▼ L社は会社分割に伴い、Xに対する退職年金支給債務やそれに係る年金資産を承継したのであるから、それに付随して本件年金規約部分の合意の当事者としての地位も承継したものと解するのが相当であり、L社は本件年金規約中の本件改廃条項に基づき、本件年金規約に基づく合意内容を変更することができる。
▼ 本件改廃条項は、「一般経済情勢の変化、会社経理内容の変化または社会保障制度の改正等を慎重に考慮の上、必要と認める」ことを要件としているが、Xのようにすでに退職している者についてみると、年金支払いの対価部分(労働力の提供)はすでに履行済みなのであり、退職金に係る制度が不利益に変更されても、その代わり雇用が保障されるとか、他の労働条件が改善されたりするというメリットが生じることも考えられないもので、変更は通常受給者側に一方的に不利益なものといえるものであるから、そこでいう必要性の要件は厳密に判断される必要があるというべきであり、その必要性の判断は、B社の地位を継承したL社側の本件年金制度を廃止する必要性の程度と、その代償として採られた一時金支給の相当性の程度とを総合して判断していくべきものである。
▼ L社において、会社の利益の中から年金受給者1人あたり年間約80万円を負担し続けることは、厳しい経済情勢、国際競争の下で、将来的には困難になって、年金給付額の減額も検討せざるを得なくなる恐れがあったところ、同社による本件年金制度の廃止の判断は本件改廃条項に定める一般経済情勢の変化、それに伴う会社経理内容の変化、国の社会保障制度の改正に基づくものであるということができ、相応の必要性、合理性は十分あるといえる。
▼ 本件年金制度の廃止の代償措置として採られた一時金支給については、その支給額をXが受給する年金総額を今後の生存の確率に基づき算定した上、それを年1.5%の運用利回りで現在価額に割り戻した額で算定しており、本来受け取るはずの退職年金の総額と理論上、計算上は等価に等しいといえるもの、あるいはむしろ低利で現在価額に割り戻していることからすると、受給者の側に有利に算定されているものということができるのであるから、受給者の側では一時金支給になることにより一時に多額の税金を支払わなければならない等の不利益を被ることを考慮しても、本件一時金の支給は本件年金制度廃止の代償措置として相当なものであるということができる。
▼ L社とXとの退職金給付に係る合意内容は変更されたというべきであるから、Xの退職年金請求権は、年金一時金請求権に変更されたものと認めるのが相当であるところ、これはL社らの供託により、消滅したものというべきである。
1)本件控訴に基づき、原判決を取り消す。
2)Xの請求(当審で追加した予備的請求も含む)をいずれも棄却する。
3)訴訟費用は、第1、2審とも、Xの負担とする。