京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

雑多なものを一気に食べれば

2017年04月27日 | こんな本も読んでみた

昨日は雨の一日でした。そこで久しぶりに家でゆっくり、きままな読書でも、ということに…。
この4月は、なんの脈絡もなく、初めて読む作家の作品ばかりを追いました。

『妻籠め』(佐藤洋二郎)『素敵な日本人』(東野圭吾)、共に読後感もよく楽しみました。東野作品は9つの短編が収められていて、お洒落な作品だなと思えるのが3つ、4つ。きっと再読しそうな気がします。が、ひとまずは娘に回すことになります。
『妻籠め』の主人公は大学で教壇に立ち、他者との関わりをほとんど持たずに慎ましく暮らしてきた「わたし」。つながる人との縁、背景が明らかになる「終盤からの鮮やかな反転」が見事です。自分の過去、自分の人生を作ってきた要素を静かな語り口で掘り起こしながら、心に負った傷の養生をしている、かのようで心に残りました。

        
せっかく買ったのだから読まずに放棄はもったいないというだけの理由ですが、読み始めたら滅多にギブアップしません。が、4つの短編が収められた『地鳴き、小鳥みたいな』(保坂和志)は手ごわかったです。

 〈八月十七日だった、午後二時少し前、私は駅に向かって歩いていると編集者である友人から携帯電話が鳴った、K先生が昨日亡くなられたとさっきネットのニュースで見ましたと彼は言った、私は今夜通夜かもしれない、そうでなくても先生のお顔を見に駆け付けなければならないと思い来た道を、わりと広い駐車場のところで引き返した。〉

この読点でつながる長い文章に目が慣れた頃、頻繁に脱線する話題に読むのが億劫になってしまいました。なんとか少しづつ続きをと粘りましたが、どうにも面白くないのです。お終いにしたのでした。

「雑多なものを、時節もわきまえず、一気に食べれば、腹が突っ張って、どうしようもなくなる」。読書も然り。800年も前の貝原益軒の教えが身につまされるところでした。
津野海太郎が、松田道夫の現代語訳文を引きながら紹介しています。江戸開闢から100年ほど経った1710年に出た益軒の『和俗童子訓』。これは、当時の実践的幼児教育のベストセラーだったそうです。「むやみに速読に走らず、ゆっくり読む」「音読する」「手に取った本は最後まで読みとおす」「読んだことは覚える」「複数の本を並行して読まない」などとも教えられていたのでした。

読書環境も変化し、読者である私の年齢も上がりました。最後のあがきをしたものの、これを言い訳にして今回ばかりはお手上げです。綺麗なうちに古書店に持っていこうっと…。


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8 コメント

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遅読 (ろこ)
2017-04-28 11:53:11
こんにちは。
 確かに手ごわい本というのはありますね。
 そして読みずらい文体のものもあります。
 翻訳本の中には、日本語がこなれていない、意味不明なものがあると、読み進めなくなります。
 
 若い頃読んでつまらないと思った本が、いまになってしみじみ面白いと思う本があります。
 『ヘンリ・ライクロフトの私記』ギッシング著がそれです。
 西洋版徒然草のようで、60代になってやっとその味わいが理解できるようになりました。

 貝原益軒の教えは今も生きているというのがすごいですね。
 真理は不変で普遍ということでしょうか。
 
再利用 (Rei)
2017-04-28 15:39:49
この本を待っている人もいると思えば
古書店行きも気持ちが休まるのではないでしょうか?
読書は私の楽しみですから、頑張って読むことはないと自分勝手な言い訳しています。
導入部が入り易いと意外に長編も読み続けられましたが
最近は読書を含めてあらゆることが億劫になり、危険信号です。
楽しいこと、気の向いたことならいいのですが。
松田道夫先生、懐かしい名前です。
私の若い時代大人気、全盛でもう忘れましたが、
幾つかはよんだと思います。
keiさん、こんにちは (テイタイムryo)
2017-04-28 18:45:16
読者登録していただき有難うございました。

読書・・懐かしい言葉になってしまいました。
若いころは片っ端から読んでいました。あ8あまり肩の凝らないものを~)

今は本を読み始めると眠気がやってきて困ります。
ネットの「青空文庫」で古い本ですが読むことが出来ますね!
ギブアップ (ryo)
2017-04-28 19:03:12
こんばんは!
私も滅多にギブアップしませんが
何冊かありますね〜
やはりブックサプライというネットの
本屋さんに託します。
今は、下調べの本ばかり読んでいて、なかなか
好きな本が読めていないのですよね〜
繰り返し読んでみれば…、ろこさん (kei)
2017-04-28 21:33:55
こんばんは。
不勉強で、翻訳本は若い頃のことでして、もうずいぶん長いこと読んでいません。
『ヘンリ・ライクロフトの私記』、いろいろな体験を重ねてこそ味わえる人生の妙味があるのでしょうね。
読むたびに新しい気づきを得る書でもあるのかもしれませんね。

書評を参考に保坂氏の作品を手にしましたが、作品を通した試み、意図…、
さっぱりでした。理解できずに降参です。



楽しみで、Reiさん (kei)
2017-04-28 21:43:33
こんばんは。
津野氏は、年齢を重ねた自分にとっては速くても遅くても通読だけに限らず、
拾い読みも飛ばし読みも十分に読書だと言われています。
読みたいものを読みたいように、ですね。
何度も何度も同じところを読み返してしまって、進まないこともあります。
東野作品、私はこれが初めてです。よかったです。
すっと作品の中に入り込めましたし~。
これからの季節「朝読」も、テイタイムryoさん (kei)
2017-04-28 21:54:40
こんばんは。
あらあらあら、「懐かしい言葉に」ですか~(笑)
肩が凝る読書はもういいですよね。

青空文庫は私も活用しています。
画面上で読むのが嫌で、プリントアウトして読むくらいです。
身近に置いて繰り返し読みたい本と、生涯でどれだけ出会えるのでしょうね。
何冊かは、ryoさん (kei)
2017-04-28 22:01:46
こんばんは。
かつて、どうして面白くないのかがわかるように読みなさいなどと言われたものでした。
頑張って読みました。買ったのにもったいないとも思いましたし(笑)
図書館は便利です。試し読みしてから買うこともあります。
保坂作品は失敗しました。こんな書き方もあるのかと思いながらでしたが、ギブアップです。
調べ物のための読書もありですね。

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