり、中国での生産段階では一ドルだったものが、小売業者の手に渡るときには四ドルになっているということだ」
 そう語るのは、香港を拠点に活動する商社である利豊 (Li & Fung) のブルース・ロコヴィッツ社長である。彼の会社は、国際的な大企業向けに中国も含めたグローバルなロジステックスと生産業務を提供している。彼の話は続く。
「米国が必ずしもよく理解していないと思われるのは、中国で生産しているからこそ得られた価値は中国にはほとんど残らず、その大半がブランド業者、小売業者、消費者に回されるという事実である。また、実際に生産を担当している工場は儲けが薄い。率直に言うと、中国で生産している工場はほとんど採算が取れていないと思う」
 その理由の一端は、中国が消費財の大量生産者として登場した時期と生産工程の一大変革期が一致していたことにある。西側の企業は何十年も海外に生産拠点を求めてきたが、ごく最近になり、様々な製品を規格化された小さな部品に分解し、複数の企業による複数の国での部品生産を可能にするモジュール化という技術が出現した。これにより、生産部門で得られるはずの利益は三分の一、四分の一、あるいはそれ以上に薄められてしまったのである。
 例えば、シャツを生産する場合、韓国の工場が紡糸を供給し、台湾の工場が製織と染色の工程を担当し、タイの工場では裁断加工と縫製作業が行われる。米国で販売されているノートパソコンは、カナダで設計された台湾製グラフィックチップ、日本製のハードティスク、韓国製液晶モニターという組み合わせかもしれない。あるいは、これらの工場が中国の一つの省の中にすべて集結していることもある。
 いわゆる生産のモジュール化により、中国の工場はグローバルサプライチェーンにおける部品生産に特化することで圧倒的な競争力を持つようになった。従来は洗練された贅沢品に思えた携帯電話、DVDプレーヤー、薄型テレビなどが簡単に導入できる日用品に一変した背景には、このような事情があったのである。
 これに伴い、サプライチェーンを支配している企業 (その多くは欧米のブランド業者や小売業者) が生産工程のさらなる加速化を推進できる状況になっている。玩具産業などでは、製造業者は新しいモデルの導入を早め、急速に変化を遂げる技術を利用したり、消費者のニーズを刺激したりしている。経営コンサルティング会社のカート・サーモン・アソシエイツ (KSA) でグレーターチャイナ (大中華圏) 担当取締役のスティーブン・ディクソンは、次のように指摘する。
「アパレル業界は春秋などの固定化した季節にとらわれなくなっている。その代わりに、例えばザラ (ZARA) のブランドを持つスペインのアパレルメーカー『インディテックス』が開発したモデルなどを志向する傾向が強まっている。ザラの場合、もはやシーズン物という考え方がない。店舗ではいつも様々なバリエーションの商品が陳列され、商品の流れが途切れることはない」
 ザラでは、わずか三週間で商品の企画から生産、店舗内での陳列までを終える。グローバル資本主義は勢いを増す一方であり、製造業者に対して生産スピードの加速化、時には少量発注にも対応せよとプレッシャーを強めるばかりである」
 生産のモジュール化により、ブランド業者や小売業者は納品業者を随時入れ替えることが容易になってきた。消費財を生産する軽工業の多くで見られる最も顕著な傾向は、バイヤーと工場の関係が淡白になってきたことだ。特に、「ビッグボックス・リテーラー」と呼ばれる巨大な箱型店舗を構えるディスカウントチェーンが出現してからは、バイヤーは仕入れ値の安い業者であれば国や地域を問わず優先的に取引するようになった。
 米イリノイ州を拠点に一〇年以上も西側のバイヤーと中国の工場を仲介してきた実業家ジム・ストラウスに言わせれば、この安値を追い求める過酷な競争は「(価格ゼロに向かう) 究極の価格競争」と呼ぶにふさわしい状況を引き起こした。
 このような動きのおかげで、手頃な価格で商品を供給する彼らのビジネスモデルが定着するようになったのである。買い物客は価値が下がり続けることを期待し、商品を供給する小売業者や卸売業者も納入業者に値下げを要求し続ける。納入業者である工場側がこれに応じられない場合、取引先は別の工場を探すことになる。小売業者はこのようなやり方が永遠に通用すると確信するようになった。


 モノを売ることで得られる利益は、製造業者の取り分が最も少なく、「その大半がブランド業者、小売業者、消費者に回される」。その原因は、生産のモジュール化にある。製造業者 (納入業者) が価格を下げたり、「生産スピードの加速化、時には少量発注にも対応」 しなければ、「取引先は別の工場を探すことになる」 、と書かれています。



 生産のモジュール化によって、製造業者の儲け ( 取り分 ) が減る――。

 「製造業の効率向上には、サービス業の効率向上も重要」 でみたように、製造業は、日本の生命線だといってよいと思います。

 したがって、生産のモジュール化によって製造業の利益が減るのであれば、製造業立国たる日本にとっては、悪夢のような話です。

 そこで今日は、この問題を考えたいと思います。



 生産のモジュール化によって、なぜ、製造業者の儲けが減るのか。

 これはおそらく、生産のモジュール化とは、要するに徹底的な分業にほかならないからだと思います。製品の製造工程を徹底的に分解し、異なる業者が担当する道を拓くのですから、部品・工程ごとに、優位性のある業者が参入することが可能になります。

 したがって、部品・工程ごとに、本格的な競争が始まることになり、その段階における利益 ( 製造業者の儲け ) が減ってしまうのだと考えられます。



 それでは、( 製品価格が下がるのは当然として ) なぜ、小売業者の取り分 ( …の割合 ) が増えるのか。

 上記引用を読めば、小売業者の取り分 ( …の割合 ) が増えるのは、

   製造業者 (納入業者) が価格を下げたりしなければ、
   取引先は別の工場を探すことになる

からだとわかります。

 ここでは当然、小売業者が 「大規模な業者であり、強力なバイイングパワーをもっている」 ことが前提となっています。上記引用文中の説明は、国際取引における大規模小売業者を想定して書かれていますし、そもそも、小規模な小売業者では 「別の工場を探す」 といっても限度があり、交渉力にも限界があります。



 とすると、「生産モジュール化のもとで利益を生み出すポイントは、強力なバイイングパワーにある」 、といってよいと考えられます。生産モジュール化などなくとも、バイイングパワーは利益をもたらしますが、モジュール化 ( …とサプライチェーン ) によって製造業者間の競争が ( 以前に比べて ) 激しくなるために、その効果が大きくなるのだと考えられます。



 ここで、頭に浮かんでくる企業群があります。日産やトヨタ、ホンダなどの企業です。要は、

   大規模なサプライチェーンのハブに位置する企業が、利益の大部分を得る

のであり、ハブに位置する企業は、( 小売業者ではなく ) 製造業者であってもよいのです。自動車産業が典型的だと思いますが、組み立て業者 ( 完成品製造業者 ) は、まさに、大規模なサプライチェーンのハブにあたります。

 したがって、このような企業においては、製造業者であっても、小売業者に利益を奪われることなく利益を確保しうる、といってよいと思います。



 なお、生産のモジュール化について、私は 「電気自動車がもたらす日本の未来」 で、( 電気自動車が普及すれば、生産のモジュール化によって ) 日本の未来は暗くなると予想していますが、

   「製造業と小売業の間における利益分配」 の話と、
   電気自動車についての 「日本と海外の製造業者間競争」 の話とは、

話の次元が異なり、整合性は問題にならないと思います。

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