宇宙論、ブラックホール、ダークマター、ホーキング放射、相対論

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ダークマター・43-2・ハッブル定数の食い違いについて(2)

2021-03-07 22:20:44 | 日記

さて前のページではプランクでのCMB解読でもWMAPでのCMB解読でもその最初の手順として物質100%の宇宙を仮定して宇宙の晴れ上がり時刻を決定している事を確認しました。

しかしながらもちろん現実の我々が暮らす宇宙にはダークエネルギーが満ちており、その値はプランクの解析では67.9%、WMAPの解析では71%であるとされている。(注1)したがって当然の事として「CMB解読の最初の手順でもダークエネルギーを含んだ宇宙を想定して解析を始めるのが妥当である」となります。

さてそうなると、たとえばプランクの例では宇宙の晴れ上がりを38.3万年としていたのを47.7万年と24.5%ほど時間を後ろにずらす事が必要になります。それでこの話のポイントは、その影響がCMBの解読にどのように影響してくるのか、最終的には「ハッブル定数の推定にどのように影響するのか」という事になります。それで話は次のステップの事となります。

・4.宇宙論パラメータの決定 を参照すれば

『2. この時期までにゆらぎの振動が伝わる距離rを計算する
a. 空間的な重力的密度のゆらぎは、その時期の宇宙の媒質中を音波として伝わる
b. この音波振動が、CMB温度ゆらぎスペクトルの山や谷をつくる
c. 主として放射からなる媒質の場合、音速は光速の1/(3^(1/2))
d. これらを総合すると、距離は(現在の宇宙での値に換算して)r=147Mpc(注2)

「この時期までに」というのは「ビッグバンの始まりから宇宙の晴れ上がりまでの間に」ということであり「宇宙のスタート時から光と陽子、電子が入り混じった密度の高いプラズマの中を密度揺らぎの振動(音波)が伝わっていく距離を求めましょう」という事になります。そしてその「基準となる距離r」は音速と時間の積で決まり、音速は光速Cをルート3で割った値になると言っています。(注3)そうしてもちろん時間は宇宙の晴れ上がりまでの時間、プランクの場合は物質100%の宇宙モデルを使えば38.3万年、そうしてダークエネルギー67.9%の宇宙モデルを使えば47.4万年という事になります。

さてここではWMAPで考えていますのでその数値としては・4.宇宙論パラメータの決定 より37.2万年を採用します。その時間で揺らぎは147Mpcまで広がるのでした。その大きさを現在の地球の位置(まあもっとも具体的にはWMAP衛星やプランク衛星が観測するのですが、、、)から観測した場合の視角Θがポイントになります。

WMAPの例ではその視角度は0.82度であったと・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, には書かれてあります。その視角Θを出すのに衛星が観測したCMBパターンのパワースペクトル解析結果が使われる、という事であり、WMAPではパワースペクトルの最初のピークの位置がl=220であり、その角度が0.82度相当であったとされています。

さてプランクの解析でも状況は同じであって、まずは「基準となる距離r」を算出します。次にそれを現在の地球の位置から見た時の視角の大きさΘをCMBのパワースペクトル解析結果から持ってきます。あとは宇宙がほぼ平坦である、という事をつかって「地球からその基準となる距離r」を見た時に、CMBのパワースペクトル解析結果で得られた視角Θになるためには、「CMBと地球との間の距離」つまり「宇宙の大きさ」がどれほどであるのかを計算する、という手順となります。

そのあたりの事は ・4.宇宙論パラメータの決定 では

『5.rの値が、遠方のものさしの目盛りの役割をする
a. CMB温度地図の宇宙時刻(宇宙の晴れ上がり)から現在までの距離は、d=r/θ~14Gpc』と言うように書かれています。

さて、以上みてきました様にこの話のポイントは「そこまでの距離が不明ではあるが見ているものの実際の大きさrはわかっていて、またそれを見た時の視角Θも分かるので、そこまでの距離は計算出来る」という所にあります。そしてこの場合に「基準となる距離rは地球上の物理の知識からビッグバンから宇宙の晴れ上がりまでの経過時間がわかれば計算可能である」とし、そしてまた「視角ΘはCMBパターンをパワースペクトル解析すれば分かる」という事になっています。

その結果は「以上の2つの情報を合わせる事で現在の宇宙の大きさがわかる」そして妥当な宇宙モデルを想定し、そのフリードマン方程式を解く事でハッブル定数が決定できる、という事になります。

以上の様な手順でCMBパターン解析することによりハッブル定数の推定にまでたどり着くのですが、この場合に致命的に重要な事は「ビッグバンから宇宙の晴れ上がりまでの経過時間である」という事が分かります。

さてそれで話は振り出しに戻りますが「物質100%の宇宙を想定した場合の経過時間」と「ダークエネルギー67.9%の宇宙モデル(=プランクデータ使用)を使った場合の経過時間」を比較すれば後者では宇宙の晴れ上がりのタイミングは24.5%ほど後ろにずれる、ということでありました。つまりは「基準となる距離r」の値が24.5%増える事になり、しかしながらそれを見た時の視角Θの値は同じであり変化がないのですから「ダークエネルギーを考慮した場合は宇宙の大きさはそれを考慮しない場合に比較して24.5%程大きくする必要がある」という事になります。(つまり24.5%ほど遠い所から見ないと視角Θは同じ値にならない、ということです。)

それでダークエネルギーを考慮してもそれを考慮しない場合の宇宙年齢、それはプランクの場合は138億年でありその数値に変更はない、とするならば、なおかつ宇宙の大きさを24.5%増やす為にはハッブル定数は現状のプランクレポート推定値よりも概算で20%ほどは増やす必要がある、という事になるのでした。(注4)

但し上記結論はここまでの検討結果の一応のまとめであって、以下後半部分は「43-3・ハッブル定数の食い違いについて」で行います。

 

注1:ここではWMAPでの値は・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, を参照している。プランクデータはプランク衛星が最後に公表した2018年版の「プランク ベストフィット データ」 を参照。

注2:但し「距離は(現在の宇宙での値に換算して)r=230Mpc」と言うのが・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, での主張であり、この数字は ・4.宇宙論パラメータの決定 での数字とは異なっています。

注3:たとえば ・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, の記述を参照願います。あるいは ・7 宇宙の運命 8ページにも同様の説明があります。

注4:しかしながら単にプランクの解析結果であるハッブル定数の値を24.5%増やせば良いのか、それ以外の宇宙論パラメータとの整合性はそれで取れるのか、と言うような細部の確認は当然必要になってきます。しかしながら現状報告されているプランクの推定値

ハッブル定数(km s -1 Mpc -1) H_o      66.88±0.92

を上方修正する必要がある事はほぼ間違いの無い事であると思われます。

参考追記1:WMAP初年度の解析結果とプランクレガシーデータの比較

・基準となる距離r 230Mpc      144.5Mpc

・それを見る距離l 13.7Gpc     (13.88Gpc)

・距離r/見る距離l(0.016788)   0.010408

・視角Θ       0.82度      (0.596度) 0.0104097rad
(パワースペクトル解析による)

・宇宙年齢     13.4Gyr     13.83Gyr

・ハッブル定数   72          66.88
(km s -1 Mpc -1)

但し( )内数値は・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果, と・プランクレガシーデータ の公表数値からの換算値および推定値。

参考追記2:以下 ・WMAP 9年間の結果 より引用

・宇宙年齢     13.74Gyr     

・ハッブル定数   70.0          
(km s -1 Mpc -1)

 

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/2Ehdp

 

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ダークマター・43-1・ハッブル定数の食い違いについて(1)

2021-03-07 14:03:52 | 日記

日経サイエンス4月号にそのいきさつが書かれています。それによればこの食い違いによって「笑えない様な研究者間の言い争い」にまで発展しそうな勢いであります。

さてCMBを使ったハッブル定数の推定はそれ以外の宇宙論パラメータの決定と同時に行われてきました。そのやり方の詳細についてはWMAPについての解析報告ではありますがたとえば

・宇宙論はどこまで分かったか?WMAP、初年度の成果,  

あるいはより簡略化された形では

・4.宇宙論パラメータの決定

と言うようなものがあります。そうしてここでは一応「4.宇宙論パラメータの決定」をベースにして話を進めたいと思います。とはいえ最初に当方の結論を提示しておきましょう。

『CMBの解読にあたってまず最初に、宇宙の晴れ上がり時期を物質100%を前提としたフリードマン方程式を使ってWMAPでは37.2万年、プランクでは38.3万年ほどに設定しているが、その決め方に問題がある。より正しくは物質30%ダークエネルギー70%程のフリードマン方程式を使うべきであり、たとえばプランクではそれを使う事で晴れ上がりのタイミングは24.5%ほど後ろにのびて、47.7万年となる。(注1)

これによってハッブル定数の推定値もより大きな値に変更する事が必要となる。』というものです。

さてこのCMB解読の出だし部分、「4.宇宙論パラメータの決定」によれば以下の様に書かれてあります。

『1. 宇宙晴れ上がりの時期zdecを推定する
a. 理論モデルを用いて観測されているCMB温度地図の宇宙時刻(宇宙が中性化・晴れ上がった時)を計算
b. これは、赤方偏移パラメータにしてzdec=1089±1
c. 宇宙の大きさが現在の1/(1+zdec)~1/1089 の時期に対応。(宇宙モデルを仮定して)時刻に換算すればtdec=37.2±1.4 万年』

物質100%のフリードマン方程式の解は スケール因子のふるまい の中にある平坦モデルの  (C.4.58)式になります。ここでHoは現時点でのハッブル定数となりますが、宇宙の大きさから宇宙年齢を推定する場合はHo=1と規格化して扱います。

さて「赤方偏移パラメータにしてzdec=1089±1」ですので宇宙は晴れ上がりの時には現時点よりも1/1090倍の大きさであった、という事になります。それはまた現時点で宇宙空間を満たしているCMBの温度2.73Kの1090倍の温度が晴れ上がり時点での温度であった、という事でもあります。

ここで物質100%の時の宇宙の膨張の仕方と物質30%ダークエネルギー70%の時の宇宙の広がり方を見ておきましょう。

物質100%の宇宙

t=0(現時点)でx=1(規格化された今の宇宙の大きさ)を示し、t=-2/3の所が宇宙のスタート、ビッグバンの始まりを示しています。そしてこのページで示されている厳密解の式のビッグバンの位置をt=0にずらしますと前述した平坦モデルの  (C.4.58)式になります。したがって (C.4.58)式ではt=2/3の位置が現時点を表すことになります。

物質30%ダークエネルギー70%の宇宙 <--一般的に言われている宇宙モデル

物質32%ダークエネルギー68%の宇宙 <--プランクのデータを反映した場合

いずれのグラフでも青色の数値解と示されたカーブが宇宙の成長を示しています。そしてこのグラフでもt=0(現時点)でx=1(規格化された今の宇宙の大きさ)を示し、プランクのデータを反映した場合の宇宙ではグラフにカーソルをあわせてX=0の点を読み取るとt=-0.945あたりがこの宇宙のスタート、ビッグバンの始まりである事が分かります。そしてこのグラフのビッグバンの点をt=0にずらしますと平坦モデルの  (C.4.57)式になります。そしてその場合には  t=0.946の位置が現時点を表すことになります。こうしてウルフラムの数値解もそれなりの精度をもって(C.4.57)式の厳密解と一致している事が分かります。(注1)

そうして「2種類の宇宙の成長曲線の違い」が宇宙の晴れ上がり時刻を決める時に差を生む原因となっています。

さてこの厳密解を用いて宇宙の晴れ上がりの時刻を推定するのですが、上記2つの場合のいずれにせよ宇宙の現時点での年齢を「与えられたもの」として入力してやらないと晴れ上がり時刻は推定できないのです。それでWMAPの上記の例では『6. 現在の宇宙年齢・・・ c. t0=137±2 億年』としています。

これを用いて

『1. 宇宙晴れ上がりの時期zdecを推定する・・・c. 宇宙の大きさが現在の1/(1+zdec)~1/1089 の時期に対応。(宇宙モデルを仮定して)時刻に換算すればtdec=37.2±1.4 万年』を確認して見ます。ちなみにここで仮定している宇宙モデルは物質100%のものです。

宇宙の大きさが現在は1であったものがその大きさが1/1090倍の時刻 t を厳密解を使って求めます。

実行アドレス

答えは t=1/(1653*sqrt(1090))=0.0000183237

t=2/3 が137億年でしたから(「・4.宇宙論パラメータの決定」では宇宙年齢は137億年となっています。)

tdec=137億年/(2/3)*0.0000183237=37.7万年 となります。「4.宇宙論パラメータの決定」ではこの数字は「tdec=37.2±1.4 万年」としていますが、まあ誤差範囲ということにしておきます。

というわけで、WMAPでのCMB解読の第一歩では「物質100%の宇宙モデルが使われている」という事が分かるのでした。

そうしてまた2018年プランク最終データリリース(レガシーデータ)を使って同様の事を行いますと

実行アドレス

答えは t=2/(3273*sqrt(1091))=0.000018450

t=2/3 が138.3億年でしたから(プランク レガシーデータより)

tdec=138.3億年/(2/3)*0.000018450=38.3万年 となります。

ESA - Planck reveals an almost perfect Universe 「プランクはほぼ完璧な宇宙を明らかにします」によれば『この画像は、プランクからの最初の15.5か月のデータに基づいており、宇宙で最も古い光のミッション初の全天画像であり、わずか38万年前に空に刻印されています。

その時、若い宇宙は約2700℃で相互作用する陽子、電子、光子の熱くて濃いスープで満たされていました。陽子と電子が結合して水素原子を形成すると、光は解放されました。宇宙が拡大するにつれて、この光は今日、絶対零度よりちょうど2.7度高い温度に相当するマイクロ波波長まで引き伸ばされています。・・・』とのことであり、38.3万年とほぼ同じ、つまり「プランクの解析でもCMB解読の第一歩では物質100%の宇宙モデルが使われている」という事が分かるのでした。

 

注1:(C.4.57)式の厳密解での計算結果(t=0.946)、および47.7万年の導出詳細については ・42-3・輻射-物質拮抗時期と宇宙の晴れ上がり時期 を参照願います。

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

 

https://archive.fo/2njB9

 

 

 

 

 

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ダークマター・43-(追補)・ハッブル定数の食い違いについて

2021-03-07 10:39:42 | 日記

・追補

1、物質とダークエネルギー2成分の積分式から宇宙年齢を求める

・42-3・輻射-物質拮抗時期と宇宙の晴れ上がり時期 においては http://archive.fo/o02Wr の式 (5.26)を厳密解として扱い

『・・・x=0.945936 を得ます。これが時間軸で138.3億年相当の値になります。』としました。

この厳密解の式(5.26)を求める前の形が 無次元フリードマン方程式 の (5.18)式になります。

それでこの積分形式の式をそのまま積分することでも上記と同じ結果が得られます。

プランクのレガシーデータから

物質密度  Ω_m           0.321±0.013

ダークエネルギー密度 Ω_Λ      0.679±0.013

輻射項と曲率項はゼロとしてこのパラメータを式に代入して積分を実行します。

実行アドレス 

結果は0.945936となり、上記の厳密解を使った場合と同じになります。

2、物質とダークエネルギー2成分の積分式から宇宙の晴れ上がり時期を直接求める

さてそれで次には同じようにプランクのデータから宇宙の晴れ上がり時期ではその大きさがa(x)=1/1091.3 であったのですから、その時までの経過時間を求めます。

a(x)=1/1091.3=0.000916338・・・をつかって0(ビッグバンスタート)から大きさがそこまで膨らむ所までを積分します。

実行アドレス 

答えは0.0000326392 となりこれもまた・42-3・輻射-物質拮抗時期と宇宙の晴れ上がり時期 で得られた数値『x=0.0000326392 を得ます。』と一致している事が確かめられます。

 

・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク

https://archive.fo/GUbOg

 

 

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