MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

緊張の実体験

2013-09-25 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/25 私の音楽仲間 (541) ~ 私の室内楽仲間たち (514)



              緊張の実体験




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                   緊張の実体験




 これまで見てきたのは、青年 Beethoven が趣向を凝らして
いる様子でした。 作品は、弦楽四重奏曲 ト長調 Op.18-2



 各楽章間の拍子やテンポ、調性はもちろん異なっています。

 しかし次の楽章の開始が、「あまり唐突に聞えすぎても
まずい。」 それは、楽章の内部が、幾つかに分れている
場合の移行も同じです。



 そこで用いられたのが、共通のモティーフ、あるいは
似通った形を、“両者の接続部に配置する” という手法
でした。

 聴く者の耳に、無意識の残像として留まっているうち
に、次の楽章を始めたい。」




 一例を挙げましょう。 第Ⅱ楽章の開始部です。

 第Ⅰ楽章の終わりでは、重要なモティーフ “Re - Sol
が頻出していました。 この “上昇4度” が “Sol - Do
と形を変え、第Ⅱ楽章が始まります。







             関連記事 苦手だと!?




 さらに、ここで歌の中のモティーフとして登場したのが、
するアルページョ
の数々でした。

 これは偶然でしょうか? いや、もちろん意識的に、重要
な材料として用いられている。 「元のメロディーを先に思い
付いた」…とは、とても考えられません。



 この形、次の第Ⅲ楽章では、ただ “継承された” だけ
に止まりました。 登場はするものの、特に重要な役割
は与えられていませんでした。

 さて、次の第Ⅳ楽章では?







 チェロが始めるアルページョ。 第Ⅱ楽章に続き、ここ
では再びテーマとして用いられ、“昇格” しました。




 ところで、直前のスケルツォ楽章は、以下のように
終わっていましたね。

 急激に降下する、Vn.Ⅰのアルページョ。 印象は、
かなり強烈です。







 もし次の楽章が、また Violin で始まっていたなら…。
音色が刺激的なので、聴き手は落ち着かないでしょう。

 その印象を和らげるためにチェロを用い、上下の方向
も敢えて逆向きにして、第Ⅳ楽章を開始しています。



 ところで、チェロにある “塗り絵音符” ですが、これは、
同じ第Ⅲ楽章のトリオで活躍する大事な形です。 今回
は触れませんが。




 さて私は Beethoven さんに、ちょっとした意地悪をしてみま
した…。 次の音源では、第Ⅲ楽章が終わっても、第Ⅳ楽章
の冒頭部分には入りません。

 それどころか第Ⅳ楽章の、大半をカットしてしまったのです!



 演奏例の音源]は、上の譜例の最後の6小節、“38” から
スタートし、下の譜例一段目の “370” に跳んでしまいます。







 第Ⅳ楽章の開始に当って、細心の注意を払っていた作曲者。

 もし何から何まで “そのものズバリ” だったら、聴く者も辟易
してしまいます。



 アルページョの向きを変え、チェロの中音域を用い
ていました。

 ここでも絶妙のバランス感覚を発揮していますが、
それでも、依然として “くどさ” は残りますよね…。



 その上、私の意地悪で、作曲者の苦心はブチ壊し…。

 いつお叱りの電話が掛ってくるか、戦々恐々としています。




 Haydn の弦楽四重奏曲に刺激され、6曲のセットを
書きあげた Mozart。

 ハイドン-セットと呼ばれる傑作です。 単に先輩の
手法を継承しただけでなく、それを発展させ、その上、
自らの実験的な試みも見られます。



 その6曲を若き Beethoven は、かなり研究したのではないか。

 そう感じている私は、この作品18シリーズを、勝手に “Mozart
セット” と呼んでいます。



 でもそうすると、“お叱りの電話” ぐらいでは済まないかも
しれませんね。

 Beethoven が、果たして自分の研究の成果を、Mozart に
見てほしいと思ったかどうか? それは疑問だからです。




 「ハイドン-セットだと? そんな作品
の研究など、ワシはしておらんぞ…。」

 あっ! さっそく現われました…!



 「この作品の手法は、みな自分で思い付いたものだ。 ワシ
の独創性に水を注すとは、お前はとんでもないヤツだのう。」

 そうかなー…?

 「Mozart にはな、一度だけ会ったことがある。 だがね、
特に歓迎も激励も、された覚えは無いぞ。」



 確かに、そうらしいですね。

 「そんな作曲家の名を付け、Mozart セットとはな…。」

 …??……。



 「それに何だ、お前は。 こんな下らない侮露愚
を書きおって。 嘆かわしいのう…。」

 …ははぁ…。




 「挙句の果てに、ワシの作曲手法を開けっ広げに
しおって…。 おまけに “くどい”…とはのぅ…。 これ
では、皮肉混じりではないか。」

 (いや、皮肉そのもののつもりなんですけど……。)



 「あれだけ気を遣い、同じモティーフとは解らんよう
にしたのだ。 少なくとも、すぐには…な。」

 …それでも、くどいだもん…。




 「…! …そ、そうかな…。」

 いずれにせよ、それぞれのモティーフを
徹底的に使いこなす先生の姿勢は、この
頃から既に健在なようですね?



 「……嫌なら、弾かんでもいいんだぞ!」

 ほ、本当ですか!? 先生! 有難い!!



 「…何だと!? お前は、今日限りで破門じゃ!」

 だってね、先生の作品を弾いていると、気が休まる
瞬間が無いんだもん。

 「………! 本当か……?」



 ええ、第Ⅱ楽章のような歌でもね。 絶えず緊張と
集中を要求されるんですよ。 でも Mozart 先生の
場合は、弾きながらでも安らぎが感じられるんです。
どんなに難しいパッセジであってもね。

 「…。」

 安堵感って、これ演奏者にとっては、とっても重要
なんですよ? 聴き手と同じように…。

 「………。」



 でも、もう弾かなくてもいいんですね!? よし!
これで、少しは長生きできるぞ♪!

 「………。」





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