01/22 ベルク の Violin 協奏曲 (1)
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最初に音源です。
[Violin : Frederieke Saeijs、
フランス国立管弦楽団、指揮 : Jonathan Darlington]
① [第Ⅰ楽章 前半]
② [第Ⅰ楽章 後半、 (2'30" 頃から) 第Ⅱ楽章 前半]
③ [第Ⅱ楽章 後半]
曲は二つの楽章から成り、30分ほどかかります。
1935年、ベルクは二月にヴァイオリン協奏曲を委嘱され
ながらも、取り掛からないでいました。 財政的な事情もあり、
歌劇『ルル』の作曲に没頭していたのです。
しかし、四月の下旬になり、ある少女の訃報がもたらされる
と、彼は歌劇の執筆を中断し、10週間という異例の速さでこの
協奏曲を作り上げます。
そしてこの曲は、彼が完成した最後の作品となりました。
ベルクがわが子、あるいは妹のように可愛がっていたこの
少女マノン (1916/10/5~1935/4/22) は、白血病で亡くなり
(あるいは小児麻痺とも言われています)、その死を悼んで
作曲されたこの協奏曲は、「ある天使の想い出に」と記され、
彼女に捧げられました。
ベルクは、恋愛関係を含めて、生涯に多くの女性と出会い、
自分の音楽の題材としています。
それは後年の研究の結果、判明したことです。
そして、マノンを主題にしたこの曲においてさえ、ほかにも
二人の女性が登場しています。 それぞれは、特徴的な
音の並び方によるテーマから出来ています。
そのうちの一人は、『叙情組曲』の直接の内容ともなって
いる、不倫相手のハンナ・フックスです。
さっそく第Ⅰ楽章の冒頭に現れる、上昇、下降する音形
がそれです。 完全五度音程なので、まるで Violin の調弦
そのものです。
ソロ・ヴァイオリンがいったん口をつぐみ、曲の開始から
1分ほどして再び歌い出すのが、"マノン" のテーマで、
全曲に亘って重要な形です [音源① の 1'53"]。
先ほどの "五度" の代わりに、抒情的な "三度" 音程
の積み重なりが特徴的で、最後は、全音の開きを持つ
四つの音の音階で終わります。
曲が進行するにつれ、この "三度" や "全音階" は
上下し、さらに "六度" や "七度" の上下に形を変えます。
さらに、音符は十二音音列の約束に従って扱われ、一見
複雑になりますが、よく見ると、それはいつもマノンそのもの
なのです。
二拍子系の前半が終わると、第Ⅰ楽章の後半は、
6/8、3/8などの三拍子系に変わります
[音源① の 5'22"]。
前半がマノンの優美なたたずまいを表わしていた
とすれば、後半は、軽やかに踊るマノンでしょうか。
ハンナの "五度" は、曲の重要な節目に現れるほか、
踊るマノンを、まるで監視するかのように、伴奏形にも
潜んでいます。
もう一人の女性は、彼が17歳のときに関係を持ち、
隠し子まで設けた、女中のマリー (愛称ミッツィ) です。
その音楽は、彼女とゆかりのある、ケルンテン地方
の民謡そのままの形なので、前後の音楽との違いが
歴然としており、すぐ聞き取れるはずです
[音源② の 1'06"]。
しかし、素朴な民謡とは言うものの、その歌詞は、
「小鳥が起こしてくれなけりゃ、今もベッドでミッツィと一緒」
という、露骨であっけらかんとしたものです。
この音楽は、純真なマノンを見ているうちに思い出された
かのように、自然に現れます。 しかし、長続きはせず、
すぐ現実に引き戻されます。
マノンは再び踊り始めますが、これに絡むかのように
"五度" 音程が何度か介入し、矛盾は解決しないまま、
第Ⅰ楽章はすぐ終わってしまいます。
この後に悲劇が続くことも、何となく予感させます。
この楽章は主にマノンを描写するもので、
最初に登場するその音形は、
ハンナの五度音程も含んでいます。
十二音音列でありながら、調性感や抒情性を感じさせる、
ベルク独特のものであることが、よく指摘されています。
(続く)
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