MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

より自由に

2014-02-22 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

02/22 私の音楽仲間 (565) ~ 私の室内楽仲間たち (538)



               より自由に




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        Beethoven の弦楽五重奏曲ハ長調 作品29
                 旋律美と構成美
                   より自由に
                 初期の不徹底?
                 自由に、繊細に
                遊びは似合わない?




 譜例は、Beethoven の弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.29 から、
第Ⅱ楽章の冒頭です。 Vn.Ⅰのパート譜です。

 演奏例の音源]も、ここからスタートします。







 おや? 音源は譜例の途中から、コースを外れて
しまいました。 そのまま延々と3分も続きます。

 それに、曲の雰囲気が全然変わりません。 音楽
は単調そのものです。



 それもそのはず。 音源は、このテーマが出て来る
箇所を、編集で繋げてしまったものだからです。

 最後は、曲の終りの部分です。 長い休符ばかりで、
音符はまばら。 音符は八分音符で、スタカートまで
書いてあり、なかなか間 (ま) が持ちません。




 作曲者は、“Adagio molto espressivo” と指示している。
典型的な “歌の楽章” です。

 第Ⅰ楽章でも、テーマは二つとも “歌” でした。 しかし
こちらの方が、もっと自由なようです。



 この楽章では “モティーフの展開” など、他の技法に、あまり
気を遣わなくていいからでしょう。 束縛が少ない。 しかし第Ⅰ
楽章はソナタ形式なので、そうは行きませんでした。

 逆に言えば、ここでは、「“展開に堪えるテーマ” を “創作する”
必要が無い。」 極言すれば、メロディーを思い付きさえすれば
いいのです。



 作曲の際の思考も、時間軸どおりの順序ではありません。

 ところが、完成した作品においては、事象は、あたかも
自然な流れに沿って起こるかのように感じられる。



 そこが凄い。 作家も、作曲家も。




 しかし Beethoven は、それなりに趣向を凝らしています。 一度
お聞きになっただけでは、解りにくいかもしれませんが…。



 ・ 同じようなモティーフで、合いの手を入れている楽器がある。

 ・ テーマはヘ長調。 しかし一瞬、別の調 (変イ長調) で現われ
  たかと思うと、すぐ元の調で聞こえ、最初の雰囲気に帰る。

 ・ 単調にならないように、部分的にテーマが変化、修飾されて
  いる。



 …などです。




 前回の記事は、『旋律美と構成美』という題名でした。 これを
両立させるのは、どんな作曲家にとっても難題のようです。



 旋律美は、もちろん歌。 何物にも縛られず、どこまでも自由
に流れていく方が美しい。

 片や、全体が緊密に連携した建築美。 各部分の自由度は、
それだけ薄れます。 細かいモティーフに至るまで。



 Beethoven にも、この両立を目指した作品例が、他に無い
わけではありません。

 私がすぐ思い浮かべてしまうのは、交響曲の第2番です。
第Ⅱ楽章 “Larghetto” は、この上なく美しいテーマで始まり
ながら、中間部には、文字どおり劇的な “展開” があります。




 しかし彼は、この道を押し進めようとはしなかった。
“両立” は、この大作曲家にとっても、恐らくたやすい
ことではなかったのでしょう。

 不可能とは言わないまでも、二律背反的と言える
のが、この両面のように思われます。



 「どちらかを選ぶとすれば、自分は…。」




 結果として、彼は一部の学者、演奏家、評論家から、
次のように指摘されることになりました。

 「Beethoven は、美しい旋律を書くのが苦手であった。」




 彼は、超一流の “歌の作曲家” になったかもしれない。
ただ、それを選択しなかっただけでしょう。

 「自分にとって、もっとも自然な、音楽的思考法は何か?」



 それを判断するのに必要なのは、客観的、論理的な思考。

 彼にそれが欠けていたなどとは、私たちはとても信じること
が出来ません。




 以後、大半の作品で “歌を断念した” と思われる
時期が、しばらく続きます。



 「“不自由な作曲法” だって? 私がどんな音楽を
目指そうと、自由ではないかな…。」




           弦楽五重奏曲

           [音源ページ



           交響曲 第2番

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