09/19 私の音楽仲間 (539) ~ 私の室内楽仲間たち (512)
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歌は、横に流されやすい音楽。 歌い手も、聴き手も、
時の経つのを忘れます。
それは作曲家も同じ。 つい気持よく筆を進めるうちに、
自己に没入していまいがちです。
結果として、“単調、退屈、冗長”…の非難を免れないこと
もあります。 特に交響曲や室内楽曲など、器楽曲では。
横の流れと、“縦の締め”。 その調和を図ろうと、幾多の
作曲家が苦労してきました。
あの Brahms も、その一人。 そして自らが、コンクール
の審査員を務めていたときには、応募してきた、ある無名
の作曲家を強く推薦しました。
その名は、Dvořák。 これをきっかけに、彼は名声への
道を歩むことになります。
“縦と横の調和” を、自らの課題の一つとして
いた Brahms。
その技術的手腕を、鮮やかに示していたのが、
若き Dvořák の応募作品だったのかもしれない。
Brahms は、それに驚嘆したのではないだろうか?
…すべて、私の憶測ですが。
二人の偉大な先輩 Beethoven も、その課題を見据えて
いたのでしょう。 弦楽四重奏曲 ト長調 Op.18-2 で、
その一例について、これまでお読みいただきました。
ここでは引き続き、第Ⅱ楽章の “Adagio cantabile” に
ついて見てみます。
[譜例 1]の一段目では、歌 (A) が終り、二段目からは
中間部 (B) に入ります。
両者で共通しているのは、“Si-La-Sol-Do” のような形で
すね。 徐々に下がってから、上へ跳躍しています。
テンポの異なるA、Bの両部分を滑らかに繋げる、ブリッヂの
役目を果たした。 そして、この中間部の主役になっています。
[演奏例の音源]は、この[譜例]の最初からスタートします。
さりげなく始まる、Allegro の新しい音楽。 4つの16分音符
から成るモティーフで、1つと3つに分れています。
特に弦楽器では、最初の音が強くなりやすく、難しい形です。
繰り返しが2箇所あるのを無視した、この音源。 やがて
[譜例 2]に差し掛かり、中間部は終ります。
これもパート譜で、Vn.Ⅰ のものです。 最後は、空高く
舞い上がっていますね。 分散和音 (アルページョ) で。
そして、冒頭 “A” の歌に戻ります。 今度はチェロが
歌い始める。
[譜例 3]は、やはり Vn.Ⅰ のパート譜で、前回ご覧
いただいたものです。
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[演奏例の音源]
ここで、お気付きいただけたでしょうか。 2つの譜例
を繋いでいるのは、上行するアルページョです。
ここでのテーマはチェロ。 最初の小節では、一人、
下行形を奏でています。
この第Ⅱ楽章は、【A B A】の三部形式。 A→B、B→A
への移行に際して、作曲者が腐心している様子を、ご一緒
に見てきました。
「単なる歌に終りたくない。」
作曲者のそんな強い意志が窺える、この2番目の “A”。
そして、その布石が巡らされていた、最初の “A”。
それぞれの内部には、楽章全体を統合しようとする意図が、
見え隠れしています。 登場した “上下するアルページョ” は、
その有力な手段の一つです。
さて、上の[音源]でも、楽章は以下のように終わっていました。
今回の主役、中間部で活躍したモティーフが、ここでも
頻繁に登場しています。
アルページョと並ぶ、大事な形ですから、別に不思議
ではない。 でも、少しくどすぎないでしょうか?
[音源サイト ①] [音源サイト ②]