月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 30

2020年05月20日 03時37分20秒 | イン・ザ・ファインダー
十一月

 須藤は雑誌の翌月号に心霊写真と殺人事件の話を大きく載せた。
テレビでも中川梓さんは別の場所で殺されてからあそこに
埋められたらしいと報道していた。
でも未だに犯人は見つかっていなかった。
そんな時、須藤から話があると言われた。
私は本屋さんのアルバイトが終わってから夜に
須藤と待ち合わせたファミリーレストランに行った。
須藤はあまり人に聞かれたくない話だと言っていたので、
そのファミリーレストランは家からは離れていて
知り合いはほとんど来ない所だった。
 須藤は既に来ていた。私は須藤の向かいに座った。
店員が来たので須藤はドリアを私は海鮮リゾットを注文した。
食事が終わってコーヒーを飲みながら須藤は持ってきていた
資料の一部を私に渡した。
 「これは今日香さんが亡くなったヘリコプター墜落事故の
調査委員会が出した資料です。」
 それは以前に私も一度見た事があった。
 「あれは突風による事故だと聞いてますけど。」
 「えぇそう報告されています。
僕はあの事故が起きてから事故のことを調べられる範囲で調べてみたんです。
もしかしたら僕も死んでいたかも知れない事故だからです。」
 「はぁ。」
 「確かにあの日は強風が吹いていましたがヘリが
離陸した飛行場の担当者は飛行に支障が出ないと判断して
飛行を許可しています。」
 須藤がそう言ったので私は以前、事故の説明で聞いたことを言った。
 「ただ突風は地形や場所によって様々なので墜落現場付近では
強い突風が吹いていた可能性があると。」
 すると須藤は別な資料を私に渡した。
 「これは事故当日の気象観測データーです。
この資料によるとヘリが墜落した辺りでは、
それほど強い突風が観測されていないんです。」
 「えっ。」
 「知り合いの気象予報士にも確認したんですが墜落現場付近では
当日の気象条件から判断すると墜落現場付近で突風が発生する確率は
少ないということでした。また突風が起きにくい地形だとも言っていました。」
 「でも調査委員会が出した報告では墜落現場付近の突風が原因だと。」
 「この日は突風による事故が他でも多発していて最初から原因を
突風と決めつけてしまったのかも知れない。」
 そう言われて私は資料に目をやった。
 「調査が不十分と言うことですか。」
 「本当の原因に至っていない可能性はあります。」
 「何か他の原因があったのでしょうか。」
 「多分そうではないかと。」
 「操縦ミスがあったとか。」
 「ヘリを操縦していた操縦士は結構ベテランで飛行経験も長いので、
操縦ミスの可能性は低いと思います。
問題はヘリコプターの整備だったのかも知れないと思います。」
 「整備不良での墜落。」
 「ヘリコプターは横風を受けた場合にヘリコプターの姿勢を
安定に保つ仕組みがあるのですが、それがうまく働かなかった可能性もあります。
ヘリを墜落させる突風の様な強い風でなくても、
ある程度強い風が吹くとヘリの姿勢が保てなくなった可能性もある。」
 「証拠があるのですか。」
 「いえ僕の想像でしかありません。」
 「そうですか。」
 「ただ気になる事があるのです。」
 「それは何ですか。」
 「あの日の取材は朝一番だったのでヘリの点検は前日に
実施して当日は簡単な点検だけでした。」
 「今日香も朝一番で飛行場へ向かいました。」
 「僕も向かったのですが朝のラッシュと強風による交通機関の乱れで
遅れてしまいました。
それとヘリのチャーター時間の関係があったので取材は
今日香さんが一人でヘリに乗ったのです。」
 須藤は私に謝るように言った。
 「そうだったんですか。」


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