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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

演奏者か、製作者か?

2014-12-06 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/06    演奏者か、製作者か?




 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。

  

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 電動糸鋸、手鋸、ヤスリ、アクリル板、大小の金具、

接着剤、掃除機…。 部屋の中は、足の踏み場もあり
ません。

 30年以上前のこと、私は在京のあるオケで Viola
を弾いていました。 その頃の自室の様子です。


 練習の合間の自由工作? いいえ、手先は不器用な
ほうだし、そんな趣味はありません。 止むに止まれず
やっているんです。

 Viola 弾きですから、楽器も近くに転がっています。
ケースから顔が覗いているものもあり、全部で5~6
台ある。 もちろん中には Violin も…。


 一体何を作っているのか? 勘の鋭い貴方なら
お解りかもしれませんね。

 そう、顎当てを作っているんです。 自分で。

 



 「そんなもの、買えばいいだろう。 金が無いのか?」

 はい、もちろん当時の市販品はあらゆるものを試しました。
最初肩当て選びから始めましたが、そのうちに気付いた
のは、【顎当てとの組み合わせが重要だ】…ということです。


 「一度に色々なサイズの楽器に手を出すと、混乱しないか?」

 いいえ、却って “共通の原則” があることに気付かされたほど
です。 根本的な原理と言ってもいいでしょう。


 そして肩当ては、間もなく決まります。 自分には、出来るだけ
薄めのものが合う…と感じたので、クッション式にしました。 中
に空気を吹き込み、量の調節が可能なタイプです。

 以後、長期間これを使い続けることになります。 しかし、顎当て
は簡単ではありませんでした。

 



 ご存じのとおり、Viola には色々なサイズがあります。 当時
の手持ち楽器を、胴の長さ で表わすと、38.5、40.5、42.5、
44.5…となります。 Violin がおよそ 36 ですから、超小型から
特大まで揃っていました。

 もちろん〔大きいほうが弾きにくい〕…わけですが、そうも単純
に言い切れない場合があったのです。 【特大より、中サイズの
楽器のほうが弾きにくい!】 一体なぜだろう……?


 そのうち気付いたのは、次の二点です。

  (1) 同じ顎当てでも、取り付け位置をずらすだけで、弾き易く
    も弾きにくくもなる。

  (2) 楽器も顎当ても、厚いより薄いほうが、身体には楽だ。


 考えてみれば、(1) 取り付け位置が変われば、構えも変わる
わけです。 人間の胴体を樹木の幹に例えれば、枝 (楽器)
生える方向が変化することになる。

 こうなると、“奏法の一環”…と言ってもいいほどです。


 また、(2) 顎に分厚い物を挟むよりは、薄いほうが楽なの
は当然です。 ただでさえ楽器が厚い Viola の場合は、これ
に顎当ての厚みが加わるのですから、致命的です。

 単に楽器のサイズが大きくなるだけでなく、厚みが障害に
なるので、楽器が余計に重く感じられるわけです。

 これは、薄い Violin の場合でも同じはず…。


 ちなみに、このとき寸法を測ってみました。 顎を引いて
構えたときの、自分の〔左顎骨~左鎖骨〕の間の距離です。

 ヘッドアップすれば、この間隔が拡がることになる。 これ
が一定以上になると、両腕が快適に動いてくれなくなります。
その限度は?


 結果は、4~4.5㎝…という数字が出ました。 (現在では、
もっと顎を引いて楽器を構えていますが!)

 この数字は、Violin でさえ、楽器の厚みを下回っています。


 「まさか、楽器に穴を開けて弾くわけには行かないしな…。」

 当時の真剣な悩みで、以後も頭から離れなくなりました。

 



 この顎当て騒ぎ…。 最初は市販品を削って、厚みを
減らすことから始めました。 邪魔な出っ張りを削り取り
ながら。

 そのうちに、【顎が「動きたい」と演奏中に言っている】
…のが、次第によく聞えるようになりました。


 そして、邪魔なあちらを削り、こちらを切り落とし
続けるうちに、購入時は凹凸が大きかった市販品は、
やがて “まっ平ら” に近くなっていきました。

 それでも、まだ厚すぎる…。


 「これは、自分で作らないと駄目だな…。」

 かくして、30年に亘る “顎当て作り” が始まりました。

 

 


ハンカチが落ちましたよ

2014-12-04 00:00:00 | 音楽演奏・体の運動

12/04    ハンカチが落ちましたよ



 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。



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 通りすがりに、女性がハンカチを落とした…。

 男はそれに気付いて、拾い、渡す。

 「もしもし、ハンカチが落ちましたよ?」


 そして二人は…。


 女性側が仕掛ける、古典的な手法ですね。



 「おや、今回は、恋愛談議か…?

 …とんでもない。 私にはまったく似つかわしくありません。

 



 さる SNS の掲示版で、次のような問いかけを目にしました。

 

 「Vn, Va の方に質問があります。

 子供が顎当てにハンカチなどの布を当てて弾こうとすると、
布が滑ってしまうと言います。

 楽器の支持方法に問題があるようにも思いますが、先生が
ゴムを付けている子もいる…と仰るので、多少の一般性もある
のかな、と思います。 どなたか、布を単に当てる以外の工夫
をされている方がいらしたら、教えて頂けないでしょうか。


 お父さんの I さん投稿です。 お子さんが Violin の
レッスンに通っておられるんですね。


 Violin を弾くのに、なぜハンカチを使うのか? 念のため
ご説明すると、夏場の汗対策や、擦れて痛くならないよう、
クッションとして使う…などの意味合いがあります。

 でも、せっかくのハンカチが滑ってしまうのではね…。

 



 さっそく回答を寄せたのは H さん。 Violin の名手で、
私も面識があります


 「1.小手先技。 ハンカチの先が袋になっている物
ゴムが付いている物が商品として有ります。 検索して
みれば自分でも作れそうです。」


 なるほど、これなら落ちませんね。 親切心溢れる
回答です。

 でも、なぜ 小手先技” と断っているのしょうか?
記述はさらに続きます。


 「2.肩当の高さ、位置の調整。 そもそも、顎当てが
滑るほどはさむのは変です。 顎当てからアゴを外しても
楽に支えられる場所に肩当の高さ、位置を調整すると良い
と思います。 私の想像では高さが足りないことと、顎当て
肩当が近すぎるのではないでしょうか。」


 なるほど。 ご自身の体験と努力が滲み出ているのが
よく窺えます。 今の私からすると、細部には違いもあり
ますが、内容には充分説得力があります。

 “ハンカチ落とし” には、あまり興味の無い私。 しかし
H さんの記述には、どんどん引き込まれていきます…。


 「3.更に進めて、顎当てに力を入れないでも1,3,5
ポジションが弾けるように練習する。 当然、左手と肩当
楽器が支えられます。 最初は楽器を落としそうになり
ます。 これはすぐになれます。 次にビブラートを掛ける
と楽器が揺れて困るようになります。 これは、ビブラート
を手首、指を柔らかくしてかけるようにすると楽器が揺れ
なくなります。 ハイポジションは顎は下向きに押さえる
だけで左手なしで楽器が支えられるように練習します。
あくまではさむのではなく、肩当を支点にして顎当てで
バランスとる感じです。」


 これも、今の私とは違う部分がありますが、書いて
おられることは充分に理解できます。

 さて、ここまでは傍観者だった私。 でも次の一節を
目にすると、そうも言っていられなくなりました。


 「4.一番過激な方法。 顎当ても外し、肩当も外し
しばらく練習する。 最初は全く弾けませんが、しばらく
すると楽器は強固に支えなくてもよいということを実感
すると思います。 バロックの人たちは皆こうやって
います。

 私は 3 (顎当てに力を入れない) がおすすめ。

さらに練習を続け、肩当なしをめざしましょう。」


 まだ小学生のお子さんですから、いきなり…と言うのは
無理があるでしょう。 ただし、「本来はどうあるべきか」
…を考えると、現状は本末転倒のようにも思えますが。

 音楽界は大変保守的なのです。 日本に限らないが。


 さて、なぜ私が “心中穏やか” でいられなくなったのか?
それは、私も【顎当て無し、肩当て無し】…で、常時弾いて
いるからなのです。

 Violin と Viola の両方を。 バロックに限らずですが…。

 



 これを見て、I さんは答えます。


 「肩当ては***を使っていますが、どれがよいと
いう選択をする機会がありませんでした。 先生
は。『楽器を肩に載せて、下がらないようにする』
という抽象的な指示は下さいますが、肩当てを
選んで頂く時間はなさそうです。」


 私に言わせれば、【この二つの道具の選択は、
教授内容の一環である】のが理想です。 しかし
現実には、そこまで徹底するのは難しいでしょう。
ちなみに先生ご自身は、別のタイプの肩当てを
使っておられるようです。

 I さんはさらに続けます。


 「ハンカチに関しては、汗のために使い始めた。

楽器を下ろした時に、ハンカチが落ちてしまう。
『ハンカチが顎当てに留まる手段があるとよい。』
というのが先生の問題意識であるようです。

 滑るというのは、本人の訴えです。」

 



 …そうか…。 お子さんの悩みと、先生の着眼点には
ズレがあるんだな。

 どうしたものか…。 この私には〔滑って困った〕…と
いう経験は無いし…。


 私はいつしか、自分の数十年前を思い出していました。


 


頭の体操 (138) 漢字クイズ 問題/解答 より

2013-12-05 00:00:01 | 音楽演奏・体の運動

12/05    頭の体操 (138) 漢字クイズ



 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。




(3) ブロンクス区  (L) 舞論狗空

 先日、あるオーケストラから、「賛助で一緒に弾いてほしい」
という依頼をいただいた。 結果的には、間接的にお断りする
形になってしまいました。

 なぜって最近の私は、変った “譜面台” を使っているから。
普通のものでは駄目。 写真は、半年ほど前のものです。



   DSCF0567



 ずいぶん低いでしょ? 今は多少これより高くなりました
が。 それに、譜面が曲がっている。

 こんなの見たら、驚かないほうがおかしいですよね。



 私だって人並みに羞恥心はあるので、目立たず、普通
でいたい。 こんなスタイル、何度 “止めよう”…と思った
か、分りません。

 「根性までひん曲がってる」…なんて言われそうですね。



 「どうして、こんな恰好するんですか?」 よく訊かれます。
ときには、冷やかし半分のことも。

 答は…、「身体が楽なんです。」 “話せば長い” ので、
いつも、ただ一言だけで終えるようにしています。



 それでも真剣に尋ねてくれるかたには、時間の許す限り
丁寧に答えることにしています。 “少数派” の論理に耳を
傾けてもらえるのは、大変ありがたいことですから。

 この写真を掲載したページには、次のように記してある。



 家族曰く “犬の首吊り”。 顎当てと肩当ては使っていませ
ん。 でも、構え方を変えないままでは真似しないでください
ね。 体を壊します。 要は “全身のバランス” で、手を持ち
上げるためには、顎を引いたほうが楽。 私の顎の位置は、
楽器の曲線の外にあるから、思いっきり引くと、こうなります。
スポーツの世界では、よく「顎を引け、脇を締めろ」…と言わ
れますね。 ……



 これに一言だけ追加しましょう。 この楽器では、右肘、左肘
を “入れる” のが一苦労です。 “反時計回りに回す” と言って
もいい。 これを少しでも楽にするためには、上に書いた “顎の
引き方” と、“頸の傾け方” が大変重要なのです。

 顎や頸をガッチリ固定したまま、腕だけに苦しい運動を強いる
のは無理がある。 全身が調和していないから、諸々の痛みが
生じ、技術的にも解決しにくくなるのです。

 それには、頸は真っすぐなほうがいいか? あるいは、腕の
動きに伴って傾けたほうが楽か? とすれば、どの向きに?
私は長年、両腕と同じように “反時計回り” だと思っていま
したが、「どうやら逆らしい」…というのが、体が教えてくれる、
最近の弾き方です。

 運動生理学的に、また解剖学的にはどうなんでしょうか?



 ただしこういう説明は、すべて後から思い付いたものです。
理論は実験の後に生まれることが多いですよね。 私の場合
も、先に仮説を立てたわけではない。

 要は、“身体が楽かどうか” です。 苦楽の差といっても、
以前は感じなかったような、ほんの僅かな感覚の差に過ぎ
ないこともあります。



 どうせ私は少数派。 “机上の狗論” でないことを願いながら、
自分なりに励んでいます。




(12) 弱音のロングトーン  (P) 若怨呪脱遠恩

 これ、声楽や管楽器はもちろんですが、弦楽器でも難しい。

 “弱い” のと、“音が無い” のとは大違いだからでしょう。



 アナウンサーによっては、語尾が聞き取れない。 聞える
のは、“ま”、“で” の “ス” という音だけ。 “おなか” を
最後まで使って発声していないから。 “ス” は無声音なの
で、辛うじて聞えるのです。

 そんなアナウンサーが、局の看板番組で喋っている…。
とくに男性陣に著しい。 プロ意識が薄すぎる。



 楽器でも、「音の出し方の効率が大問題だ…。」 私はそう
感じています。

 エネルギーにロスがあれば、雑音成分の発生につながる。
強い音では紛れる雑音も、弱音ではそうは行きません。



 俗に “右手のヴィブラート” と揶揄される、“弓の震え” 現象。
かつては私も、盛大にやりまくっていました。

 弓のスピードと、弓を乗せる弦上の位置、この二つがマッチ
していないと起こりやすいのです。 そしてさらに重要なのは、
やはり、弓と弦との角度でしょう。




頭の体操 (134) 漢字クイズ 問題/解答 より

2013-05-16 00:00:01 | 音楽演奏・体の運動

05/16    頭の体操 (134) 漢字クイズ



 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。




(9) リュケイオン  (M) 理由稽音

 「自分の音を録音して聴いてみると、嫌になるんです。
あんなに滑稽な音を出していたなんて…。」

 「私のヴィブラート、自分ではいいと思っていたけど、
“Wow Wow” …って聞える。 ウワ―ン…。」

 「美しい音色が欲しい…。 でも、生まれつきだから
無理? 何か、超自然的な秘密でもあるの…?」



 こと、弦楽器の音色に関しては、超自然的な秘密など無い。
…私はそう信じています。

 …ということは、誰でも綺麗な音が出せる? 老若、男女、
経験年数の差を超えて。 …そう思います。



 ただ一つだけ付け加えれば、「何を美しい音と感じて、
それまで生きてきたか?」…という問題があります。
人には誰でも、“好みの音” があるからです。

 たとえば…。 ゆったりとした重い音。 一方では敏捷
で軽やかな音。 その他、ありとあらゆる組み合わせの、
様々な音。 それに、強弱やテンポの好みが加わります。



 人を喋らせてみると、大体その人の “音の好み” が解り
ます。 腹の底から真実を語りたい人。 とにかく付き合い
を重視し、あまり深刻に考えたくない人。

 …そんな、生き方や性格の問題も作用します。

 演奏者の自分と、普段の喋りをする自分。 その間に、
根本的な相違は無いように思います。 人間は、自分
自身を裏切れないから。 意図的でなければ。



 ただし音楽の表現には、様々な音が必要です。 自分
の “好みの音” だけでは処理できない。

 獲得する音色の種類が、多ければ多いほど、表現の
範囲は広くなる。 また、楽譜から汲み取れる音楽の
内容にも、幅が出来る。



 演奏者は、新しい音色に関して、耳を柔軟に開くこと。

 少なくとも弦楽器の演奏では、ほぼすべてが、「寸法と
角度に左右される」…こと。

 心理的と物理的。 一見して両極端、無関係に思える
事柄が、演奏の世界でも重要だと信じています。



 ただ一心に練習に打ち込み、時間を費やすだけでなく、
そんな事からヒントが得られる場合もあるのでは…?




(20) 人間モルモット  (H) 認嫌漏元

 これ、私が自分を指す言葉。

 実験内容は、“Violin型楽器の構え方” で、何十年も
継続中です。 だいぶ固まっては来ましたが。



 「楽器を構える姿勢を改善するだけで、こんなにも
音が違うのか!」

 先日、ある交流サイトで友人が記した言葉です。



 指や腕は、“繊細なテクニック” なるイメージにピッタリ!
しかし樹木に例えれば、葉や小枝に過ぎません。 その
位置や運動は、幹からの生え方に大きく影響される。

 それを思えば、“楽器を構える姿勢” は、私にとってすべて。
構え方に疑問を持たないまま、ただ練習に時間を費やすこと
は、もはや出来ません。

 幹や根が矛盾を抱えているまま、小枝や葉の形や運動を
改善しようとしても、制限や無理が大きいからです。



 「まず構え方を決めてから弾く」…のではなく、「弾きなが
ら構え方を模索する」…ことをお薦めします。 そのような
“充電時間” に恵まれるかたでしたら。

 その意味では…。 もっとも偉大な先生は、貴方自身の
感覚でしょう。

 そして最大の敵は…。 「このぐらいの肉体的な辛さは
止むを得ない」…という “常識” かもしれません。

 それを突きつめていく…。



 構え方が、もし “完全に” 解ったら…。 それは “楽器
をマスター” したことを意味します。

 決しておおげさな表現でなく。




頭の体操 (131) 漢字クイズ 問題/解答 より

2013-03-28 00:00:01 | 音楽演奏・体の運動

03/28    頭の体操 (131) 漢字クイズ



 これまでの音楽演奏・体の運動』目録 です。




(16) ドーピング薬物  (L) 動頻愚厄仏

 弦楽器を演奏していて、重要な問題の一つが “弓のスピード”。
速い弓にも遅い弓にも、それぞれ難しさがあります。



 昔オケで Viola を弾いていた頃、「弓を使い過ぎだ」…
と、よく言われました。 弓の幅や量のことです。

 これ、色々反論したいこともあったが、自分の弾き方に
“効率の悪さ” があったのも事実。 今にして思い当るの
です。 20年以上昔のことですが。



 当時、仲間の一人から言われたのは、「きっと筋力が強い
んでしょう!」 これ、全然違う。 問題は、見かけの弓の量
や速さだけではないから。

 「弓のスピードを速く “できる”」…かどうかは、他にも条件
が絡んできます。 弦にかかる弓の重さ、弦と弓との角度、
駒からの距離…。 これらとの関係をすべて頭に入れながら、
試行錯誤を続ける。 スピカートも含めて。

 以上は視覚的要因が主ですが、音量の大小、それぞれに
おける音質の美しさ、身体の脱力感や疲れ、心がどれほど
解放されているか…? 耳や全身の感覚、心の自由さなど
も含めれば、考えてみると大変な分析作業になる。



 “筋力が強い”…ということは、「力には力で対抗する」…と
いう意味になります。 そうではない。 逆に、邪魔している
マイナス要因に気付き、無くしていく努力が大切なのです。

 一方では、「Violin を弾くのに必要な体力を養う。」 その
ような主旨で書かれた書物も見かけるのですが…。

 「力が要るな。 まあ、このぐらいの力や、身体の疲れは、
Violin では当然必要に違いない…。」

 その前提を崩さぬ限り、力で対抗する以外ありません。



 …一見常識的な真理だと思われる考えであっても、自分
の身体で体験し、試してみること。 逆に “非常識” なこと
は、なおさらなのです。

 私の場合は、これの連続でした。 およそ人間が楽器を
構えるポーズや姿勢は、「ありとあらゆる形を試した」…と
思います。 逆立ちする以外は。

 顎当て、肩当てなど備品の有無も含めて。 そして、そこ
から生じる、身体の “寸法や角度の変化” を頭に入れつつ、
「どうしたら弾き易くなるのか?」を考えながら。

 自称 “人間モルモット”。 かなり身体を痛めつけたこと
もありました。 今思えば。



 「力を抜け!」とは、およそ、どの世界でも指摘されること
です。 でも問題は、“原因がある”…からこそ、生徒さんの
力が抜けないという事実…。 それは往々にして、形、寸法、
角度の問題です。 身体の寸法を有効に使うための “形”
を、全身に亘って理解する必要があるのです。

 それに着目しない限り、時間と体力と根性の勝負になる。
無駄とは言わないまでも、効率が悪く、苦しい。

 生徒の置かれた事態を指摘するだけか、それとも、原因
や手順を示しながら生徒をリードしていくか? 先生にも
色々タイプがありますね。 生徒のほうでも、そういう意味
での “相性” を、見極める必要があるでしょう。



 教師といえども、Violin の先生を含めて、およそ自分が
体験した事しか教えることが出来ません。 自分の、その
世界を頭脳や感覚で統合し、一つの “常識” を作り上げ、
それを “真理” として主張しているに他ならないのです。

 もちろん、「自分の信じていることと、違う世界がある。」
…と考える柔軟性や謙虚さに恵まれたかたも居る。 その
ような人の世界は “開かれている” ので、情報の交換や、
自身の、さらなる成長も可能です。

 でも必要なのは、先生自身が、これまで体験したことの
ない感覚を追い求め、眼を開くことでしょう。 たとえどんな
に偉大なかたであっても。 「自分は奥義を完全に捉えた
!」…と思ってしまったら、その人はそれでお終い。



 私のチンタラ奏法…。 これから一体どうなるんでしょうか?
たったここまで辿り着くにも、長い年月がかかりましたし。

 でも筋力増強剤だけは、一度も使ったことがありませんよ?

 当たり前のことなんだけどね…。