日向ぼっこ残日録

移り気そのままの「残日録」

小説3

2009年01月22日 18時21分01秒 | 小説
「それより、約束が昨日の今日なのに、弁当までつくって来てくれた気まぐれなお姫様に感謝します」
「秀太くんが、あんまり元気が無さそうなことを、剛志君が言うものだから,張り倒して発破をかけてやろうと、張り切って出かけて来たのに。気力がないのはいろいろな事が起こって、鬱になっているのよ。生き甲斐を早く見つけてね」
「おにぎりには、だしまき、麦茶が似合うよ。うまい、うまい」
「秀太、寝ぼけたことを言ってないで、人生経験の豊富な美穂さんに「挫折よりの脱出」の方法を教えてもらえよ」
「失礼なことを言わないでよ。頼りない男どもの相談相手になっている内に、姉御みたいに見られたらしいけど、それ以上のことは何も無い。恋の相手もいなかったし…」
「今は、店にくるお客さんの中に、素敵な人がいて、映画とかドライブに誘ってもらっても、何故かお客さんというか、お得意さんにしか見えないのよ」
「失礼しました。そういう意味ではなく、世間知らずの秀太と比べてしまいました」
「秀太は、夕食は自分で作っているから、味にはうるさいんだろう」
「毎日の事になると、邪魔くさくて適当に誤魔化しているよ。このピーマンの炒め物は美味しいよ」
「お醤油だけで炒めたのよ。油は少なめにして、卵を絡めるの」  
「それにしても、美穂は、料理をいつ覚えたんだ。秀太にも一度作ってやってよ」
「剛志君は知っているでしょう。カウンターの中で調理をお願いしているみっちゃんが作っているのを見て、時々手伝うようになってから覚えたのよ」   
「今日の帰りに秀太君の家に寄って、今日採れたアサリを使って、なにか料理を作りましょうか」
「それはうれしいな、秀太。亜季さんも七時には店を閉めるから、電話しておくよ。四人で美穂の料理を頂こうよ」
「亜季も喜ぶと思うが、美穂さんは、お店はどうするんだ」
「純」に時々行っている剛志に比べて、美穂に「さん付け」しか出来ないのは、よそよそしい気もしたが、本当はもっと距離のある気がしていた。
「金曜日と、土曜日はお客さんも多いが、日曜日はだめなので、わたしは「お休み」になっているの」
「ハマグリは、すましがいいが、アサリは、味噌汁でないとうまくないよ」
「おい、おい、秀太。細かい注文をつけるなよ」 
 秀太は、美穂に甘えているなと感じたが、それは、家族に対する甘えのように安心感を伴ったものであったので、驚いた。