これ!どう思います?

マスコミがあまり報道しない様な問題を、私なりに考えてみます。

米中貿易戦争の本質 (その1)

2021-04-10 10:45:14 | 国際問題
【はじめに】
 トランプが米中貿易戦争を始めました。バイデン大統領になったので少しは変化が有ると予想されますが、「アメリカの方から米中貿易戦争を止める事は不可能だ」と私は見ています。

 日本は米中の板挟みになって、今後は難しい!難しい!外交を行う必要が有ります。外交の経験が乏しい菅総理には荷が重すぎる様に見えます。

 米中貿易戦争についてのアメリカの主張は種々報道されますが、アメリカの本音は隠されたままです。 私の乏しい知識と経験をフル動員して、アメリカの本音と思われる事を想像して、御参考までに/大胆に書いて見ました。

【トランプの功績】
 私はトランプ氏が嫌いですが、中国の覇権主義に警報を鳴らしたのは功績だと認めます。 逆説的ですが、習近平氏が覇権主義を露骨に出して来たのは、西側諸国にとっては幸いだったとも思います。

 習近平は、2011年に総書記になり、13年にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の提案と一路一帯構想を発表しました。 これらは、「中国は覇権主義を進めるぞ!」と言う宣言だった様に思います。

 21世紀に入って、中国の工業は飛躍的に発展しましたから、習近平が覇権主義を明確にせずにジット我慢して、爪を研ぎ続けていたら、トランプが中国に貿易戦争を仕掛ける事は難しかったと思われます。 そして、2025年になったら、中国は西側諸国が手を出せない様な経済/軍事大国になっていたと想像します。

 私の見立てでは、「習近平は10年程早く西側諸国に宣戦布告してしまった!」のです。 幸いな事に、アメリカの大統領が優柔不断のオバマから、何をするか分からないトランプになっていました。 中国から見たら、無茶苦茶な言いがかりを付けてトランプは逆襲を始めました。

 鄧小平が1978年に改革開放政策を打ち出したので、日本を含む欧米諸国の企業が『近欲』から中国に投資して工場を建設し、工業技術/ノウハウを渡しました。 その上、欧米諸国は人材の育成にまで積極的に協力しました。

 鄧小平は、欧米の企業に中国にとって都合の良い条件を種々呑ませました。 欧米諸国は、「中国が豊かになったら民主化し、世界のルールに従うだろう!」と手前勝手に思い込み、自国企業の進出を応援しました。

 鄧小平は1987年に亡くなりました。 鄧小平も・その後の指導者達も、「将来・民主化する」とは一言も言っていません。 それどころか、1989年に天安門事件が起こり、民主化の要求を軍隊を導入して徹底的に抑え込みました。 それでも、日本を含む欧米諸国は、「いずれ、民主化する!」と呑気に構えて自国企業の投資を制限しませんでした。

 20世紀が終わる頃には、中国は『世界の工場』になり、アメリカの対中国貿易は大幅な赤字になり、中国はドルを多量に貯めこみました。 21世紀になって、『第4次産業革命』が始まっていると言われる様になり、アメリカはこのまま放置すると、中国が第4次産業革命の旗手になると気付いたのです。

【中国は脅威だ!】
 米中貿易戦争におけるアメリカの主張には、本音と建前が有ります。 日本を含む欧米諸国にとって、中国の脅威は以下に示す➊~❿ですが、いずれの問題も「国際ルール違反だ!」とは主張出来ません。 (これらの問題が、米中貿易戦争の本音です。)

 「ハーウェイのスマホを使うと、情報が中国に筒抜けになる」、「ウイグル、チベット、香港の人権弾圧を止めろ!」とか「南沙諸島の埋め立ては不当だ!」と声高に主張して、アメリカは貿易戦争を始めました。 これらは建前の主張です。 他国内の人権問題は、脅威にはなりません。

➊ 研究所、大学、企業に研究開発費を支援して、優秀な人材を投入する。 西側諸国では到底不可能な巨額の支援を中国が行える事は脅威ですが、国際ルール違反では有りません。 そして、研究開発の成果を国家が自由に活用出来る事も脅威です。

➋ 他国に金を貸す。 返却出来無い貧しい国に金を貸しても、国際ルールには違反していません。 国家間の貸し借りの金利を制限する国際ルールは有りません。 金を返せなくなった国の港(港湾施設)などを租借することは、国際ルール違反では有りません。

❸ ダンピング・輸出 :西側諸国では国内企業に不当販売(ダンピング)を禁止しています。 然し、国家間の取引では、ダンピングに対抗する手段は適正な関税を掛けるのが国際ルールです。 国内に製造する企業が無ければ、一番安く売ってくれる国から買うのが当たり前です。

❹ 軍事費の増額や軍備増強/近代化は国際ルール違反では有りません。

❺ 企業が、他国の企業を買い取るのは国際ルール違反では有りません。 中国では、「国有企業だけでなく民間企業も共産党のための企業だ!」と見るべきです。中国が欲しいと考えた他国の企業を、巨額の金を投じて買収しています。 これも、西側諸国にとっては脅威ですが、国際ルール違反では有りません。

❻ 過剰な生産設備 :中国の鉄鋼やセメントの製造設備は、明らかに過剰だと思われますが、国際ルール違反では有りません。

❼ 共産党の独裁・専制国家で、民主的な選挙を実施していない :国家体制に関する国際ルールは存在しません。

❽ 軍隊や産業/企業が共産党の為に有る :西側諸国にとっては脅威ですが、国際ルール違反では有りません。

❾ 中国が第4次産業革命の覇者になる恐れが有る。

❿ 『人民元』が台頭して、米ドルに変わって主要基軸通貨になる恐れが有る。

【長い電報】
 モスクワのアメリカ大使館に勤務していたジョージ・ケナンが、1946年に国務省に送った長文の電報を『長い電報(Long telegram)』(X論文)と呼びます。 冷戦時代の、アメリカの対ソビエト政策に大きな影響を与えました。 (私より高齢で近代史に興味の有る方は、覚えておられると思います。)

 「ケナンの予想とは違った原因でソビエトは瓦解した」と私は見ています。 土地と工業/商業を国有化して、人間の欲望によって発展する経済の芽をソビエトは潰し続けました。 共産主義思想に固守して、問題が顕著になった計画経済を頑固に修正しなかったのです。 例えば、麦の収穫を機械化したのですが、農作従事者達と農業機械部隊を分離して効率化を図りました。 その結果、「麦の収穫時期が来たのに、農業機械部隊がやってこない!」と言った問題が種々発生しました。 ソビエトは自滅したのだと、私は見ています。

 毛沢東はソビエトの様に共産主義思想に拘りましたが、鄧小平以降の中国の指導者達は、自分達の都合の良い様に「共産主義を修正/改良」しています。 この点を考慮して、今後の中国政策を検討する事が肝要です。

【より長い電報】
 アメリカのシンクタンクの一つ・大西洋評議会(Atlantic Council)が、2021年1月28日に『より長い電報(The longer telegram)』と言う論文を発表しました。 インターネットで原文が読めます。 64ページも有るので、私は少しだけしか目を通していません。

 要約の和訳がインターネットで読めます。長谷川幸洋氏は有料で公開しています。末次富美雄氏の文章は、『第2のX論文となるか−米シンクタンクの対中戦略【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】』で検索すると、無料で読めます。

 『より長い電報』の考え方に私は賛同出来ません。 そのために、本稿を書こうと思い立ったのです。

 中国はアメーバの様な存在です。 此方への進出を抑えても、反対側に進出します。 自由自在に変化出来るのです。共産主義に拘ったソビエトの様に簡単には自滅しません。

【和人と漢人についての私見】
 和人(大和民族)と漢人(漢民族)には、少しだけ共通する所が有ります。 『外から入って来た文化/思想/技術を吸収して、自分達に合う様に改良/修正/工夫する習慣』は最大の共通点だと思います。

 20世紀になって、日本にも共産主義思想は入ってきましたが、国民の支持は得られませんでした。 現在、中国は共産主義国家になっていますが、共産党だけが軍隊を持って、一部の国民(共産党党員)が権力と富を支配しているのです。 今でも、国民の多くが共産主義者になっている分けでは無いと私は見ています。

 第二次大戦後に毛沢東は共産主義イデオロギーで国家を統治しようと試みましたが、ソビエトで旨くいかなかった様に、中国でも共産主義イデオロギーでは、工業化して経済を発展させる事は出来ませんでした。

 鄧小平以降の中国の指導者達は、共産主義(労働者主義)と言う言葉を利用しているだけで、彼らはマルクスの考え方を自分達の都合の良い様に改良/修正/工夫して利用しています。

 「共産主義と儒教は相容れない関係だ」と私は思って来ましたが、習近平の発言では時々・孔子を引用します。 要するに、中国の指導者達は、マルクスと孔子はどうでも良いのです。自分達に都合の良い様に(恥じる事無く)切り取る事が出来るのです。

【専制国家】
 人類は、『欲深い動物』です。 動物はお腹が一杯になったら、食べるのを止めます。 人間は「他人より豊かになりたい! 他人を支配したい!」と言う欲望を持っています。 『向上心』は、この欲望の良い面です。 国を一部の人間が、この欲望で支配/統治すると専制国家になります。

 その典型例は北朝鮮の金王朝ですが、中国も専制国家です。 北朝鮮と中国の根本的な違いは、中国が、「専制政治の利点を生かしながら、改革開放政策によって欧米諸国からの投資を呼び込む政策を打ち出した」ことです。

【覇権主義】
 人間の数が増えると、国家が出来ました。 より豊かになると、他国を侵略して土地や富を奪いました。 これが覇権主義です。 地球上の殆どの場所で、武力衝突が続いて来たのです。 日本でも同じでした。 徳川家康も勿論、覇権主義で国を統一した分けですが、外国に侵攻する欲望は捨て、外国の侵略を防止する為に鎖国政策を導入したのだと思います。

 「幕末に、工業技術が格段に進んだ欧米諸国から侵略される恐れが有る」と、島津斉彬などの賢人達が気付き、・・・倒幕して・・・→明治政府を作りました。 明治政府は欧米諸国の技術を短時間に吸収して、富国強兵政策を進めました。 そして、少し豊かになり、軍隊が当時としては近代的な兵器を装備出来ると、覇権主義国家に仲間入りして、1894年から清国と戦争(日清戦争)を始めました。 (清国の兵器は、江戸時代の様な旧式の!旧式の!兵器だったのです。) 日本が覇権主義を放棄したのは第二次世界大戦後です。

 中国とロシアは今でも覇権主義国家です。 中国は軍隊だけでなく、貿易で得られる『豊富な金』を武器に活用して覇権主義を進めています。

【殺人は『悪しきこと』か?!】
 人が人を殺すのは、人類の長い歴史の中で許されて来ました。 江戸時代までは、『親の仇を討つ』のは子供の義務だったでしょう! 欧米諸国の考え方を導入して、日本でも明治以来・敵討ちは禁止され、人を殺すことは『悪だ!』と考える様になりました。 然し、戦争で人を殺す事は、悪とは見なさなかったのです。

 第二次世界大戦に敗れて、日本人の多くは、「戦争で人を殺すことも悪だ!」と考える様になっていますが、残念ながら・国際的な標準思想にはなっていません。 殆どの国は軍隊を持っており、現在でも「戦争で殺すことはやむを得ない」と認めています。 諜報機関の暗殺も「やむを得ない」と認めている国が有ります。

 民主主義国家では、統治者が自分勝手に国民を殺すことは許されませんが、専制国家では程度に差が有りますが、自国民を殺します。 北朝鮮や最近のミャンマーが典型的な例です。

 プーチン大統領でも、政敵を暗殺するのは『悪しきこと』だと認識している様に見えます。 ロシアでは暗殺が多数行われている様ですが、プーチンが直接関わっていない様に見せかけています。

 中国では毛沢東が多数の国民を粛清(殺)しました。 その後も、天安門事件、「ウイグルやチベットでの弾圧」を見ると、「国家が国民を殺す事は悪だ」とは考えていないのでは?

【覇権主義を否定する考え方】
 国民が、国家に戦争を始めたり/行う権限を許容すると、(一歩間違えると)覇権主義国家になります。 ヨーロッパ諸国は、今は覇権主義を放棄している様に見えますが、人道主義をベースにして考え方を変えたとは思えません。 コストパフォーマンス(コスパ)からだと私は見ています。 植民地を維持するコストと植民地から得られる利得がトントンになって来たので、「貿易相手国にした方がメリットが大きい」と考えているだけです。

 アメリカは中国の覇権主義を非難していますが、植民地だったフィリピンは1946年に放棄しましたが、キューバのグァンタナモ基地(116km2)は今でも保持しています。 (グァンタナモ基地は、大田区と世田谷区をたした面積に相当します。)

 中国は、20世紀の終わり頃から、外貨(主に米ドル)を多量に蓄積し、過剰な鉄鋼やセメントの製造設備を抱える様になりました。 2020年時点での中国の外貨準備高は370兆円も有ります。(世界第2位の日本は153兆円です。) 中国の国益は、有り余る外貨と工業製品を活用して、他国を支配する事です。 今のところは、南沙諸島以外では武力による覇権主義は我慢している様に見えます。

 『より長い電報』では習近平が権力を失ったら、中国の覇権主義は治まると見ていますが、「覇権主義は悪だ!」と言う考え方は中国共産党だけでなく、漢民族にも無いと私には思えます。 従って、中国の覇権主義は、習近平とその取り巻きが権力から遠ざかったら解決する問題では無いと私は見ています。

 「習近平がいなくなっても、貿易黒字が続く限り軍備拡張を続け、中国は覇権主義を放棄しない」と私は思います。 アメリカ自身が変わって、対中国貿易を黒字化する努力が肝要なのです。


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