legno-Diario-自閉症児は不思議生命体-

~自閉症のすーさん(小学1年生)といい婆さんのなんでもかんでも~

「おうちに かえろう」

2006-05-29 15:48:03 | すーさん
広大な土地に所狭しと咲き乱れる・・・バラ・薔薇・・・腹






爺婆の
「バラの香りに包まれてロマンチックメルヘン幼児ポーズ」
を指令されて素直にやるすーさん。
(注:本人はロマンチックな気分だったわけではありません)








先ほどまで降っていた雨音が聴こえてきそうな可憐なバラ






「シエスタ」(昼休み)という名の一重のバラ






のどかな休日など知るよしもない「ハチさん」







たとえば、

白鳥の優雅な泳ぎには

水面下で必死に足をバタバタさせなければ・・・ならないのでございます。


このような絵に描いたような素敵な休日を手に入れるには、



そうでございます。



「試練」があることをお忘れなく、なのでございます。



爺婆は、先週金曜日に児童精神科のワンちゃん先生の所へすーさんを連れて行き、


眠剤、安定剤を調整して頂いて参りましたのじゃ。


睡眠が安定しない、薬も多め、強めに処方されているすーさんに


あえて試練を申し渡すことにしたのでございます。(鬼婆)


試練のタイトルは、






に乗る



すーさんは電車に乗れないんです。

これは、爺婆に責任があります。


怖がるからと言ってずっと乗せなかったのです。

車での移動ならスムーズだから・・・

他のことでは面倒なことも多いから・・・

この位は・・・よいじゃないか・・・

そんな感じで時が過ぎて来てしまいました。

前回、爺さんがすーさんを連れて電車に乗ったのは去年の2月のことじゃった。

その時のことは余りにも悲惨だったので記事にはしなかったのじゃが、

爺婆にはずっとずっとその宿題?は残っていたのでございます。

ビビる、拒否する、パニックを起こしそうな子に

「きみなら、やればできる!!」

「大丈夫だよ!」

「慣れればいいのさ!」

それらの励ましのような言葉は通用致しません。

かと言って、

すーさんを電車に乗せることに良いアイデアは結局見つからずにおりました。

河川敷から何度となく鉄橋を渡る電車を見せ、

駅の近くへ行けば幾度となく

「電車に乗ってみようか?」 と、白々しく誘い、

電車の絵カードは「東京メトロ東西線」で馴染みを持たせておったのは、

他でもない、この爺婆両名が宿題と向き合うのが

「怖かった」のである。

すーさんに電車に乗せようとしてパニックを起こされるのが・・・

怖かったのじゃ。

爺さんはどう思ったかわからないが、

婆さんはこと電車に関してはすーさんと同じ位置に立っていることを認めた。

すーさんが怖いものと向き合わなければならないのなら、

同じ怖いものを持つ婆さんは便乗させてもらおう・・・と。

「相乗り」ってやつですがな。




改札口に近づくだけで「おしまい」「ないのぉ~」と叫ばれました。

改札を通ってホームへ上がるエスカレーターでも叫びました。

でも、すーさんは

その場に寝っころがって足をバタバタさせたりせず、

爺さんに

「抱っこぉぉぉぉぉぉーーー」


そう言ったのです。

爺さんは23キロのすーさんを抱っこしてホームに上がりました。

ホームに上がると向かい側の上り電車が通過しました。

間髪入れずに下り電車がホームに入ってきました。

すーさんが最も恐れている「自動ドア」が開きました。

爺さんはすーさんを抱っこしたまま乗車します。




すーさんと

「電車に乗ったらチョコレート食べようね」

そう、約束した爺婆は約束通りチョコレート様をすーさんに差し出しました。

チョコレートが差し出されたのを薄目で確認したすーさんは、

それでも耳塞ぎをしている両手を耳から離すことはできませんでした。

すーさんは、

婆さんの手の平に乗っているチョコレートを直接口を押し付けて食べました。

「犬食い」じゃないか? 行儀が悪い!

それでもいい・・・・そう思われてもいい・・・

その後はとりあえずチョコレートを手渡しして食べてくれましたが、

チョコレートの袋は・・・・依然持てないままでした。

電車に乗る = チョコレートが食べられる

すーさんがそうこだわりを持っても・・・仕方ない。 それでもいい。

駅に電車が到着するたびに

「おりるの~~~~~」

「まだ、あと3回止まったらおわりだから」

婆さんはすーさんの苦痛に歪む顔と行き先案内電光掲示板と

自分の怖さをにらみつけていた。



雨上がりのムシムシする目的地の駅に降り立った時にはフラフラだった。

「えらかった、がんばった」

すーさんにはっきり、心から・・・そう言い続けた。

すーさんが立ち止まるたびになぜかそう言っていた。

すーさんは駅から徒歩13分の見知らぬ道を40分近くかけて牛歩。

遅くたっていいさ、電車でここまで来たんだからさ。



色とりどりのバラと香りにすぐには馴染めなかった。

やっとド・緊張から一歩だけ離れられたのは

「シエスタ」という一重の香りの薄いバラを見てからだった。


帰りの段取りを

帰りのすーさんの反応を想像すると

バラの花びらが土の上に落ちる音がはっきり聞こえてくる。

錯覚だとわかっていてもだ。


しかし、すーさんからの乗車拒否が全て言葉だったことが、救いだった。

おうちにかえるよ。

そうだね、電車に乗って帰ろうね。

ないの!歩いてかえるよ。

歩いては帰れないよ。

車に乗ろう。

車はないから、電車で帰ろう。

ないのぉ~、車に行くよ。

電車に乗っておうちに帰ろう。そうしよう?

おうちにかえるよ。


行きの乗車の様子とほとんど変わらぬ「岩状態」のすーさんだったが、

爺婆がマヌケで快速に乗ってしまって

「もう一度電車に乗るよ、ごめんね」 と拝み倒しながらも

3人はおうちに帰ってきた。



【追伸】

すーさんに帰宅後あの電車の絵カードを見せた。

すーさんは「でんしゃ」の文字を人差し指でなぞりながら

「で・ん・しゃ」

そう、言った。