月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 36

2020年05月26日 23時55分12秒 | イン・ザ・ファインダー
 そして、その写真を見て須藤が言葉を漏らした。
 「この男は・・・。」
 「えっ知ってるんですか。」
 「有明新聞の編集部長だ。」
 「知っている人だったんですか。」
 「あぁ、うちの編集部と有明新聞の編集部は情報を提供しあっている。
それで僕も有明新聞の編集部へはよく行くので、この編集部長とは顔見知りだ。」
 「有明新聞の編集部長が中川さんの遺体をここに埋めた。」
 「まさかあの人がと思うが、この写真を見ればそう言う結論になる。」
 「警察は中川さんが殺害されて埋められた可能性が高いと言っていました。
この人が中川さんを殺した犯人。」
 「分からない。事故で死んだのかも知れないが、
そのへんはこの写真を警察に提出して調べてもらうしかない。」
 「編集部長と中川梓さんとは何か関係があったのですか。」
 「仕事上では全くないと思う。愛人がいるとか言う噂はあるが分からない。」
 「でも今日香は何故この事を誰にも話さなかったのでしょう。」
 「多分、中川さんが殺された事を知っていて、それを前提にこの写真を見れば
死体を埋めていると想像できるけれど、この時の今日香さんには暗くて
何が起きているのか分からなかったのではないだろうか。」
 「それで今日香は何も言わなかった。
でも撮影したのが仕事上付き合いのある編集部長だったので
撮影した画像を会社には持ち帰らずカメラからキーホルダー移した。
そして顔馴染みの売店の女性に預けた。」
 「そういえば今日香さんが亡くなってから、この編集部長が来て
今日香さんに預けた写真があるとか言って今日香さんの机の中を探したり、
パソコンやカメラの画像をチェックしていた事があった。
多分この時撮影したメモリーカードや画像データーを探していたのだろう。
結局何も見付からなかったみたいだけど。」
 「多分、今日香は自分が撮影した写真が殺人事件の証拠だとは気付いていなかった。
今日香が大事にしたかったのは一緒に撮ったお台場の夜景だったと思う。」
 「しかし編集部長は死体を埋めているところを今日香さんに目撃され
撮影されたのではないかと思った。それで今日香さんの口を塞ぐしかなかった。」
 「えっ。」
 「つまり中川さんの殺人事件と今日香さんが亡くなった
ヘリの墜落事故は関連している。」
 「確かにそう考えると二つの事件は関連している。」
 「そうだ墜落事故は仕組まれた可能性がある。」
 「事故ではなく殺人。」
 「今日香さんに死体を埋めているところを見られたと思った編集部長は
部下の整備士に頼んだのか、それとも整備士のIDカードを借りて夜中に
自分で格納庫に入りヘリコプターに細工をした。」
 「でもヘリコプターに細工をした証拠はあるのですか。」
 「事故調査委員会は突風のためと結論を出したが未だに膨大な資料や
墜落現場の写真は残っている。それらをちゃんと警察が調べれば分かるはずだ。」
 「事故に見せかけて今日香は殺された。」
  私はつぶやく様に言った。
 「少なくともヘリコプターを墜落させる理由は見付かった。」
 「そう言えば私は中川さんの遺体が見つかる前に第三台場でこの男と遇っています。
今考えるとこの男は須藤さんが雑誌に載せた心霊スポットの記事を見ていた。
そして、自分が殺した中川梓さんの霊が写っていたので、ちゃんと埋まっているか
死体を埋めた場所を確認しに来たのかも知れません。そこで私と遭ってしまった。
今日香の服を着ていた私を見て逃げて行きました。
私を亡くなった今日香の霊と勘違いしたのかも知れない。」
 「今日香さんと勘違いして逃げたということは編集部長が今日香さんの事故に
関係しているという間違いない証拠だ。」
 私はパソコンに接続しているキーホルダーを握りしめた。
そのままパソコンから外し須藤に渡した。
 「分かった記事用にコピーして僕から警察に届けるよ。
そしてこれは水島今日香の最後のスクープだ親会社の事件なので、
どう記事にするかは編集長と相談するけどできる限り水島の写真を載せるよ。
急げば今月号に間に合う。」
 須藤は今日香を懐かしむようにキーホルダーを握りしめて言った。
 「お願いします。」
 私は今日香の思いを須藤に託した。
しかし、須藤は全く別の話をし始めた。
 「ところでこのあいだ少し話した事なんですけど。」
 「はい。」
 「編集長があなたのコンテストに応募した写真を見て、
うちの編集部に是非ともカメラマンとして迎えたいと言っているのです。」
 「それは以前も聞きました。」
 コンテストに応募した写真は今日香の指示を受けて撮った写真で私の実力ではない。
もう、あの様な写真を取ることはできない。
 「現在いるカメラマンは一時的に他の部署から応援に来ているカメラマンです。
今日香さんの代わりになるカメラマンを探しているのです。
今度は僕からもお願いします。」
 「私にカメラマンは無理です。」
 「うちの雑誌は女性誌です。男のカメラマンは何人かいるのですが、
どうしても女性の感性を持ったカメラマンが必要なんです。」
 「私は今のところ考えていません。」
 「まだ時間はあります。しばらく考えてもらえませんか。」
 「分かりました。」
 私は断るつもりでそう返事をした。
須藤は私が受賞した事を、まだ知らされていないようだ。
私が一席を取ったと知ったらますます押されて断れなくなる。
 私と須藤はネットカフェを出た。須藤は会社に戻ると言って帰って行った。
私も家に戻りキーホルダーの事を今日香に伝えようと
今日香のカメラのファインダーを覗いてみた。だけど今日香は現れなかった。
 
 それから数日して有明新聞社の編集部長とヘリコプターの整備員が
逮捕されたニュースが流れた。
それと同じ頃に須藤の書いた中川梓さん殺人事件の真相が雑誌に載った。
須藤の記事では中川梓さんは編集部長の愛人の同級生で中川さんは愛人の事を
理由に編集部長をゆすっていたという。
 私は今日香を殺した犯人が捕まったと今日香に報告しようと
ファインダーを覗いてみた。
またも今日香は現れなかった。私は嫌な予感がした。
今まで心霊写真に写った霊は遺体が発見されると消えていた。
多分、霊は思いを遂げると消えてしまうのかも知れない。
もしかしたら私がキーホルダーの画像データーを見付けた事で
今日香は思いを遂げてしまったのかも知れない。

 私は由紀ちゃんの誕生日に本屋さんのレジで由紀ちゃんにプレゼントを渡した。
 「ありがとう。」
 そう言って由紀ちゃんは中を開けた。
 「最初はアクセサリーにしようかと思ったんだけど就職も近いし
実用的な方がいいと思ってそれにしたの。」
 「うわぁ、あのブランドの素敵なボールペンのセットありがとう。
こんな高価な物、普段使えないわ。」
 「そう見えるだけで、そんな高い物じゃないの。普段使って。」
 「ありがとう。」
 「こっちこそありがとう。」
 「えっ。」
 「由紀ちゃんのプレゼントを探していた時に今日香が残した鍵の意味を見付けたの。
そして中川梓さんの事件の鍵も見付かったの。」
 「へぇ、なんか推理ドラマみたい。」
 「本当にそうね。」
 そして、今日香はその後もファインダーの中に姿を見せなかった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿