暇人に見て欲しいBLOG

別称(蔑称)、「暇人地獄」。たぶん駄文。フリマ始めました。遊戯王投資額はフルタイム給料の4年分(苦笑)。

ぶっちぎり嘘日記 11月22日

2005年11月22日 16時29分35秒 | 日記系
 風邪をひいたりしなかった。
 寝込んで学校を休んだりしなかった。
「今日は“いい夫婦の日”だね」と誰かが言った。
「触れるな。ドンタッチミー!」と誰かが言った。
「近寄るな! バイキンマン!」と誰かが言った。
 くだらないのでもうやめようと思わなかった。
 厚着しすぎて苦しいよう、と思わなかった。
 今日はこれからアルバイトの面接じゃない。
 これからすぐ20キロ離れた面接会場に行かなければいけないなんてことはない、はずだ。



 気がつくと僕はクモの糸に絡まれていた。
 ぐるぐる巻きになっていて金縛りのように身動きできなかったが、まぶたと眼球のみ動かせた。
 あたりにはクモの丈夫そうな糸が無数に張り巡らされており、巨大な巣を形成していた。
 かなり遠くに巣の主であろうクモがいた。
 黒く禍々しいその体躯は、僕を身震いさせるのに十分な演出だったが、あいにく身震いすらできない状況だった。
 どうせ目を開いていても眼球が乾燥してしまうだけなので、僕は目を閉じた。
 やがて何かの振動を感じたような気がして目を開いてみると、クモが近づいてきていた。
 目の前にクモが来てようやく、クモの大きさを理解した。
 体長3メートルといったところだろうか。
 闇色の体をきしませながら、クモは動いた。目がないから体に黒でない部分はなかった。
 ……目がないのにどうやって僕の居場所がわかったのだろう。
 普通のクモは振動で獲物の位置を見極めるという。しかし今の僕は振動を発生させることができないはずだ。
 そう思った途端、
「ほう、かしこい人間だな」
 誰かの声が聞こえた。
 まさかこのクモの声だろうか。
「そのとおりだ」
 僕は驚きの表情を作りたかったが、失敗に終わった。ただ、まぶたをすばやく開くことしかできなかった。
「私がどのようにしてお前の位置を特定したか、知りたいか」
 知りたい。
「ふむ。まあ、教えてやらんこともないがな」
 教えてくれ。
「それは……」
 それは?
「…………」
 …………
「なにやってんの、はやく起きなさい!!」
 突然耳に入った母の声に、僕は驚いて飛び起きた。
「あら、やっと起きた。あんた、布団でぐるぐる巻きになっちゃってるじゃない。そんなに夢の世界がすきなのかしら?」
 まさか。とんでもない。あんな馬鹿みたいにでっかいクモに食べられそうになるんだ。現実のほうがまだマシだよ。
 母は「はやく学校行かないと遅れるわよ」という定型句を残して部屋を去っていった。
 腕を動かそうとして、失敗する。
 布団でぐるぐる巻きになった僕の体は自由を失っていた。
 あまりに急に起こされて、バクバクと音を立てる心臓。
 あ……なるほど。
 僕はようやく、クモがどのようにして僕の位置を特定したのか、を理解した。
 心音。音。空気の振動。
 体は動かなくても、生きている限りは心臓は脈打ちつづけているんだ。
 そう。
 僕は……
「生きているんだ」
 布団にぐるぐる巻きにされて身動きできない状態の僕は、そう、つぶやいた。

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