月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 34

2020年05月25日 00時59分42秒 | イン・ザ・ファインダー
一月

 お正月はどこにも出かけず寝正月だった。
由紀ちゃんは大学の友達とスキーに行くと言っていた。
今さら家族三人で旅行に行く気もしなかったので私と一緒に
父と母もずつと家にいた。
三人そろって近くの神社に初詣に行った以外はどこにも行かなかった。
 私の初詣の願いは毎年同じで結婚だった。
子供の頃に父と母と今日香と私の四人で同じ神社に
初詣に行ったことを思い出す。
あの時からもう三十回以上も初詣の度に同じ願いを願い続けているのに
未だに叶っていない。
私の周りには霊はいるけど神様はいないのかも知れない。
 今年は会社を辞めて初めてのお正月。
今まで会社関係の人から来ていた年賀状が来なくなり
今年の年賀状は少なくなった事が寂しさを感じた。
 お正月も終わり年明け直ぐに本屋さんのアルバイトに行った。
年初のアルバイトは午後からだったけどお客さんはほとんどいなかった。
 「明けましておめでとうございます。」
 おじさんに新年の挨拶をした。
 「おめでとうございます。」
 おじさんが言った。
 「今年もよろしくお願いします。」
 私がそう言うと由紀ちゃんも来た。あらためてみんなで新年の挨拶をした。
 「明けましておめでとうございます。」
 「今年もよろしくお願いします。」
 新年の挨拶が終わると、おじさんは奥へ行った。
由紀ちゃんと私は本の整理を始めた。
 由紀ちゃんは就職も決まって四月からは本屋さんの
アルバイトには来なくなってしまう。
 「就職先はどういうとこなの。」
 「アパレル関係。」
 「写真関係じゃないの。」
 「私の所属がまだ決まっていないけど、会社の中でもしかしたら
そういう仕事にあたるかも知れない。」
 「プロの写真家にはならないの。」
 「多分、写真家では食べていけないわ。」
 「そうなの。」
 「明日香さんこそプロの写真家を目指したら。」
 「私は写真に興味ないもん。」
 「へぇ、あんないい写真を撮ってコンテストで受賞したのに。」
 あれは今日香が取った賞よ。
 「あれは偶然にたまたま撮れただけ。」
 「そういえば写真コンテストの授賞式は来月ね。」
 「そうかぁ、やだなぁ。」
 「何言ってるの。うれしい事じゃない。」
 そのことを考えると憂鬱になる。何か話を変えよう。
 「そういえば由紀ちゃん今月が誕生日よね。何か欲しいものある。」
 「新しい一眼レフ。」
 「だめ高すぎる。」
 「そうよね。」
 それから本屋さんにはお客さんが来始めたので、私達はレジに着いた。
 一月も半ばになって、お正月気分は消えていた。
商店街では成人式の帰りと思われる着物を着た女性が何人か歩いていた。
私もあんな時があったなぁと本屋さんのレジから外を見ていた。
そして由紀ちゃんの誕生祝いの事も思い出した。
次の休みの日に渋谷に行った。
ウィンドウショッピングをしながら由紀ちゃんのプレゼントを探した。
どんな物がいいだろう。写真関係の用品を見てみた。
確かに貰ってうれしいけどプレゼントには向かない。
就職祝いを兼ねているから実用的な物がいいだろうか。
 そんな事を考えながら歩いていると私の足は
アクセサリー売り場で止まった。
ネックレスだけど下を見ていくと鍵が下がっている。
そうではなく鍵の形をしたアクセサリーがネックレスに付いている。
それを見た私はある事を思い出した。
何故かそのアクセサリーの鍵はお台場の売店で受け取った
今日香の残した鍵に似ていた。
 それよりプレゼント探しの方を急がなくては。
プレゼントは安物ではだめだし高すぎても貰い辛いだろうし迷ってしまう。
その後あちらこちらの店を覗いたけど色々考えて、
由紀ちゃんには実用的でちょっと高級感のあるブランド物の
ボールペンとシャープペンのセットに決めた。
そしてプレゼント用のラッピングをしてもらった。
まぁ就職も近いし由紀ちゃんの邪魔にはならないだろう。
 家に戻ってきて気になったので今日香の鍵をもう一度見てみた。
確かにこの鍵はアクセサリーの鍵かも知れない。どういう事だろう。
アクセサリーの鍵をお台場の売店の女性に預ける必要があるの。
安物なら預ける意味はないし高価な物なら預けられない。
今日香はどういう気持ちでこの鍵を売店の女性に預けたのだろう。
 そう言う考えが違うのかも知れない。
アクセサリーの鍵を預ける理由は何もない。
もしかして重要なのは鍵ではなくキーホルダーかも知れない。
私はキーホルダーのマスコットの部分を回してみた。
キャップが外れて出てきた物はカメラとパソコンなどを
つなぐマイクロUSBの端子だった。


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