この屈辱的な出来事と初めて釣ったヒラメは私の釣り史上、忘れられないものであ
る。七類港では鰺釣りが盛んで沢山の人が興じている。私は朝、早くから精を出し
てマアマアの成績を上げていた。隣の人が釣った一番小さな鰺を餌にヒラメ釣りを
していたので私も真似してやってみた。鰺の尾に針をつけて一メーター程の所に
錘をつけて底で泳がせる。それを置き竿にして鰺を釣る。どれ位たったのだろうか、
竿をチョンチョンとつつき始め、やがてググッと引き出した。隣のご仁、『慌てるな、
もっと持ち込んでから』とアドバイスしながら、私の動きを監視している。穂先が水面
に着くようになると『よーし、合わせて』と再び指示した。
手応えは十分、重い、しかし他の魚と違って引くと言うよりは、ただただ重い。水面
に顔を見せると立派なヒラメで刺身にも十分過ぎる。
これは、大儲けと!。帰り支度も軽快になる。何て単純な男だろう。関街道は車も少
ないしルンルンで帰ることができそうだ。すると二人の学生が車に乗せて欲しいと合
図していた。どうせ方角は一緒だし丁度、気分もいいとこだから乗せてやるか。
ブブーッとアクセルを吹かし加速していた所、横目に見えたものは紛れもなく速度
違反取締りのレーダーではないか、もしかして・・・もしかして。それは、もしではなか
った。
『あー、一寸出過ぎていますな。あそこに乗って』とバスを指差す。
レーダーのプリンタ—が打ち出した紙を見せられる『五十五キロですな、ここは四十
キロだから』『これ、郵便局でも銀行でもいいから納めるように、気をつけて運転して
くださいよ』
馬鹿野郎、取っ捕まったのに気をつけろだと、こっちとら動転してそれどころじゃな
いわい、糞ったれ、ババタレ、何で俺だけなんだ、一杯一杯俺よりスピ—ド出してい
るのが居るだろう、そ・い・つ、を捕まえろ。
車に戻ると、学生が気の毒そうな顔をして『スピード違反でしたか』と尋ねる、
『大したことはなかったよ、ハッハッハ』と見栄を張る。
心の中は『馬鹿たれ、聞きたくもないスピード違反なんて言葉を言うな』と罵る。それ
から沈黙の時間が過ぎ学生が言う場所で降ろしてやった。そこに着くまでの間、速
度を守りながら走る私を尻目に沢山の車がビンビンと追い抜いて行く。
世の中の矛盾を感じながら我が家に着きホッとする。しかし、本日の収支は六千円
の反則金と、このヒラメどっちがどうだろう。
迷える子羊よ,神に縋りなさい
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