月の海

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イン・ザ・ファインダー 39

2020年05月30日 00時45分28秒 | イン・ザ・ファインダー
 数日後の有明新聞社の日曜版に写真コンテストの結果が発表されていた。
一席として私の写真が大きく載っていて、
その横に授賞式での私の写真も載っていた。
朝食の時に新聞を見た父がみんなでお祝いをしようと言った。
だけどこの歳になって家族に祝ってもらっても、
そんなに嬉しくなかったのでそれとなく断った。
朝食が終わってから居間で母が新聞を見ながら言った。
 「昔、今日香もこのコンテストで二席に入った事があって
家族でお祝いしたのを思い出すよ。」
 「そんな事あったっけ。」
 私が言うと母は。
 「あったよ、ずっと昔。それにしても明日香が一席を取るなんて
今日香もきっと驚いてるよ。」
 そう今日香を思い出すように言った。
私の顔は写真に写ると相変わらず今日香の顔になる。
私は母の横で新聞を覗き込みながら言った。
 「ねぇお母さん。これは今日香じゃなくて私だよ。」
 「当たり前でしょう。これは今日香じゃなくて明日香よ。」
 母はそう言った。
 「でもその写真の顔は今日香の顔に見えるでしょう。」
 「何言ってるの私が娘を見間違えるわけないでしょう。
これは明日香の顔で今日香の顔じゃないわ。鏡で自分の顔でも見たら。」
 私は立ち上がり洗面所へ行った。洗面所の鏡で自分の顔を見てみた。
この時私はやっと気付いた。
このところファインダーの中に今日香の姿が見えないと思っていたら
こんなところにいた。
今日香は私の中に移っていた。そうじゃない。
もともと今日香は私の中にいたのだ。
 「そうよ。」
 今日香の声が聞こえた。
 「声じゃないわ。」
 「えっ。」
 「私達は双子だったから言葉を交わさずに意志が伝えられた。」
 「今もそう。」
 「私は何度も明日香に呼びかけていたけど、なかなか気付かなかった。」
 「それを私に気付かせるためにファインダーの中に現れた。」
 「長年使ってたカメラだからできたの。」
 私はこの時決意した。
 「今日香、私はあなたの望みを叶えてコンテストで一席を取った。
だから今度は今日香あなたが私の願いを叶えて。」
 「いいわよ。」
 「私の願いはただ一つ、子供の頃から三十回以上、
毎年初詣のたびにお願いしていた事、それは結婚よ。」
 すると私の中の今日香は直ぐに答えた。
 「いいわその願いは私も同じよ。」
 「えっ、一生、結婚しないって言ってたくせに。」
 「一生、結婚しなかったでしょう。」
 「いつから気が変わったの。」
 「プロポーズされた時によ。」
 「それだから死にきれない訳ね。それじゃあ大翔とリサさんの
関係と同じじゃない。」
 「私はリサと違い、あなたという実体を持っているの。」
 「もしかして私をコントロールして前の会社を辞めさせたの。」
 「それは無理。意識のある人をコントロールする事はできないの。
でも寝ていて意識のない人なら憑依してコントロールする事がある程度できる。
ただ、人にもよるの、憑依しやすい人と、そうでない人がいて、美香さんは
非常に憑依されやすい体質だったの。」
 「そういうこと。」
 「あなたが前の会社を辞めたのを私のせいにしないでよ。後輩の若い子が
次々と結婚して辞めていったので会社に居場所がなかったからでしょう。」
 「違うわよ。多分、あなたが死んだせいかも知れない。
何となく、あなたの無念を感じていたのかも知れない。」
 「そう、でも、これで結婚の道が開けたでしょう。」
 「結婚はあなたの願いでしょう。」
 「そう、お互いの願い。それじゃぁ、いや。」
 「そうね。あなたの代わりを勤めるわ。」

三月

 私の本屋さんでのアルバイトはもうすぐ一年になる。
最初にここにアルバイトに来た時は写真の事なんか全く分からなかったのに。
それが写真のコンテストで一席になったり。長いようで短い一年だった。
写真の仲間と知り合えたのもこのアルバイトが始まりだった。
そして由紀ちゃんもその一人だった。
 「由紀ちゃんは今月で終わりね。」
 「うん。」
 「おじさん寂しがるわ。」
 「多分、次ぎ来る人も写真の好きな人よ。」
 「おじさんのことだからそうだね。」
 「もう由紀ちゃんに写真の事聞けなくなるね。」
 「今の明日香さんに私が教える事なんか何もないわ。」
 「そんな事ないよ。」
 そこへおじさんが来た。
 「由紀ちゃん四月から頑張ってな。明日香ちゃんも一年間ご苦労様。」
 「おじさんも身体に気を付けて頑張ってね。」
 「私たちの替わりは見つかった。」
 おじさんが言った。
 「次ぎのアルバイトは募集しないよ。」
 「えぇ。」
 「どうして。」
 「今月いっぱいで本屋は終わりにするよ。」
 「うそぉ。」
 「ファストフード店になるんだ。」
 「おじさんがやるの?」
 「違うよ。有名なハンバーガーショップのチェーン店が入るんだよ。」
 「確かに今時、本屋じゃ儲からないからね。」
 「あぁ、本屋の時の儲けより、ハンバーガーショップからもらう
テナント料の方がはるかに多いよ。」
 「おじさんの老後の生き甲斐がなくなるんじゃないの。」
 「明日香ちゃんがカメラマンになったことが、おじさんの生き甲斐だよ。」
 「私は生き甲斐はムリ。」
 「まぁ、そう言うなよ。明日香ちゃんが本屋に来て一年ということは、
今日香ちゃんが亡くなって二年だな。」
 「えぇ。」
 
 そして、今日香の三回忌の日が来た。
水島家の墓のある霊園の礼拝堂でお坊さんのお経を聞いていた。
三回忌となると本当に親しい親戚しか来ていない。
焼香が始まったけど人が少なかったのですぐに終わってしまった。
 それから礼拝堂を出て水島家の墓のところまで来た。
今年の霊園の桜は満開で風が吹くたびに花びらが舞っていた。
再びお坊さんがお経を読み上げ墓石の前で一人一人焼香を始めた。
父と母に次いで私も焼香をした。
親戚に続いて一番後に須藤も焼香をした。
やがてお坊さんのお経も終わり、みんなは休憩所に帰り始めた時、
私は須藤に話しかけた。
 「来てくれてありがとう。」
 「来るのは当然だよ。」
 須藤はそう答えた。
 「今日香も喜んでるわ。」
 「もう二年か。」
 「その間、私には色々な事があった。」
 私達は桜の花びらが舞う霊園の道を歩き出した。
 「ありがとう。」
 須藤が言った。
 「えっ。」
 「君がいたおかげで今の自分がいるような気がする。」
 「そぉ。」
 「君に最初に会った時、僕は君に対して何も感じなかった。」
 「そんな感じがした。」
 「でも今の君は違う。」
 確かに私は変わったかもしれない。この一年間色々なことがあった。
おじさんや由紀ちゃんに会って写真を始めた。あの頃はまさか
カメラマンになるとは思ってもいなかった。
 「どう違うの。」
 「今の君には仕事をしていた頃の水島を水島今日香を感じるんだ。」
 「そぉ。」
 「今の君を見ていると今日香が生き返ったようだ。」
 「そりゃそうよ。」
 私の中の今日香が言ったが、私は普通に答えた。
 「そぉ。私も今日香も嬉しいわ。」
 親戚達はみんな休憩所に行ってしまい、ここにいるのは
二人だけだった。
 「明日香さん。以前、考えてみるって言ってたよね。
何度も聞いて悪いけれど、これが最後だから。」
 「いきなりあらたまって何。」
 「うちの会社へ来てカメラマンとして僕と一緒に仕事をしてくれないか。」
 私は待ってましたとばかりに、笑顔を作り直ぐに答えた。
 「えぇ、いいわ。」
 すると須藤は喪服の私を抱きしめて言った。
 「ありがとう。」
 私も須藤を抱きしめて言った。
 「ねぇ、今日香に何て言ってプロポーズしたの。」
 「えっ。」
 須藤は驚いたように私を抱いていた手を放そうとした。
しかし、私と今日香は須藤を抱いていた手に力を入れて
須藤を放さなかった。仕方なく須藤は再び私を抱いた。
私は須藤の耳元でもう一度行った。
 「何て言ったの。」
 須藤も私の耳元で返事をした。
 「普通だよ。」
 風が強くなり霊園内の桜の木が揺れて私は須藤を強く抱いて言った。
 「もう一度言って。」
 今日香が言った。霊園内の桜の花びらがいっせいに飛び散り、
私を強く抱きしめ須藤が言った。
 「僕と結婚してくれないか。」
 抱き合う二人に桜吹雪が舞い散る中、私と今日香は声をそろえて。
 「はい。」
 と言った。

おわり


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