山の上のロックの永~い旅(3)

2021-12-24 11:50:12 | 童話
何年か経った後の大雨で僕は少し動き出したのを感じた。
ズズッ、ズズッと松の木のおじさんの根元が少しずつ遠くなってきだした。
『松の木のおじさん、僕は海に向って進み始めたみたいだ。おじさん、また今度ね。』
『あいょ、元気でなぁ。』
『兎さんや友達のみんなも元気でね。』
『バイバ~イ。』
『みんな、みんな、楽しく遊んでくれてありがとう。バイバ~イ。』
『みんな見えなくなってしまった。』

僕はズズッ、ズズッと森の中を滑って行った。今度は転がらないので楽だったが、ゆっくりと時間をかけて移動して行った。ズズッ、ズズッとゆっくりと滑っているので、蛇やネズミやリスたちにも追い越されたが、ず~と動いて行った。
暫くすると水の流れる音が聞こえ始めた。
『あっ、冷たい。』
僕のお尻と背中が水の中入った。
『ここは小川だ。』
僕はきれいな水が流れている小川の中で止った。山の上からの雪溶け水が流れ込んでいる場所なので水が少なく、魚は居なかった。

『あっ、トンボの子供のヤゴが居る。僕の名前はロック、ヤゴ君は冷たくないの?』
『ずっと水の中に居るから冷たくないよ。』
『ここは水も空気も綺麗で気持ちがいいね?』
『そうだね、山の上のように寒くもないしね。』
『僕は山の頂上から転がって来たんだけれど、ヤゴ君はどうして山の頂上の事を知っているの?』
『僕は行った事は無いけれど、僕のお父さんとお母さんが言っていたよ。』
『お父さんとお母さんは一緒じゃないの。』
『僕たちトンボは、お母さんが水の中に卵を産んだら飛んで行くから、ヤゴの兄弟だけで暮らすんだよ。』
『寂しくないの?』
『兄弟がいっぱい居るから寂しくないよ。』
『ヤゴ君はいつトンボになるの?』
『来年かな。』
『それまで僕とここに居られるね。』
『トンボになって飛んで行ったみんなも、呼べば遊びに来てくれるよ。』
『では、ヤゴ君、トンボのみんなを呼んで、一緒に遊ぼうよ。』
『じゃ、これからみんなを呼ぶね。』

ヤゴは水の中で短い羽根を震わせた。そうして水面が震えるのを見たトンボが集まって来た。

山の上のロックの永~い旅(2)

2021-12-23 11:14:08 | 童話
目が回ったのが直ったので、僕は何にぶつかって止ったのか確かめた。松だ、やっと大きな松の木の根元に居るのが分かった。

『僕はロックという名前です。松の木のおじさん、大丈夫ですか?』
『ああっ、大丈夫だよ。お前のスビードが遅くなっていたので、わしでも止められたよ。もっと速いとダメだったけれどね。』
『ありがとう、助かった。目がグルグル回って大変だった。』
『わしは三百年ここに居るけれど、お前のように転がって来る石を何度か見たよ。』
『そうなの、みんな転がるのが上手だった?』
『ああっ、みんな上手いもんだ。ところで、お前はどこへ行くのだい?』
『僕はね、これから海へ行くんだ。』
『海は遠いよ。』
『海は遠いと聞いていたけれど、そんなに遠いの?』
『ああっ、遠いよ。何年かかるかなぁ。いやいや、何百年かなぁ。』
『そうか、頑張らないといけないなぁ。』
『松の木のおじさん、少しここで休憩させてね。』
『ああっいいよ、好きなだけ居なさい。』

『あっ、何か居る。やぁ、さっきのウサギさんだ。僕の名前はロック、さっきは驚かせてゴメンね。』
ウサギは
『お腹の上に乗っていい?』
『ああっ、いいよ。僕は暫くここに居るからお話しをしようよ。』
『転がって来たばかりだからお腹にも苔がまだ付いていないね。』
『うん、転がっている時に苔が全部取れてしまったんだ。』
『そんなに転がって来たの?』
『うん、あの高い山の頂上から転がって来たんだ。』
『目が回ったでしょ。』
『うん、ぐるんぐるん回って、上か下か、右か左か分かんなかった。』
『大丈夫?』
『もう直ったから大丈夫だよ。』
『ウサギさんは近くに住んでるの?』
『ここから少し上に行った所の穴に住んでいるの。』
『僕が転がって、君の住んでる穴は大丈夫だった?』
『ええ、大丈夫だったわ。これから何処へ行くの?』
『海へ行くんだよ。』
『海って遠いの?』
『僕も知らないけれど、お父さんが遠いって言っていたよ。』
『私も行ってみたいけれど、そんなに遠いのなら一緒に行けないわね。』
『そうだね。僕だけで行ってくるよ。』
僕は松の木のおじさんの根元で暫く過ごした。その間、ウサギがキツネやムササビ達の友達を沢山連れて来て、毎日楽しく過ごしていた。

山の上のロックの永~い旅(1)

2021-12-22 11:25:07 | 童話
僕の名前はロック、今お姉ちゃんや弟とお父さんとお母さんにくっついて、山の上に居る。ここは見晴らしが良くて気に入っている。
雪が溶け、チョウチョやミツバチがお花の蜜を探して飛び、小さな植物が実を付け、そして、次の年また雪が降る。この自然の繰り返しが心地よいのだ。雪の時はブルブルッと震え、春風にホンワカ、ホンワカ。雷にはビックリするけれど、夕立のシャワーは気持ちいい。秋になると小さな木の実が一杯で、動物たちは満腹満腹。

僕達兄弟は、お父さんお母さんにくっ付いて暮らしていたが、永い年月が経って、雨と雪で少しずつ隙間が広がってきた。
お父さんが、僕たち兄弟に
『いつでも自分で行動できるようにしていなさい。』
と言った。

しばらくして、兄弟の中で僕が一番に離れる事になった。雨が強くなってきたが、僕はみんなと離れるのがイヤで、しっかりとくっ付いていた。そして雨が止んで虹が出た。
『お兄ちゃん、虹が綺麗だね。』
『そうだね。』

その時、僕はふあっと身体が浮かんだ。そして、今度はドスンと何かにぶつかった。その後は目が回る位ゴロゴロと転がり始めた。うわっ、う~わっ、止らないよ。
大きな杉の木が
『お~いっ、どこまで行くんだい。』
『分かんないよ。』
大きな熊が
『駆けっこなら負けないよ。』
『今はダメだよ、今度ね。』
小さなウサギが飛び跳ねて
『危ないなぁ。』
『ゴメン、ゴメン、大丈夫かい?』

僕は回転するスビードが遅くなってきたのが分かった。その時、何にぶつかって止った。』
『ここはどこなんだろう?』
僕は周りを見渡した。
『森だ、森の中だ。』

ドッコイショ(3)

2021-12-21 10:35:16 | 童話
これから、おじいちゃんと一緒の時は、おじいちゃんとドッコイショとヨイショと言う競争をしようと思いました。

だけれど、僕が中学生になった時におじいちゃんとドッコイショとヨイショの競争ができなくなりました。

僕は時々、おじいちゃんのいる空に向って大きい声で
『ドッコイショ』
『ヨイショ』と言っています。
いつかおじいちゃんが高い空から、僕と競争するみたいに、もっともっと大きな声で
『ドッコイショ』
『ヨイショ』
と言ってくれると思っています。

おじいちゃんのドッコイショやヨイショが聞こえるのはいつなのかなぁ。

おしまい

ドッコイショ(2)

2021-12-20 10:46:41 | 童話
だけれど、お父さんもお母さんもおばあちゃんもドッコイショやヨイショとは言いません。どうして、おじいちゃんだけがドッコイショやヨイショと言うのかなぁ?

ある日、おじいちゃんが
『なんでおじいちゃんだけが、ドッコイショやヨイショと言うのかだって? それはね、おじいちゃんだけがドッコイショやヨイショと言っても良い年だからだよ。』
と教えてくれました。

『ねぇおじいちゃん、ドッコイショやヨイショと言っても良いのは何才からなの?』
『決まりは無いけれど、おじいちゃんの年から良いんだよ。』
『ふぅ~ん。』
『ねぇおじいちゃん、僕もドッコイショやヨイショと言っても良いのかなぁ。』
『ああ、おじいちゃんと一緒の時だけドッコイショやヨイショと言って良いよ。』
『わぁ、うれしいなぁ。』
『だけれど、おじいちゃんと一緒ではない時は、ドッコイショもヨイショも言ってはいけないよ。』
『うん、わかったよ。』

僕はおじいちゃんから、おじいちゃんと一緒の時は、ドッコイショやヨイショと言っても良いと言ってくれたのでうれしかったです。