HOBNOBlog

ロンドンから徒然に

新年最初の映画はサイレント

2012-01-08 | 映画・演劇
 気が付くともう年が明けて一週間。今回は年末と新年の繋ぎ目がいつもより曖昧に感じられたのはどうしてかな?
 生活の“区切り”として、もちろん“年”というのは最も重要な単位のひとつなんでしょうが、歳を取る毎に色んな物差しが増えてきて、ものごとの計り方の単位も変わってきているんでしょうね。

 とはいえ、やっぱり新年というのは気持ちを切り替えるには良い機会なんだろうと感じます。
 まっさらなノートに最初の文字を記す時のように、年の一番初めに何をするかは、ある種の緊張感があります。最初に読む本、最初に聴く音楽、最初に……

 そう言えば、年が明けてから5日間。全然映画館に出かけませんでした。
 手帳を見てみると、昨年も一昨年も1年間に映画館で観た映画が丁度100本。大抵は毎週末に時間をやり繰りしなければならないので、年始は良い機会なんですが、いつも行かないのには理由があるんです。
 実は年末に冬休みに入ると連チャンで映画館通いをしてしまうので、年が明けるまでには殆どの映画を見終えてしまい、次のプログラムが始まる年明け一週間まで事欠いてしまうというわけです。

 で、プログラムが変わった昨晩、今年最初の映画として選んだのが「The Artist」。CGや3D全盛の昨今、対極に位置するようなサイレント映画(当然モノクロ)です。舞台となるのは1920年代から30年代にかけてのハリウッド。
 といっても、これ昨年制作されたフランス映画なんです。“白黒”も“無声”もあくまでその体裁を真似ているだけで、実は映画の途中にもちゃんと“音声”は挿入されているのですが、そのわずかな機会の心憎いまでの上手さ。映画を知り尽くしている監督ならではの構成です。



 それに主演男優・女優ともにこの上なく魅力的です。そう、サイレント映画なので当然台詞はなし。にもかかわらず、いやだからこそ、その喜怒哀楽の表現の絶妙さといったら!おまけに脇役として登場する犬までが素晴らしい演技を見せてくれます。

 それにしても、監督(ミシェル・アザナヴィシウス)、主演男優(ジャン・デュジャルダン)、主演女優(ベレニス・ベジョ)の名前を挙げて、一体世間のどれだけの人が知っていることでしょう。「OSS 117」なんて作品を観た人がいたらよほどの映画通だと思います。
 そんな彼らの映画がこれから始まる賞レースの大穴になりそうな気配です。快挙と言ってもいいでしょうね。

 まぁ、そんな賞はさておいても、この映画が観客に愛されているのは映画館に身を置いてみると分かります。スクリーンと一体となった感情が伝わってくるんです。それは必ずしも声だけでなく、何かこう空気感みたいなものだったりもします。エンドロールで拍手が沸き起こる映画というのも久々に経験しました。
 難を言えばあまりに優等生というところかもしれません。ストーリーも先まで読めちゃいますしね。でも、“新年最初の映画”としては満足かな。