赤い嘘日記。 ６月２２日

　なぜだ。
　昨日から今日にかけて、たった１日の間にもう３回以上、クモの巣にかかった。
　もしかして獲物と勘違いされてる？
　もしかしてオレが黒いからか？　黒い生物はだいたい昆虫とか？
　いや違う。やつらに目はない。
　ということはなにか？　偶然とでもいうのか？
　たしかにゴキブリがバルサンで倒れているのを見た友人が「これ、誰？」とかオレに聞いてくるが。オレは「あぁ、親戚のおばさん。前はあんなに元気だったのに……」とか答えるが。
　それって冗談じゃないのか？　オレってホントは人間じゃなくて、蟲？
　……でも、そっちのほうがいいかもしれない。
　蟲だったらすぐ死ねるもんね。一生が短いもんね。
　今朝、大きな虫を見た。体長６センチくらいの大きな黒い虫。ブラックボディに白い斑点が浮かんでいて触角が異様に長かった。気持ち悪かった。
　昨日、放課後、誰もいない学校のキャンパスを、メガネを外して歩いてみた。
　目の悪い友人がメガネがないと吐き気がするとか言っていたので、試してみた。
　何も見えなくなった。見えているけど見えていないのと同じだった。
　よく通る場所なので見えなくても歩けるのだが、たしかに気持ち悪くなってくる。
　というか最近はメガネをかけていても気分が悪くなる。メガネの度が激しく足りないのである。誰かメガネを買ってくれ。
　ここ１年、私の周りの環境が目にも止まらぬ速さで変容をとげている。まるで私の精神状態と呼応するように変化している。いろんな人間を巻き込んできたし壊してきた私だが、今はちょっと幸せである。
　人間を嫌うことをしつつなぜか助けを求めていた馬鹿な私が、ようやく大切な人を守りたいという気持ちを持つことができるようになっている。
　人を愛するとはどういうことか、いまだによくわからないが、漠然とわかってきたような気もする。
　そういえば少し前から、左手薬指に指輪をはめている先生がいる。昨日、授業をすっぽかしたあの教師である。彼の指に光る指輪……ちょっと眩しい。特に私は教卓のまん前なのでよく光が反射してくる。
　それはともかく、私は今日、自分の左手小指に赤い線があるのを見つけた。
　それを見ると、自分の一番大切に想っているあの子のことを思い出す……。二人の絆は、強いはずである。少なくとも、ボクはそう思っている。
　いつだったか弟が私たちのことを「運命共同体だね」と評した。なかなか気の利いた言葉だったし、よく当てはまっていると感心した。
　私は運命を信じることにした。彼女との出会いが必然であるような気がしてならないからである。
　そんなようなことを小指の赤い線が考えさせる。
　私は今も小指を見つめて、赤い線を見つめて、あー、固まってきたなぁ、と思う。
　これが運命の赤い糸なら消えなくていいのだけれど、実はただの切り傷なので早く消えてほしい。
　彼女に舐めてもらったら早く治るかなぁ……。