是本信義 『経済大国カルタゴ滅亡史』 (p.15)
紀元前八~三世紀、北アフリカを本拠とする経済大国カルタゴは、「地中海の女王」と呼ばれてその繁栄を誇っていた。
滅亡した母国フェニキアのあとを受けつぎ、地中海貿易をはじめとする広い商業活動により、古代世界の富のほとんどを独占していた。
無限の経済力と莫大な資産を持つこの商業帝国は、やがて高度文明の末期的退廃をしめし、国家建設の民族的精神を失ってしまい、いたずらに個人主義、利己主義、功利主義、そして経済至上主義に走るようになった。
とくに、その富をまもるべき安全保障政策を軽視した結果、三回にわたる「ポエニ戦争」により、かつては歯牙にもかけなかった新興国ローマに滅ぼされてしまった。
カルタゴを滅ぼしたローマは、それを機に地域国家から世界的大帝国へ発展していくが、
このカルタゴの描写、どことなく、いまの日本に似ている気がしないでもない。
ところで、ローマは農業国であり、カルタゴは商業国である。
したがって、ローマにしてみれば、軍事力をもって国土を守ることが、経済基盤を維持するうえで、なによりも重要であったはずである。それに対して、カルタゴにしてみれば、加工貿易を行う通商路さえ確保されれば、すくなくとも経済的には、領土 (土地) の確保に固執する理由はなかったはずである。
ローマに比べ、カルタゴが 「いたずらに個人主義、利己主義、功利主義、そして経済至上主義に走」 り、「その富をまもるべき安全保障政策を軽視した」 ことは否定しえないとはいえ、富を生みだす形態の違いによって、軍事力に対する必要性や考えかたが異なっていたことも、否定しえないと思われます。
すなわち、カルタゴの態度には、ある程度の必然性があったといえると思います。
それでは日本はどうか、と考えれば、日本は農業国とは言い難く、加工貿易を行う商業国 (商工業国) であろうと思います。とすると…、日本では、「反戦平和」 を説く人に、軍事力の必要性を説くのは難しく、したがって…、
このままいくと、日本がカルタゴとおなじ末路をたどるのではないか、と気がかりでならない。