最近我が家は外車に買い替えた。もちろん中古だ。
過去にも、イタリア、フランス車と乗った経験がある。
しかし、つくづく子持ち主婦には外車は不向きだと思う。
まず、すぐエンストする。ハンドルが重い。アクセルが重い。左ハンドルの場合スーパーの駐車場で清算の際、必ず降りなければならない。etc…。
今回はドイツ車のワーゲン。幸いハンドルは右だったのでそれは良かったが、買って3ヶ月もしないのに、つい1ヶ月ほど前には、子供二人を乗せて信号待ちしている時、いきなりエンジンが止まってしまった。
あの時は何度も何度もキィを回しては、だましだまし徐行を繰り返し、どうにか一番近くのガソリンスタンドの入り口までたどり着いた。
しかし、それ以上全くエンジンがかからなかったため、中から店員がわらわらと駆けつけ、皆で押して中へ入れてくれた。
このときは実は雨で、買い物の帰りに子供達を近くのピアノ教室に連れて行く途中だった。スタンドのスタッフに点検を依頼した後、私は仕方なく車内にあったビニール傘一本を手に、二人の子供を連れて一キロの山道を先生のお宅まで歩いた。
このときの冒険談は今でも子供達の語りぐさだ。
この時駆け込んだスタンドのお兄さんは、とても丁寧に対応してくれ、なかなか好青年だった。首都圏では今は数少なくなってしまった、スタッフが全部やってくれるガソリンスタンドだが、割高でもそれ以降はよくここを利用している。
さて、問題の事件は昨日の夜に起こった。
そんなわけで修理も完了し、好調(とまではいかないが)な車は、私の毎日の足代わりだ。
なんせ家の周りは畑と果樹園と学校と公園しかない陸の孤島なのである。買い物も、お稽古に連れて行くのも、歩いて7分のコンビニに行くのさえ、坂道が多いので車を使う。
毎日乗っていると燃費もバカにならない。入れても入れても気がつくとガソリンはすぐになくなる。
昨日は夕食の支度中、肝心な食材がない事に気がついた。抜けてる私にはよくある事で、時間は6時を回っていたが、ちょいと車で隣りの駅前の大手スーパーに行く事にした。
息子は宿題をやっていたので、「20分で帰るから。」と留守番をさせ、下の娘だけ連れて出た。
車を出す際に、ガスメーターが一番下のメモリの1つ半ぐらい前だったので、ついでにガソリンも入れないと。と思ったのだが、うっかりいつも通りの道を曲がってしまい、真っすぐ行かなければならないガソリンスタンドに行けなかった。
「じゃ、帰りにしよう。」と思ったのが運のつき。
買い物を済ませた帰り道、またしてもうっかり同じ道を曲がってしまい、スタンドへ遠回りする事になってしまったのだが、悲劇はこの時起きた。
メモリは一番下に届くか届かないかの微妙な位置をさしていたが、給油マークはまだ赤くない。これに騙されたのだ!
なんの心配もなく走らせていると、いきなりアクセルを踏んでもスピードが出なくなった。「え?まさか、まさか?」と思っているうちに車から不穏な音が…
“どごっ、どごっ…ブブブブ…”
みるみる速度が落ちていくではないか!いったん止まったら、また動かなくなってしまうのではないか?1ヶ月前の悲惨な記憶がよみがえる。これで信号が赤にでもなったら!と思った矢先に赤信号(爆)。
仕方なく止まり、再スタートさせるが、やはり一回まわすだけではエンジンはかからない!後続車のクラクション、「ちょっと待って~」と思わず叫ぶ私。
すると後ろに乗っていた娘が「ママ~またとまるんじゃない?♪」これがけっこう楽しそうな声…。
なんとか3回目にかかるが、いちじるしく遅いっ(爆)、ごうをにやした後ろの車が追い越して行く。このままではこの農道が(笑)大渋滞である。私は少し左に寄せると停車し、とりあえず後続車を先に行かせた。
そしてまたエンジン。なんとかのろのろ動き出した。せめて!せめて!後5分のあのガソリンスタンドまで持ってくれ~!
しかし、力つきた車は
”どっ…どっ…どっ…すぅ~~~ん……”
と最後の叫びを上げて、全く動かなくなった。
最後の一走りでなんとか路肩には上げた。でも人んちの車庫前…ま、これは仕方ない。(爆)
ロードサービス?いや、うちは入ってない。んじゃスタンド行ってガソリンをもらってそれを持ってここに戻り、入れるか?
行こうとしていた一番近いスタンドは、大人の足なら7~8分だ。この子置いてくか?いや、それは危ない。夜で交通量もかなり多い。じゃ、この子連れて歩いたら10~12分か?…
とまぁ、あらゆる考えが頭を巡った。
とりあえず携帯で息子に電話をし「もう少し待ってて」と告げ。よしっと車を乗り捨て、車道を歩き出した。
時間はもう7時過ぎ。あたりはまっくらだった。
車道を楽しそうに遊びながら歩くので、娘を叱りつつ、やっとスタンドにたどり着いたが、さて、いきなり「ガス欠」で…なんて言ったらどう思われるだろう?
ったくこれだからおばさんは…とか思われるだろうか?
仕方ない!こうなったら私は今、20代のOLだ!そう思って「困ってるんですぅ~♪」この線で行こう!(笑)
しかし若いアンちゃんスタッフを前に開口一番出た言葉が
「助けて下さい!」だった。
しまった!こ、これじゃ20代のOLどころか、あぶないおばさんだ。
案の定ヘアバンドをしたスレンダーなアンちゃんの広いオデコに皺が寄る。
「は、はぁ…。」
「あ、えっと~実はこの先の交差点でぇ~♪」
今更語尾伸ばしたってダメだ。
「あのぉ、実はガス欠で、止まっちゃって♪」
今度は開き直ってちょー笑顔。やや恥ずかしそうにしてみる。
するとアンちゃんの顔もちょっと笑顔になり、
「あ、ガス欠ですか?」
「はい~(^^;それで、ポリタンクかなんかにガソリン入れて分けてもらえないかと~」
この言い方じゃまるで「お醤油分けてくれ」ってノリじゃんか!←私(爆)
ここはセルフスタンドにも関わらず、主要幹線道路との交差点にあるため、店内にもいろんな客がいてスタッフも忙しそうだった。
そうして待たされる事7、8分で、もう少し年上のアンちゃんが出て来た。
顔は決してイケメンではなかったが、浅黒い肌に潮焼けした様な茶色い髪、黒目が凄く薄くて鳶色が印象的なアンちゃんだった。たぶんサーファーだろう。
「ロードサービスは?」
「あ、あの、うち入ってないんです。」
「そうですか~本当はそういうところに来てもらう方がいいと思うんですけど。」
ってことはガソリンは売れないって事かい!?
「ガソリンはポリタンクには入れられないんですよ。」
「え!、じゃ、じゃぁ、やっぱりジャフかなんかに電話して来てもらわなきゃならないんですか?」
とそこまで私が言うと、対応していた途中の客から呼ばれ「あちらのお客様との対応中なのでちょっとお待ちください。」とアンちゃんは向こうに行ってしまった。
これはヤバい事になったかもしれない。手持ちのお金で足りるか?しかも家に残して来た息子も気になる。
娘はどこ吹く風で勝手に店内のハワイコーナーの太鼓を叩いて「あろーはー♪」と言っては遊んでいる。
ややあって戻って来たアンちゃんは
「えっと、ポリタンクはないんですが、ガソリンを携帯する携行缶(管?)っていうのがあって、それを保証金いただいてお貸しする事は出来ます。」
と言った。早くそれを言わんかいッ!
「じゃ、それでお願い出来ますか?」
「分かりました。保証金は一万円になります。」
「え?!あのいま7千円しかないので、カードでは~?」
「…い、いや、保証金は後でお返しするものですので、カードはちょっと…。」
「あ、そ、そうですよね。あはははは。」
一瞬の沈黙。
「…じゃ、5千円でいいです!」
というわけで、アンちゃんにその缶に5リットルのガソリンを入れてもらい。ガソリン代と保証金を払うと、私はそれを持った。しかし、これが重い。
たたでさえ重い鉄缶なのにそれに5リットルだ。
腕にずっしりとムダにデカイ四角い鉄の重みがひびく。しかし行かねば成らない!
「お気をつけて!こちらに戻ったら誰かに声かけてくれれば良いんで♪」
アンちゃんは私に声をかけた。最初のカタい印象は薄れ、とても爽やかな笑顔だったのを私は忘れない。
しかし、これで終わった訳ではない!これからあの車までこれを持って、しかも娘を連れて車道を歩いて行かねば成らないのだ。
さっきまでの主婦モードから一気に気分はサバイバルモードへ!あぁ、こんな事なら餃子の試食なんかしてないで、もっと早くガソリンスタンドに行けば良かった!
別に餃子を食べなくたって結果は同じだったろうが、こんな時はなんでも後悔してしまうものだ。
途中休み休み、娘に「走らないで~!」「待ちなさ~い!」「はやく来なさい~!」と声かけしながら、車がブンブン通り過ぎる車道を歩く事10分。なのに途中で携帯が鳴った。
見ると自宅からである。
「もしもし?どうした?」
「ママ~、解らないところがあるんだけどぉ~。」
算数のドリルをやっていた息子の声。まったく!こんな時に!!(爆)
「帰ったら教えてあげるから、そこ抜かしときなさい。」
「分かった~、今何してるの?」
「ガソリン運んでるのッ!!」
息子に当たっても仕方ないが、なんというタイミングでなんという電話だろう。(笑)
やっとの事で車に戻り、給油口をあけてガソリンを移している最中、何台もの車が私を避けながら通り過ぎて行ったが、いったいこんな所でこのおばさんは何をしているんだろう?…と皆不思議に思ったにちがいない。
そんなワケで、5リットルでエンジンがかかり、またスタンドに戻り、今度はたっぷり給油して帰った時にはもう8時半近かった。
その間息子はずっとドリルをやっていたらしい…。
娘はその後の遅い夕食中、兄に「ぎょーざおいしかったな~♪」と言ってさりげに自慢していた。
やなオンナになりそうだ~。
それにしても子連れで夜、スタンドにガソリンをもらいに駆け込む主婦が他のどこにいるだろうか?
きっと今日、あのガソリンスタンドでは「昨日のおまぬけな主婦」の話で盛り上がってるに違いない。
あそこには当分行かない事にしよう~っと♪