マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

『オメラスから歩み去る人々』

2011-06-17 | book
アーシュラ・K・ル・グィン作(初出/1973)の短い小説(文庫で12ページ弱)を読みました。
あっという間に読めますが、先日偶然手にとって以来心の中から離れません。

ジャンルはSF、でも絵空事ではない気がする、こわい寓話です。
特に原発の事故を目の当たりにした今は。

明るく清潔な町で便利な暮らしを享受する、多くの人のしあわせは、
あたかも社会契約があるかのような、犠牲の上に成り立っている、ということを直視させられます。
毎日被曝しながら働いている原発ジプシーと呼ばれる労働者が居ることを知りながら、
またレアメタルやウランがどこでどのように掘り出されているのか…
…私たちは、見て見ぬふりをして暮らすことで、
表面上の平穏な社会を保っています。

いけにえを必要としたインカ帝国、植民地によって繁栄した欧米諸国、
奴隷制度のおかげで豊かな大国にのし上がったアメリカ…
古代から結局何も変わっていないのかもしれないと思うと、つらくなります。

本をテーブルの上に置いてテレビを見たら、
女性の経済評論家とやらが、社会のバランスのために…社会のラーニングとして…リスクが必要…
などとしゃべっています。
自分の発言に全く後ろめたさも感じないらしい厚顔無知に吐き気すら催します。

「オメラスから歩み去る人々」の最後にル・グィンが書きます。
たった一人の少年の犠牲の上に成り立っているユートピア「オメラス」から暗闇の中へ歩み出す人々がいる…
『かれらが赴く土地は私にはそれを描写することさえ出来ない。それが存在しないことさえあり得る。しかし、彼らは自らの行き先をこころえているらしいのだ。かれら……オメラスから歩み去る人々は。』


“SF短編傑作選「きょうも上天気」”角川文庫 2010
   朝倉久司 訳   大森望 編
  フイリップ・K・ディック   カート・ヴォネガット・ジュニア
  アーシュラ・K・ル・グィン  他
 (ル・グィンは「ゲド戦記」のようなファンタジーの他に多くのSF、詩を書いています。)           
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